Skebでご依頼いただいた、真面目な軍人の女の子が憧れの上官とうっかりワンナイトしてしまい、その後たっぷりと溺愛されるお話
――一日の予定は、すべて頭に入っている。
服装の乱れは心の乱れ。軍服を隙なく着込み、一度大きく息を吐いてから、私は目の前の扉をコンコンと叩いた。
「マルクス大佐、失礼いたします」
「ん……おはよう、イーリス。今日も早いね」
レグルド王国の国防を担う中央軍部。その中でも花形と呼ばれる第二連隊隊長――マルクス・オリュディティアス閣下は、今日も誰よりも早く執務を開始していた。
「あなたほどでは……大佐は些か働きすぎのような気もします」
「お、そうかな? ここ最近の仕事内容は、オリュディティアスの若造はいくらでも使い潰してやれっていう気概を感じるんだけど」
「無能に仕事は与えられません。どの執務も皆、大佐の技量を見込んでのものです。いずれは中央軍部を任せたいという、国王陛下や将軍閣下の思惑もあるのでしょうが」
「そう? なんかオレからしてみたら、もう爺さんたちの嫌がらせの域なんだけど……ま、イーリスが段取りを組んでくれるんなら心強い。今日もよろしく頼むよ」
オリュディティアスの赤と呼ばれる特徴的な赤い髪を揺らして、マルクス大佐は豪快に笑った。
マルクス様の生家は、建国当初から国王の剣として軍事に携わっている軍人貴族――彼自身も三十を過ぎた頃合いではあるが、その家名と軍部での活躍を認められ、若くして最も多忙で最も苛烈と呼ばれる第二連隊を任されていた。
特に軍部のトップであるミーコット将軍は、このマルクス大佐を実の息子か孫のように思っている。元々彼の父親と交友があったという将軍は、その父親が亡くなってからより大佐に目をかけてくれるようになったという。
「……げ、ミーコットの爺さんからまた手紙届いてる……イーリス、これうまいこと返事代筆できない?」
「不可能かと思います。以前も同じように、私が大佐のお手紙を代筆しましたが……」
「あの時はバレて乗り込んできたんだっけ? わかったよ、オレが返事書いとく――けど、正直今は見合いなんてしてるヒマないんだよなぁ……」
朝の仕事の一つである、大量に届いた書類の振り分け――おおよそは彼の腹心である私のもとで仕分けをすることになるのだが、高位の軍人から直接書いた手紙などはそのまま大佐のもとに届けられる。
件の将軍から毎月のように届く見合いの勧めは、早くに父を亡くしたマルクス大佐への気遣いなのかもしれない。
「大体、こっちはこっちで仕事山盛りなのに。今こんなことしてる余裕はないって、あの爺さんならわかってそうなもんだけどな」
「きっと、将軍なりに大佐のことをを気にかけてくださっているのでしょう」
「その気遣い必要ないなぁ。とにかく今は結婚とか考えてないし……それ以外にも、やらなくちゃいけないことはたくさんある。イーリス、この書類北部第三連隊のオルフェウスに送っておいて」
緩やかに首を横に振りながら、大佐は転送が必要な書類をいくつか私に手渡してきた。
おおよその振り分けが終わると、彼は軍部の定例会議に出向かなければならない。私は彼の秘書官として、その会議に同行することが決まっていた。
「ねぇ、昨日任せた六十七小隊の報告レポート、アレってもう目を通した?」
「はい。国境警備における物資の不足と、先日の豪雨による農民たちへの被害状況がまとめられていました。すでに関係省庁には連携を取っておりますのでご安心ください。七十三小隊を増援として派遣予定です」
「仕事が早いな。……了解。じゃあこれ――サインしておいたから、速やかに復旧作業に当たるよう。現場指揮官として小隊長のキィルとレベッカを立てて、できるだけ細かく状況を伝えるようにしてほしい」
第二連隊の仕事は多岐にわたる。国防から関所の管理、更には王族直轄領で災害が起こった際の緊急対応――王族の警備に当たる第一連隊がある種の名誉職であるのと比較すると、この第二連隊が平時においてはもっとも多忙であると言えた。
大国と隣接する砦を守っている北部第三連隊や、機密処理を行う特別情報局と比べると華やかな仕事には見えるが、あまりに仕事が多いため退官する人間も続出する有様だ。
(特に階級が上がると、仕事が減るって思ってる人間もたくさんいるし……)
そりゃ雑用雑務は減るだろうが、階級が上がればそれだけ責任が付随した仕事が増える。
仕事が忙しいと文句を言いに来る人間もいるが、連隊の長である大佐が最も忙しくしている様子を見ると誰もが黙り込んでしまうのだ。
「……イーリス」
「はい、いかがなさいましたか?」
「君、オレのところに来てどれくらい経つ?」
手元で大量の書類をさばきながら、ふとマルクス大佐はそんなことを尋ねてきた。視線は書類から上げず、手元は常に動かしながらの質問に、そっと首を傾げる。
「そろそろ三年になります。その――コーフィルト事件と同じ年に、拾い上げていただいたので」
「うそ、アレからもう三年経つの? ……そりゃミーコットの爺さんも見合い勧めてくるわけか。どうも忙しくしてると、月日が経つのは早いね」
三年と告げると、ようやくそこで大佐が顔を上げた。
コーフィルト事件――三年前に起こった軍部の汚職事件は、建国史上最悪とまで言われた大規模なものだった。
国内で力を持っていた複数の貴族が、武器商人から多額の献金を得て粗悪な備品を大量に仕入れていたというこの事件は、あらゆる利権が絡んで軍部を揺るがした。
よりにもよって税金をかけて兵の装備を弱体化させたということが発覚して、国王陛下は大激怒。一連の騒動で随分と糾弾される人間も多かった。
(そうか……あれから、もう三年……)
かくいう私も、当時の上司に罪をなすりつけられて投獄されるところだった。すんでのところで事件を調査していた大佐に助けられてからは、彼の副官として仕事の補助をするようになったのだ。
「オレとしては、イーリスみたいに有能な部下ができたのはかなりラッキーだったけどね。正直、これまで副官の子が半年以上オレのそばで働き続けたことってなかったし」
「……まぁ、この仕事量ですからね」
私は地方の下級貴族の出だが、およそ第二連隊長の副官と言えば名のある貴族の子弟が付くものだ。
誰よりも仕事に厳しく誰よりも忙しい――そんな大佐の仕事っぷりに音をあげる人間が続出していたという話も、彼の口から聞いている。
「上官が仕事サボッてたら下がついてくるわけないだろ。これに耐えられないなら最初から仕官なんてやめた方が堅実だ」
万年筆のペン先を滑らかに動かした大佐が、いっそ清々しいと思えるほどの笑顔を浮かべてそう吐き捨てた。
あらゆる感情が込められたその言葉に曖昧な笑みを返した私は、迫る会議に備えて資料を彼に手渡した。
「流れはすべて頭に入っていらっしゃるとは思いますが、念のために。それと……本日の夕刻からは隣国の大使を迎えた酒宴がございます。大佐にも出席をしていただきたいとのことで」
「……いいけど、イーリスは? 君もオレの副官として出席するんだろ」
「いえ、私は……その」
酒宴と言えば聞こえはいいが、このあたりはいわゆる外交の領域だ。本来ならば大佐が出席する義理はないのだが、こういった繋がりは後々に効いてくる。ミーコット将軍はそのことをわかっていて、こういう席には必ず大佐のことを呼びつけていた。
だが、隣国の大使は相当な女好きで有名――十中八九、今日は高級娼婦を招いての宴になるだろう。
「娼婦は嫌い?」
「彼女たちには彼女たちの理念があってその職に就いています。仕事の内容は違えど、彼女たちもまた国益のためには必要な人員であり、大きく見れば戦友と言えるでしょう」
そう、別に娼婦がどうこうとは思っていない。第一、国交の場に召喚される高級娼婦たちは芸事のスペシャリストだ。
だが、その場に居並ぶ男たちが同じような覚悟があるかと言われれば、答えは否だろう。
「……じゃあ、そこにいる男たちが嫌いなわけだ。とはいえオレも、副官なしってわけにもいかないし――控室用意してもらうから、頃合いを見てそっちに移動してもらうってのは?」
「お心遣い、ありがとうございます。それでしたら……」
昔から酒宴の場は得意ではなかった。大佐の副官になってからは妙な人間に声をかけられることもなくなったが――酒の場にいるのなら、たとえ軍服を着ていてもただの女だと思う輩があまりにも多い。
「最初はオレのそばにいてくれたらいいし、美味しいものだけ食べたら下がっていい。本当は、嫌がる人間を無理矢理連れて行きたくはないんだけど」
「いえ……こちらこそ、無理を言ってしまい申し訳ありません」
「無理言ってるのはオレの方だから、あんまり気にしなくていい――と、そろそろ時間か。とにかく、最初だけ一緒にいてくれたらいいから」
向けられた笑顔に、そっと頭を下げる。
男所帯の軍部で働くにあたり、ある程度のことは割り切ることができるようになっていたが、こればかりは苦手だった。
大佐がそれについてかなり理解を示してくれる人だというのが、私にとっての救いだ。
(そう――三年前と比べたら、どれもこれも夢みたい)
女だからとろくな仕事を与えてももらえず、いざ不祥事が起きた時にはトカゲの尾のように切り捨てられる。
そんな扱いに比べれば、マルクス大佐のもとで働けるのはまさしく天国のようだった。しっかりとした立場と仕事を与えられて、国のために力を尽くすことができる。
(だからこれ以上は……望んだら罰が当たってしまうわ)
会議に向かう上官の背中を見つめて、ほんの少しだけ切ない気持ちになった。
――一人の男性としてマルクス大佐に尊敬以上の感情を抱いていることなど、伝えられるわけがない。
彼は私の恩人で、家格も階級もずっと上の人間だ。どれだけ慕っているとしても、その言葉を口に出すことはできない。
(それにきっと、大佐だってそんなことは望んでいないだろうし……)
大佐が必要なのは仕事ができる副官であって、今のところは私がその条件に合致している。
彼はずっと『今は結婚している余裕がない』と公言するほどに多忙であって、私が自分勝手に気持ちを告白するのはただただ足を引っ張る結末になるのが目に見えていた。
だから、ずっと黙っているのがいい。
そう心の中で自分に言い聞かせて、いつも通りに会議に参加する。ひたすらに仕事に没頭することができるのは、今の私にとってはある種の救いに思えた。
「マルクス! お前また私の善意を無駄にしおって!」
「お言葉ですがミーコット将軍、以前も言った通り、オレはしばらく結婚するつもりは――」
「かーっ! お前本人のことはさておき、家のことはどうするつもりだ! このままじゃ死んだお前の親父さんに顔向けできんと言うとろうが!」
――と、仕事に没頭できたのは本当に会議の間だけだった。
各部隊の指揮官が現状の報告と、先日この国で起こった豪雨災害についての対策を話し合い、会議が終わった直後。軍服を着た体格のいい老人が私たちのもとへとやってきた。
「こうなりゃ相手は平民でも軍人でも何でも構わん! お前今年で三十二だぞ!」
「なんでも構わんって……人が見境ないみたいに言わないでくださいよ……」
国軍のトップ、将軍職に就いているミーコット様が、唾を飛ばしながら大佐のことを怒鳴りつけている。
今まで彼から送られてきた縁談をすべて華麗に断り続けてきた結果、今では顔を合わせるたびに結婚はまだかとせっつかれる始末だった。
「いいかマルクス、お前は顔がいい。ちょっと微笑むだけでそんじょそこらの令嬢は恋に落ちるだろう。それくらい顔がいい」
「ありがとうございます。両親に感謝ですね」
「茶化すな! まったく……イーリス嬢、お前からもなんとか言っちゃくれんか。いや、もうそもそもアンタみたいなしっかりしたのがマルクスの嫁にふさわしいくらいなんだが……」
「えっ!?」
それまで大佐の背後に控えていた私に、将軍の視線が向けられる。
突然掛けられた言葉に驚いていると、大佐はムッとした声音でミーコット将軍に反論した。
「バカ言わないでください。彼女にだって選ぶ権利があるし、そうなったらオレは優秀な部下を一人失う羽目になるんですよ」
――マルクス大佐の言葉は、すべて正しい。
そうだ。私は彼の忠実な部下で、立場としては大佐が滞りなく仕事を進めるための歯車のようなもの。
彼の言葉が、自分の立場をしっかりとわきまえさせてくれる。
「それに、今は……本当に結婚や交際は考えてないんで。じゃ、もうオレは職務に戻りますね。イーリス、行こう」
「おいっ、待たんかマルクス! ……ったく……」
強引に話を打ち切ったマルクス大佐は、心底うんざりしたような表情で執務室に戻ると深く息を吐いて椅子の上に腰を下ろした。
「気分を悪くさせたね」
「え、いえ……その、私は……」
「君が優秀な軍人だっていうのは、ミーコットの爺さんもわかってるはずだ。最前線で戦場に立つことがないとはいえ、軍部に実務ができる人間がいなかったら簡単に指揮系統が破綻する」
どうやら、彼は思ったよりも深刻に先ほどの言葉を受け止めていたらしい。しかもそれは、自分自身の身の振り方ではなく軍人としての私の立場について――話をさっさと切り上げたのも、私が気分を害したかもしれないという判断だったようだ。
「もしかしたらさっきの言葉は、軍人としての君のプライドに傷をつけたかもしれない。悪気はないんだろうけど……将軍の代わりに謝罪するよ」
「そ、そんなっ! 頭を上げてください! 私は全然、その……」
「頭が古いんだよなァ。今時女性軍人だって増えてきてるのに、まともに仕事させない気かって思うよ」
私が大丈夫だと言っても、大佐の表情は曇りっぱなしだ。
気にしてもらえているのはありがたいと思う反面、どうしても先ほどの言葉が――あくまで自分は彼の部下の一人なのだという現実が、小さな棘のように胸に突き刺さってくる。
「そうだ……イーリス。過去五年分の水害に関する報告書、東部地方のものをまとめておいてくれないか。確かあの時、最高学府の学者に頼んで色々用意してもらった気がするんだけど」
「か、かしこまりました。すぐにご用意いたします……資料庫に行ってきますね」
「あぁ、悪いね。量が多いと思うから、後で取りに行くよ」
――と、ちょうど資料の検索を命じられたのをいいことに、私は逃げるように資料庫へ向かって仕事に没頭した。さすがに五年分の資料全てを渡すわけにはいかないから、簡単に必要なものを選んでおく。
(当たり前、ではあるんだけど……一切女として必要されてないんだな……)
しっかりと詰めた髪型に、彩りのない黒髪。そして化粧っ気が一切ない顔も――煌びやかな貴族の女性と自分を比べると、あまりにも住む世界が違って笑えてしまう。
軍人として生きることを決めてからは女性としての幸せを見ないようにしてきたものの、改めて現実を突きつけられると少なからぬショックを受けてしまった。
(部下としてお側にいられるだけでも、幸せだって思わなくちゃ)
そうだ。私はただ、マルクス大佐の役に立ちたいだけ。
決してそれ以上を望んではいけないのだと言い聞かせて、ひたすら仕事に没頭するしかなかった。
「――イーリス」
どれほど資料庫で作業をしていただろう。
背後からかけられた声にハッとして顔をあげると、そこには大佐が立っていた。壁掛けの時計は私が随分と長いことその場所で仕事をしていたのを教えてくれる。
「た、大佐っ!」
慌てて敬礼をすると、彼はふっと笑って右手を挙げた。
「いいよいいよ、二人の時にわざわざそんなことしなくても」
「上官にそのような失礼はできません。……お時間がかかってしまいましたね。資料の方はこちらにご用意しております」
淡々と、できるだけ自分が考えていたことを悟られないように――極力感情を押さえた声音で伝えると、大佐は赤毛を揺らして小さく笑ったようだった。
「精査してくれたんだ? 五年分の資料、これで足りるわけないし」
「目視でパッと見て、必要な部分だけは抽出しておきました。専門的な分野に関しましては、当時担当に当たった学者を招聘しようかと――」
「そこまでは大丈夫。これまでの資料をざっと当たりたかっただけだから、わかりやすくまとめてもらえて助かるよ」
パッと表情を緩めたマルクス大佐は、机の上に重ねてあった資料を抱え上げるとこちらに近づいてきた。
眉目秀麗――軍人らしく厳しい表情を浮かべている時は冷酷な軍神のような鋭さを宿すその顔立ちが優しく微笑みを浮かべると、どれだけ律していても胸が苦しくなってしまう。
「でも、もう時間だ。これは明日以降目を通すから、朝言った通り、君も酒宴についてきてもらう」
「……かしこまりました。頃合いを見て、控室に下がらせていただきます」
隣国の大使を招いた酒宴なんて、正直憂鬱以外の何物でもない。
とはいえ、仕事は仕事だ。言われたことはキッチリとこなして、後は食事を楽しみながら控室で時が過ぎるのを待とう。
指定された会場はさる貴族の別邸で、そこにはすでに大勢の高級娼婦が居並び賓客たちを待っていた。
(す、っごい迫力……)
国から選りすぐりの美女たちをこれでもかと集めた会場の中は、同じ女性である私ですら圧倒されてしまう。
ここで大佐もお酒を飲むのかと思うと、やっぱりちょっと複雑な気分だ。
(いやいや――これは職務なんだから……)
大使から声をかけられて談笑する上官の背中を眺めながら、私はただ控えていることしかできない。
すると、きらびやかなドレスを着た一人の娼婦が私に声をかけてきた。
「あら、珍しい。女性の軍人さん?」
「え、あぁ――はい。そこにいらっしゃるマルクスの大佐もとで働いております」
「へぇ……最近は女性の軍人さんも増えてきたって聞いてたけど、あなた学校の先生みたいなんだもの。もっとすごいムキムキばっかりなのかと思ってたわぁ」
しなやかな仕草で笑うその女性は、おそらく王都で働く人間ならば知らぬ者はいない――花街の女神と呼ばれる、この国の娼婦たちの頂点に君臨する女性だ。
「フラウレット・アーデリー……」
「あたしのこと知っててくださるの? 嬉しいわぁ」
柔らかな肢体をドレスに押し込んだフラウレットは、ニコニコと笑いながら私の手をそっと取る――同じ女性だというのに、思わずドキッとしてしまうのはその仕草のなせる技だろう。
「ねぇお嬢さん、お名前は?」
「イーリス……イーリス・ペイルバック少尉です」
「そう、イーリスちゃんって言うのね。お仕事、これからまだ長いのかしら?」
手を取られてにこやかに話しかけられると、つい口からぽろぽろ言葉がこぼれ落ちる。これは数多の貴族が彼女にとんでもない額のお金をかけるのがわかる気がする。性欲というより、こういう反応をされたい、こう接してほしいという根本的な願いを的確に叶えてくれるのだ。
「いえ――この後控室に向かう予定です。その、こういう場があまり得意ではないので」
「そうなの? じゃあこの後、お時間があるのね……」
「……まぁ、あるといえばありますが」
にっこりと笑ったフラウレットは、握っていた私の手を離すとぱんっと音を立てて手を合わせた。
夢から覚めたような心地になった私はハッとして大佐の方を見たが――彼は既に席につき、大使と歓談しながらお酒を飲んでいる。
「それなら、ちょっとお話し相手になってもらえるかしら?」
「えぇ? でもあなたは、大使の――」
「あらぁ、今日連れてきた女の子たちはどれも花街で人気の子たちばかりよ。お偉方の相手なんか慣れたもの……それより私、あなたとお話したいの」
――彼女のような人間が国を傾けようと思ったら、おそらく私たちみたいな軍人が束になっても敵いはしないだろう。
恐怖すら覚えるような鮮やかさで私を別室に連れ出したフラウレットは、手近な椅子に腰かけてワイングラスを差し出してきた。
「私ね、一度女性の軍人さんと話してみたかったの。……だってあなた、士官学校を出ているんでしょう? 貴族の女性が、どうしてこんなむさくるしいところにいるのかしらって」
艶やかな衣装の下で足を組み替えたフラウレットから酒杯を受け取り、注がれたワインに口をつける。ここまで来たら、もうお酒の勢いで色々喋ってしまってもいいかもしれない。
それに――恐らく彼女は口が堅い。そうでなければ、国の高官たちを相手取る高級娼婦などできないものだ。
「……実家が貧乏貴族なんです。兄と弟、あと妹が三人いて……食い扶持は自分で稼がなくちゃ」
「あら世知辛い。まぁ、軍部だったら食う寝るの心配はないものね? じゃあそれで士官学校に通って――あの大佐? のところで働き始めたの?」
「いえ……元々は別の人のもとで働いていました。でも三年前――ほら、コーフィルト事件があったでしょう。アレで更迭されかけて」
そう言うと、フラウレットはしたり顔で腕を組んで何度か頷いた。おそらく、彼女の顧客の中にもあの事件で捕らえられた者がいるはずだ。
「懐かしいお話ね。でも……それなら大変だったでしょう? 随分と騒がしい事件だったもの」
「えぇ、当時の上官に濡れ衣着せられて、あわや更迭寸前だったんですが――そこを大佐に助けていただきました。それから、お側でお仕えするように」
恩人という言葉だけでは表し切れないほどに、マルクス大佐には人生そのものを変えてもらったと言っていい。
貴族の令嬢としては些か華やかさが足りないかもしれないが、軍人として彼のそばで生きていけたらいい……ずっと、私はその思いを抱いて仕官を続けていた。
「ふぅん。その割には随分と――あぁいえ、気を悪くなさらないでね? これは私の職業病みたいなものだけど」
蠱惑的に唇を吊り上げたフラウレットが、酒杯を傾ける。
その姿はどこかの国の女王と言われても差し支えがないほどに美しく、まるで一枚の完成された絵画を見ているようでもあった。
「あなた、あの大佐さんのこと好きでしょう?」
「んぐっ!?」
「あらあら、ごめんなさい。ちゃんとお水を飲んで――でも誤魔化せないわよ?」
渋みのあるワインを思い切り吹き出しそうになった私を見て、フラウレットがコロコロと笑う。少女のようなその姿はとても魅力的ではあったが、今の私には審判の女神のようにも見えた。
「な、なんでそんなことを……」
「ずっと花街で生きてるもの。色恋沙汰なんて息をするように見てきたわぁ。……でもあなたの恋っていうのは、ちょっと憧れが強いみたいね。とっても純粋で可愛らしい」
お菓子はいかが、と勧められたのも、やけっぱちで口の中に突っ込んだ。
まさか初対面の人間からそんなことを言われるとは思ってもみなかったが――花街一の高級娼婦の目を欺くことはできなかった。
「想像してみて? 今日連れてきた娼婦は人気のある子ばっかりで――それこそたくさんのお偉方を相手にしてきたわ」
「……はぁ」
「あなたの上官みたいに若くて顔がいい男なら、自分の立場を投げうってでも抱かれたいって思う子がいたって不思議じゃない……あの方、オリュディティアス家の当主でしょう? 特徴のある赤毛だからすぐに分かったわ」
にっこりと微笑まれて、私は言葉もなくフラウレットの顔を見つめた。軍閥貴族としては最高峰の家名をもつ、オリュディティアス家――本家の人間は現在マルクス大佐しか存命ではなくて、それが彼のもとに多くの縁談が寄せられているひとつの原因でもある。
……もしも、先ほど会場にいた娼婦たちが皆フラウレットのような手練手管を持っていたら――だれか一人くらいは、大佐と一緒に……。
「う……」
「もちろん、私たちはプロだもの。落とすと決めたら大抵の男は逃げられないわぁ」
「それは――えぇと」
口調は穏やかなのに、言ってることは町のならず者とほとんど変わりない。
空恐ろしいものを覚えながら黙り込む私を見て、フラウレットはパンッと軽く手を叩いた。
「気を悪くしたならごめんなさいね。でも、ねぇ……あなたさえよければ、一夜の夢を見せてあげられることもできるわよ?」
「一夜の、夢……?」
「私たちはそれが仕事ですもの。殿方にはこの世の楽園を思わせる快い夢を。あなたには……そうね、手が届かないと思っていた憧れに触れる夢を見せてあげる」
細い――剣など握ったこともないような細い手が、私の手に絡みつく。振り払うことは容易なのに、私は身動き一つ取ることもできなかった。
「大丈夫よ。向こうだってお酒が入っているだろうから、バレやしないわ……そうね、ちょっとした魔法をかけてあげる」
聖女のようにも魔女のようにも聞こえるその言葉に頷いてしまった後は、恐ろしいほどに早く事が運んだ。
彼女の一声で何人かの少女たちがやってきたかと思えば、結っていた髪を下ろされ、化粧っ気のない顔に白粉をつけられて軍服を脱がされる――あれよあれよという間に防御力のかけらもなさそうなドレスに着替えさせられた私を見て、フラウレットが満足げに腕組みをした。
「私の見立て通りね。イーリス、あなた素材はとってもいいのよ。下手に化粧なんてしてないから肌艶もいいし……残念なのはその見せ方を知らないこと。ちょっとキツめかもしれないけど、褥なんて暗いんだからこれくらいで十分ね」
「は、はぁ……」
包むもののほとんどない二の腕を所在なさげに摩りながら、私は内心でため息をついた。流されてしまったとはいえ、軍服も脱がされて化粧をされたら、それこそ自分が自分ではなくなってしまったような気持ちになる。
「御覧なさいな。普段お化粧をしないから、自分の顔も見慣れないんじゃない?」
「……そうですね。こんな風に色の濃い口紅も、つけたことがないですし……」
手渡された手鏡に映っているのが本当に自分の顔なのかと疑いたくなってしまう。白い肌も、薄朱の頬も、ぽってりと艶めいた唇だって――今までしっかりと化粧をしたことがなかったせいで、どうにも目に映るものに違和感がある。
「結構頑張っちゃったから、違和感があるのは仕方がないわ。でもねぇ、それだと大佐も気付かないかもしれないでしょう? あとはあなたが、余計なことさえ口にしなければいい――軍人さんなんだから、お得意でしょう? そういうの」
体のラインが出る薄いドレスも、普段なら絶対に選ばないようなものだ。実家にいた時だって、こんなに肩や腿が露出したものは着たことがない。
……だから、もしかしたら本当に――大佐は私に気付かないかもしれない。フラウレットの言う「一夜の夢」という言葉が、にわかに私の心を絡め取った。
「大丈夫よ。お酒が入った殿方って、案外こういうのには気付かないものだから――ね? お化粧を落としたら今夜のことはさっぱり忘れて、いつものあなたに戻るの。大佐の忠実な秘書官に……」
おとぎ話の魔法使いよろしく微笑んだフラウレットに、そっと頷き返す。
そうだ。ここまで来て、今更引き返すことなんてできない。今夜、ただ一度だけの夢を見て――そうして明日には、いつも通りの私に戻ればいい。
軍人という職業柄、一度覚悟を決めてしまえば体は動くものだ。フラウレットが小間使いとして雇っている少女が、私をある一室へと案内してくれた。
「来客の皆様は、それぞれに部屋が宛がわれております。マルクス・オリュディティアス大佐のお部屋はこちらで――あとはお嬢様のお心のままになさいませ」
お嬢様なんて呼ばれるのは久方ぶりでちょっとだけ身構えてしまったが、フラウレットとしてはここから逃げるのも部屋の扉をノックするのも、すべて私の判断に委ねたいらしい。
小間使いの少女が一礼してその場から去ると、私は廊下に一人ポツンと取り残されることになった。
(ここ、に……大佐が……)
遠征や訓練中の野営ならまだしも、こんな時間に殿方の部屋の扉を叩くなんてしたことがない。
一度大きく息を吸って、それから吐く――頭の中に思い浮かぶあらゆる考えを一度なかったことにして、そっと扉を叩いた。
(こうなったら、本当に夢だと思うしか……!)
コンコン、と小さくドアをノックしても返事はない。
――やっぱり、大佐はこんなばかげたことに心を動かされたりはしないんだ。
そんな安堵と、そこはかとない寂しさを感じながら、私は一歩後ろに後ずさった。なかったことにして、やっぱり帰ろう。
……そう思った瞬間、目の前の扉から鍵を開ける音が聞こえてきた。
「……誰だ。娼婦は必要ないと言ったはずだが」
「っ……あ、の。えぇと」
低く、冷たい声。
軍人としての彼の振る舞いを知っているだけに、そこに驚きはない。部下に指示を出す時の声はいつもこんな感じだ。
だが、厳しく突き放すようなその声が自分に向けられたことはあっただろうか。
「フ、フラウレット……さまが、こちらへ向かうようにと」
強い緊張を覚えながらなんとかそう口にすると、大佐は不機嫌そうに眉を寄せた。国一番の娼婦の名前は、どうやら彼の中にも覚えがあるらしい。
「……入れ」
「よ、よろしいんですか」
「気が変わった。……君さえよければだが」
震えているぞ、と目ざとく慣れない仕草を指摘され、その場で敬礼を取って頭を下げたくなる。
昼間ミーコット将軍に結婚をせっつかれた時ですらここまで不機嫌そうではなかったのに、一体さっきの酒宴で何があったというんだ。
「君……控室に、女の軍人がいるのを見なかったか。こう、髪をきっちり結わえた、黒髪の」
「え? えぇ、と……あの、食事をされて、おりました。フラウレット様と一緒に」
「……そうか。ならいいんだ」
つっけんどんにそう呟いた大佐は、どっかりとベッドに腰かけると特徴的な赤毛をかき上げた。どことなく横柄に見えるその仕草は、まず職務中には見られない。
「あの……なにかあったんですか?」
「なにか、とは?」
「先ほどの酒宴――私はその場におりませんでしたが、そのぅ……大佐のお気持ちを損ねるようなことが」
――と、いつも通りそこまで口にして頭を抱えそうになる。今の私は彼の忠実な副官ではなく、ぎこちなく部屋を訪れたただの娼婦だ。
失言だったかとすぐに口をつぐんだが、彼はふっと目を細めると深い溜息を吐いた。
「挨拶を交わした二言目には娘を紹介される――それが十人連続で続いた人間の気持ちが君にわかるか?」
「……いえ」
なるほど、そういうことだったのか。
確かに大佐の年で未婚となると、国内外から娘を嫁がせたがる貴族は後を絶たない。今日の酒宴に呼ばれているのは誰もが高位の貴族たちばかりなので、断るのもかなり労力を使うだろう。
「別に恋愛結婚をしたいなんて考えてるわけじゃないが、こうも多いとさすがに辟易する。イーリスだってそう思うだろう」
「っえ?」
ふぅ、と溜息を吐きながら呟かれた自分の名前に、思わず背筋が伸びた。まさか、こんな格好をしているのに正体がバレたというのか。
「あぁ――悪い。副官の名前だ」
「そ、そう……そうでしたか」
「酒が入っていて、見間違えた。彼女はもっと――涼しげで凛としていて、そうだな。あんまり化粧なんかをするような女性じゃない」
だが、その心配は見事杞憂に終わる。
見間違えたと言われてホッとしたものの、他者から――それも大佐の口から発せられる自分への評価は、なんだか聞いていて背中が痒くなってきた。
「でも、……恋しいと思っている人には似ている。驚くほどに」
「っ、あの」
大佐が、特別な感情を寄せている人がいる。
後頭部を思い切り石で殴られたような気分だ。先ほどは不機嫌一色だった表情がにわかに和らぐものだから、余計に衝撃が強い。
(似てる、って――だ、誰に? どこかの、貴族の令嬢……)
同じような黒髪の女性だと、公爵家のフェイリン嬢とかだろうか。あるいは国王陛下の姪御であるマーチェット公爵夫人――こっちは既婚者だから、もしかして道ならぬ恋に身を焦がしているとか。
(ど、どうしよう……聞かなきゃよかった……)
体が震えるのを押さえられない。だって――今まで彼のそばで仕えていて、そんなことはこれっぽっちも知らなかった。
いや、敢えて気付かないようにしていただけなのかもしれない。そう考えるだけで、頭の中が真っ白になる。
「……どうした、顔色が悪いが」
「いえ――その、そこまで似ているのでしたら」
口が、勝手に動く。
こんなことを言ってはいけない。たとえ今日一夜の、かりそめの関係になったとしても――こんなことを願うのは健全ではないと、頭の中ではわかっているのに。
「それでしたら……是非、私をその方と思って」
自分でも驚くほどに甘ったるい声が唇からこぼれてきて、自己嫌悪が止められない。こんなの間違ってる。明日から、一体どんな顔をして仕事をすればいいんだ。
(でも……でも、この機会を逃してしまったら――)
胸にずっと秘めていた思いは、叶わないことが決定づけられてしまった。きっと大佐が恋をするような人なのだから、花のように美しく、清廉で穏やかな人なのだろう。
ずっと隠し通していたいと思っていたはずの恋心が、成就しないと分かった途端に大きく頭をもたげてくる。
「君を? ……彼女と思って、か。なるほど――うん、まぁ……そうだな」
不格好な懇願に笑みをこぼしたマルクス大佐は、やや乾いた大きな手のひらで頬に触れてきた。
その瞬間、体がびくんっ♡と大きく跳ねあがる。
「っ……」
「どうせ――叶うことがない願いだ。君がそう言うなら、一度だけ……」
酔いが回っているのか、普段よりもキレのない口調の大佐が立ちすくむ私の腕を引っ張った。
「っ、あ……」
とさ、と小さな音を立てて体が寝台に押し倒されて、ようやく実感が湧く。……私はここで――大佐に、抱かれるために来た。
「随分と緊張しているらしい。……まさか、客をとった経験がないとでも?」
「……それは、事情がありまして」
娼婦が初めて客を取る年齢から比べると、私は結構年がいっている。とはいえ、高級娼婦として身を立てるのに若すぎるというのはいけない。
「教養と所作を叩き込まれるのに、数年の修業を要すると聞く。いや――別に、君の年齢のことをどうこう言ったわけじゃないんだ。ただ……本当に似ていて」
切なげに目を細められるごとに、強く胸が締め付けられる。
化粧をした私は、一体誰に似ているんだろう。もしかしたら、一度も私が会ったこともない……貴族ではない、平民の少女だったりするんだろうか。
「そうですか……で、では、どうかその方のことを思い浮かべて」
「……生半可な気持ちで愛しているわけじゃない。オレは――こんな風に彼女に触れることはできないよ」
小さく笑った大佐が、柔らかく首筋に唇を落としてくる。異性の体が、それも唇が肌に触れる感覚はなんとも言えず、体がびくびくと大げさなまでに震えあがった。
「っ、んっ……♡」
触れられたところが、火傷してしまいそうなくらいに熱い。
だが、大佐はそんな私の状況を知るはずもなく、ゆっくりと唇で首筋から鎖骨のラインをなぞってきた、
「ふぁ、っ……ん、んっ……♡」
「本当に生娘みたいな反応をするんだな。別に、演技をする必要はないぞ。オレだって――触れたいように触れる。むなしいとわかっていても、これだけ似ていると錯覚してしまいそうだ」
ちゅ、と小さく皮膚の薄い鎖骨を吸い上げられて、ピリッとした痛みが走る。これが本当に他人にされていたら、ただ不快感しか覚えなかっただろう。
(でも――大佐に、触られてるっ……♡恥ずかしい、し――怖いけど……)
世の女性は、こんな風に誰かと睦みあうことが恐ろしくはないんだろうか。私は恐ろしい。好きな人に触れられると外面を取り繕えなくなって、見てほしくない心の内側までもさらけ出してしまいそうになる。
「た、大佐……」
この場で名前を呼ぶのはばかられたけど――公的な役職についている人なんだし、階級名くらいはいいだろう。
情けなく震えた声でそう呼ぶと、彼は一度だけ顔を上げた。視線と視線が絡み合うだけで、体の奥がそわそわする。
「無体はしない、が……加減もしない。軍人として、一般人に傷をつけるような真似はしないと誓おう」
「っ……は、はい」
そういうことを聞きたかったわけじゃないけれど、一応頷いておいた。こういう時まで彼は誠実なのかと考えると、余計自分の浅ましさが嫌になる。
「……加減は、してくださらなくて結構です。どうか、お心の赴くままに」
ともすればすぐに頭をもたげてくる自己嫌悪に蓋をするように、私もそう言葉を返した。
痛いのも苦しいのも好きではないが、私だって軍人だ。多少の痛苦には耐えられるように訓練を積んでいる。
「そうか。……いや、無為に他人を傷つけるのは趣味じゃない。君はもしかして、軍人というのは皆嗜虐的な人間だと思ってるんじゃないか?」
かすかに表情を緩めたマルクス大佐の手が、そっと腿のあたりを這う。
普段他人に触れられることがない場所を、よりによってずっと憧れていた上官に触れられていると思うと、お腹の奥がどんどん熱を帯びてきた。
「んぁ、っ……そ、そういうわけ、では……」
「中にはひどく残酷な者もいる。そういう意味では、君の見解は間違っていないが」
戯れるようにキスを何度か肌に落とされ、するすると薄く頼りないドレスが解かれていく。
下着なんてあってないようなもので、上半身にいあってはドレスを脱いだ途端に双丘がまろびでた。普段は邪魔にならないように下着で抑え込んでいるが、その戒めもなくなると重く柔らかな乳房が呼吸をするたびにふるんっ♡と揺れる。
(見られてる……大佐、に――全部……)
正確には、まるきり全裸というわけではない。これまた薄い下着が一枚下腹部を守ってはいるものの、状態としてはほぼ全裸だ。
軍服を着ていると肌の露出というのに全く慣れないため、他人の視線が注がれていると考えただけで羞恥のあまり死にそうになる。
(顔熱い……でも、気取られるわけには……)
今日の私は、ただの娼婦だ。触れられて当然、見られることなんて怖くもなんともないという態度でいなければ、すぐにボロが出てしまう。
せっかくフラウレットが用意してくれた一夜の夢を、自分の手で台無しにはしたくなった。
「……触れても?」
――と、それまでじっと私の体を見つめていた大佐が、ぽつりと呟いた。
まさか触れるのに許可を求められるとは思っていなかったので、こくりと頷き返す。
(真面目な人だとは思ってたけど、そこまで律儀なんて思わなかった……)
許可を出すと、先ほど頬に触れた大きな手のひらがやんわりと乳房全体を包む。両胸をやわやわと揉みしだかれると当然恥ずかしいのだが、やがてその中にかすかな快感が芽生えてきた。
「ん、っ♡ふぁ、っ……♡♡んぁ♡あ、っ……♡♡」
たぷ♡たぷんっ♡♡と下から胸を持ち上げられて、やんわりと形を変えられながら小さな刺激を繰り返される。
普段は邪魔なだけだと思っていた丸い乳房が、いつもはペンを持っている指先に弄ばれて形を変えている様はなんとも言えずに淫靡だった。
「ッく、ぁ……♡♡た、いさ……♡んっ♡」
「うん――階級名で呼ばれる方がグッとくる。そのままで」
「ぁひ、ッ♡♡」
ご褒美だと言わんばかりに、形のいい爪がカリッ♡と乳首を引っ掻いた――その瞬間に体がビクッと跳ねて、甲高い悲鳴が唇の端から漏れてしまう。
「あ♡んんっ……♡は、っ♡乳首だめ、っ……♡♡」
「――拒むな。今から一切、オレがすることを拒むのを禁ずる」
低く、冷たい命令が耳のすぐ横から聞こえてくる。普段はそんなことを絶対に言わない人なのに、厳しく律するような声に命じられて幸福すら感じてしまった。
「は――は、ぃ♡わかり、ました……♡♡こば、拒みま、せん……♡」
こくこくと何度も頷いて、躓きながらもそう答えると、彼は引っ掻いていただけの乳首をきゅっ♡と指で強く摘まみ上げた。
「ん゛ィ、っ……♡♡あ、っ♡いい、です♡♡♡ぅ、っ♡ン、ぁ♡♡気持ちいい、ぁ♡もっと、それっ……♡♡」
職業柄、目上の人間からの命令には絶対的に従うことに慣れてしまっている。大佐に命じられたからには、触れないでほしいと拒むことはできなかった。
柔らかく胸を揉まれながら、思い出したようにその先端をきつく摘ままれて、次第に快感の波が大きくなっていく。
「う、ぁっ♡ン……♡♡♡ぁ、あっ♡」
「従順だな。抵抗されるよりはよほどいい――今度は自分で下着を脱いで、足を開いて見せろ」
「っ……そ、それは――」
わかっている。娼婦としてここにいるのだから、求められていることは頭で理解しているつもりだ。
おずおずと下着に手を伸ばした私は、震える指先でゆっくりとそれを引き下ろした。恥ずかしいはずなのに、命令に従うことに対して確かな快感を覚えている自分がいる。
(頭……ぼーっとする……)
酔うほどに酒を飲んだわけではないのに、心臓が脈打つたびに頭がぼんやりしてくる。
つま先から下着を抜き取った私は、一度だけ大佐の方を仰ぎ見た。覆いかぶさってくるその表情は、逆光でよく見えない。
「……こ、れで――よろしいでしょうか……」
ほんの少しだけ足を開くのが精いっぱいで、おずおずと大佐に尋ねてみる。すると、彼はほんの少しだけ考えるような仕草を見せた後でぐっと体を起こした。
「慎ましやかな君らしいが、もう少し――」
乳房を揉んでいた手が離れて、誘うように太腿を撫でられた。くすぐったいその動きに身じろぎすると、かすかに息を漏らす音が聞こえてくる。
(誰のことを、想ってるんだろう……)
誘われるままに膝を立てて、もう少しだけ足を開く。余計なことを考えたら、それこそ恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ。
「うん――このまま、決して足を閉じないように」
「わ、かりました。……ぁ、んんっ……♡♡」
最早、命令そのものが快感になりつつある。
包むもののない秘処をさらけ出すように足を開くと、立てた膝を大佐の手がぐっと抑えてきた。物理的にも足を閉じないようにさせられて、長い指先がその中心へと伸びてくる。
「ん、っ……♡」
中指の腹が割れ目をずり……♡となぞると、妙な感覚が下腹部から湧き上がってきた。他人に触れさせたこともない場所を、あれだけ憧れていた上官に触られている。その現実が、何よりも強く頭を揺さぶってきた。
「もしかして、軍人が怖いのか」
「……え?」
「全身から力が抜けきっていない。……服を着ていないから、筋肉の緊張が余計にわかるんだ」
そう指摘されて、大丈夫だと嘘を貫き通すことはまずできないと判断した。
観念したように首を上下に動かすと、一度だけ頭を撫でられた。
「本当に男慣れしていないみたいだな。演技だとしたら、女優にもなれる」
「ほ、褒めてるんですか、それ……」
「一応。悪いな、女性を口説く機会に恵まれていなかったんだ」
そんな言葉に、胸の奥が重くなる。もちろん彼は、私が自分の副官だとは夢にも思っていないだろうが――女性を口説く機会がなかったわけではなくて、大佐自身がそれを必要としていなかっただけのような気もする。
「それって……ァ、んっ♡」
「無駄話は終わりにしよう。――君だって多少は、この状況に慣れてきたはずだ」
くぷっ♡と指先を淫裂に突き立てられて、言葉が遮られた。
浅い入口を指でくぷくぷと弄りながら、大佐は体を屈めて胸の先端に唇を落とす。
「ッ、んぁ♡あ――♡変な、こえっ……♡♡」
くちくちっ♡と蜜口を弄られるたびに、甘く媚びた声が唇からこぼれ落ちる。浅ましいそんな声を聞かれたくて口を押さえると、それを咎めるように大佐がちぅっ♡と胸の先端を強く吸い上げた。
「ん゛ぁあぁッ♡♡」
「拒むなと言ったはずだ。……絶対に拒むな。君が、彼女のように振舞うというのなら」
熱っぽい声に心を揺さぶられて、唇を噛み締めることもできない。
うらやましい――これほど強くこの人に求められる女性が、うらやましくてたまらない。それと同時に、自分がどうしようもなく惨めで情けないような気持ちに苛まれる。
「っ、……」
大佐が焦がれている人は、彼をそっくり包み込んでくれるような優しい人なのだろう。決して拒むことはない、けれど結ばれない相手――少しずつ与えられる情報が、的確に私の心を掻きむしっていった。
「――も、っと」
……どうせ、叶うことがない夢なのだから。
触れられないと思っていた人に触れられている。それだけでいいと思っていたはずなのに、私という人間はどこまでも貪欲になっていく。
「もっと、さ――触って、ください……♡も、拒みません……から……♡♡」
背筋を駆け抜ける甘い痺れと共に、隷属の忠誠にも似た言葉を口にする。
今宵一度だけ、なにもかもを忘れてこの人に求められたい。たとえそれが誰かの身代わりであったとしても、与えられるものをすべて自分のものとしてしまいこんでしまいたい。
「さ、さっきみたいに……指で、触って――おまんこグチュグチュ、してください……♡♡」
欲染みた声で懇願すると、頭上でゴクッと喉を鳴らす音が聞こえてきた。
それにつられて声をあげると、大佐の手が大きく膝を開いてくる。
「――言ったな?」
低い声に、下腹部がズンッ♡と甘く痺れる――じわりと体に汗がにじんで、言いようのない喜悦が全身を駆け巡ってきた。
「ひ、ぅっ……♡♡んぁ、た……大佐……?」
ぬちゅっ♡と音を立てて開かれた淫裂のあわいに、大佐が顔を寄せたのはその時だった。嫌な予感を感じたその直後には、ぬかるんだ蜜口に生温かい舌先が挿し込まれる。
「ッあぁ……♡や、そこだめっ……♡♡ぁ゛♡あ、やだぁっ……♡♡」
ちゅぷっ♡にゅぷぷ……♡♡ぢゅる♡ちゅ♡ちゅぽ♡ちゅぽっ♡♡♡
蕩け始めた蜜口に浅く舌を這わされて、丹念にその場所を舐め上げられる。
よりによって憧れの上官にそんなこところを舐められているという現実が理解できなくて、私はジタバタと足を動かしてシーツを蹴った。
「ひぁ♡ぁ゛、あんっ♡♡♡や――な、舐めちゃダメ……♡♡ん゛、っぉ♡大佐、ぁっ……♡♡」
恥ずかしさと罪悪感で死にそうになりながら、必死でシーツを蹴って抵抗する。
だが、大佐はムッとした表情で顔をあげると、特徴的なその赤毛を片手でかき上げた。
「拒むなと言ったはずだが……でも、あぁ。そんなところまで思っていた通りだ。きっと……彼女は口淫は好きじゃない。今の君と同じように、オレを拒むだろう」
「っ……」
呟くように吐き出された言葉に、私は全身から力を抜いた。
(大佐が、誰のことを愛しているのか知らない……けど……)
仮に、その相手がこうした行為を嫌がるというのなら。それなら私は――彼のことを受け入れよう。
どんなに恥ずかしいことをされても、言われた通りに決して拒まない。
彼がそう望むのならば、私はその理想を受け入れる。
「……っ、も……申し訳、ありません……」
はふ、と息を吐いて謝罪の言葉を口にすると、大佐はすっとその目を細めた。彼の思惑を推し量ることはできないが、おそらく機嫌は損ねていないはずだ。
再び顔を伏せた大佐は、とろとろと蜜をこぼし始めた秘裂にちゅっ♡と唇を落とす。
「ッふ、ぁ……♡♡」
顔が熱い。恥ずかしくて、頭がおかしくなってしまいそうだ。
どうしてこんなところを彼に舐められているのか――そして私は、どうしてこの行為で快感を覚えてしまっているのか。
それがうまく理解できないまま、与えられる愉悦に溺れていくしかない。
「ん゛、っ♡ふ、ぅうっ……♡♡ぁ゛♡ぁは、っ♡」
ぎゅっとシーツを握りこんで、ちゅぷちゅぷとおまんこを刺激される快感に酔う。何も抵抗せず、ただされるがままになっていると、次第に頭の中がふわふわして来てなにも考えられなくなる。
「あ♡たい、さ♡♡ぁ、んんっ……♡♡もっと……♡♡」
娼婦という立場でここにいるのだから、多少貪欲になっても許されるだろうか。
一度懇願を始めてしまうと、淫らな本性を押さえつけることができなくなる。
「ま、まだ……足りない、です。お腹の奥、ずっとうずうずして……熱く、て……」
震える手を、下腹部の方に伸ばす。
わずかに顔を上げ、じっとこちらを見つめている大佐の髪をそっと撫でると、彼はすりすりとその手に頬を寄せて目を閉じ始めた。
「――それで?」
「そ、それでって……」
「物足りないんだろう。君は……もっとオレが欲しいはずだ。この――泥濘の奥まで、全部」
熱っぽい声が鼓膜を揺らして、正常な判断を鈍らせていく。
そうだ。これは一夜の夢。明日になったら何もかもがなかったことになる、泡沫の幻想みたいなものだから。
「……ほしい、です。く、ください――♡♡大佐の、お、おちんぽ……♡♡お腹の奥まで――全部、いっぱいにしてください……♡」
上ずった声と、不格好に媚びた言葉で彼のことを求める。
普段だったら絶対に言わないような言葉を自分の声が発していると思うと、本当にどうにかなってしまいそうだった。
(どうせ――どうせ、これっきりなんだし……!)
自分から彼に想いを告げることは絶対にありえない。元々階級も家格も大佐の方が断然上であるのだし、ただの上官と部下という関係性を崩してまで得られるものは何もないはずだ。
だけど、今日だけは――この思い出があれば一生生きていけると思えるくらい、彼を求めても許されるはず。
意を決してグズつく蜜口を指で開くと、どこかで息をのむような声が聞こえた。
「っ――君は」
なにか言いたげに、大佐が口を開いた。
けれどそこから先の言葉を彼が発することはない。ぐっと押し黙ったマルクス大佐は、体を起こすと自分が着ていたシャツをぞんざいに脱ぎ捨てた。
普段は隙なく着込まれた軍服の下にある、均整の取れた肉体があらわになる。
「は……お、お綺麗な体を、なさっているんですね……」
「それは褒めてるのか? 実戦部隊には投入されない、中央軍部の司令室の人間だからな」
「……別に、そこを揶揄しているわけじゃないです」
別人だと思われているのだから当たり前だが、ちょっと今日の大佐は他人に対して風当たりが強いように思う。
「ただ――その、ここまで綺麗な男性の体っていうのがいまいち……ちゃんと見たことがなくて」
「綺麗、ね。醜悪だと思うぞ――特にオレは、今好きな人物と君を重ねて見ているわけで」
自重するように笑った大佐は、するりとベルトを引き抜いてそれも床に投げ捨ててしまう。一つずつ彼が身に着けているものが少なくなっていくのに、心臓がドクドクと強く脈打っていた。
「君を通して、オレは……薄汚い欲を発散させようとしてる」
「そ、それであなたが満たされるなら――私は、構わないので」
娼婦らしい仕草って、どうすればいいんだろう。そこもフラウレットに詳しく聞いてきたらよかった。
内省しながらも大佐の言葉を待っていると、彼は低く妖艶に笑ってから下履きを緩める。
「――もう少し足を広げて。あとは……言うまでもないと思うが、全身から力を抜く」
衣擦れの音が生々しく鼓膜を叩いてきて、顔がどんどん熱くなる。声のする方向に視線を向けることができずに目を伏せると、取りだされたばかりの肉杭が目に飛び込んできた。
「っ、……♡♡」
(あ、あれ……大佐、の――♡)
ドクンッ♡と心臓が強く高鳴るのとほとんど同時に、熱いおちんぽが下腹部に擦りつけられた。
思っていたより――いや、考えていたよりもかなり大きいその肉芯に、思わず呼吸が浅くなる。
「ん、はっ……♡♡は、っ♡た、大佐……? それ――は、はいっ……」
「挿入れる。さっき十分慣らしたから、もう大丈夫だと思うが――」
ふーっと深く息を吐いた大佐は、一度だけ優しく私の頬を撫でてくれた。少しだけ高い体温が、彼もまたこの状況に興奮していることを教えてくれる。
「いいか、君は……私が欲している女のように振舞ってくれ」
「わ、わかりました。もとより、そのつもりですから……」
「あぁ……それと、このことは他言無用。決して――誰にも、知られないように」
露わになった雄芯が、蕩けた割れ目をぬ゛りゅ……♡♡となぞり上げる。
腰のあたりから背骨に沿って快感が駆け上がってくる中で、彼は切なげに眉を寄せて唇を開いた。
――きっと、名前を呼ぶのだろう。女としての直感がそう告げる。
私の知らない――あるいは、私が知っている誰かの名前。決して自分の思いが届くことなどないと、トドメのように知らしめられるに違いない。
「……イーリス」
「ッ、ぇ――ぁ゛、あっ♡♡♡」
囁かれた名前に疑念を覚える前に、熱い楔がみ゛ちッ♡とおまんこの中に突き立てられる――一瞬鈍い痛みを感じたが、それを上塗りするほどの喜悦が全身を駆け抜けていった。
「ん、ふぁ、ぁあ♡♡♡や、ぁあっ♡」
ぶぢゅっ♡と鈍い音を立てて突き立てられたおちんぽが、隘路をみっちりと押し広げながら最奥を目指す。
「は、ぁッ……♡あ、つっ……♡♡」
火傷しそうなほどに熱く、お腹の中をギチギチと満たすような質量で膣内を貫かれて、思わず背中が反った。
すると大佐は、反りかえった背と寝台の間に手を差し込んで私の体を抱き寄せてくる。
「ッ、イーリス……ッ、ぐ、っ……」
ぬ゛ぢゅ♡ぐぷっ♡♡♡ばぢゅ♡ばぢゅっ♡ずぷずぷずぷっ♡♡♡
狭い蜜窟を容赦なく拡げられ、張り出した雁首がいじらしく収斂を繰り返す膣肉を刺激してくる。
その度に甘く鮮烈な愉悦が生み出されて理性が解け落ちるが、そんな中でも彼の言葉が頭の中で何度も反響した。
「は、えっ♡♡ぁ゛♡なん、ゃ、ああっ♡♡♡」
「は――狭いな。こんなところまで、彼女によく似て……ッくそ、っ♡」
「ん゛ォ、お゛ッ♡♡♡」
ばちゅんっ♡♡と力強く腰を打ち付けられて、脳内で星が散る。
なんで――なんで大佐が、こんなところで私の名前を呼んでいるんだろう。
だって彼が好きなのは、私じゃない。彼のことを全て受け止めてくれる、決して触れられないような――そんな、女性のはず。
「いつも……ッ、いつもこうして、めちゃくちゃにしてやりたかった、っ♡清廉な君を、ッ♡オレの手で、ぐちゃぐちゃに汚して――犯して、オレでいっぱいに、したくてっ……♡♡♡」
ばぢゅっ♡ばぢゅっ♡♡と激しくピストンを刻まれながら、今まで聞いたことがなかったいくつもの言葉を受け止める。
うわごとのように私の名前を呼びながらおまんこを穿たれるたび、膣内が呼応するように収斂し続けていた。
「ぁ゛♡ん、やっ……♡あぁっ♡た、いさっ……♡♡奥、きもち、ぃっ……♡♡ぁ♡あぅっ♡♡おまんこごりゅごりゅ、っ♡♡も、わかんなくなるぅ、っ♡♡♡」
ぐぷぐぷと膣壺を攪拌されて、何度も何度も奥を突き上げられながら、なんとか彼の真意を探ろうとする。
(なん、でっ♡なんで私の名前――だって、そんなのっ……♡♡♡)
破滅的とすら言える快感の前では思考なんてできるはずもないのに、頭の中で同じことを何度も問いかける。
どうして――大佐が私の名前を呼んだんだろう。彼が必要としているのは私じゃない。そう思っていたから、なんとか彼が思い描く理想を演じようという決意ができたのに。
「あ、ぅっ♡♡ンゃ、ぁっ……♡」
「顔を逸らすな――見て、こっち見ろ……ッ♡君を抱いてる男が誰なのか、よく見て理解するんだ、っ♡♡」
「ん゛ォ♡く、ぅうっ♡♡♡」
ぬぷぬぷぬぷっ♡♡と小刻みに腰を動かされて、気持ちいいところをカリが何度も擦っていく。
その刺激に耐えられなくてビクビクと体を震えさせていると、大佐の手が私の頬を掴んで無理矢理正面を向かせた。
「ッひ♡ご、ごめ、ぁ゛♡♡♡だめ♡い、今ダメです、ぅ♡♡あ♡あ、っ♡♡♡そこ♡そこおちんぽでズリズリしないでぇっ♡♡♡」
「ここ? イーリスが一番感じる場所――ちゃんと覚えて、たくさん気持ちよくしてあげる……♡♡」
「ん゛ィ、ッ♡♡ぁ゛♡あっ♡あ♡♡♡ダメダメダメ、っ……♡♡い゛、ッ♡♡」
名前を呼ばれてる。ずっとずっと、耳元で優しくくすぐるみたいに、イーリスって呼ばれながらおちんぽズボズボされてる……♡♡
これが本当に現実なのか、あるいは私の頭が見せている都合のいい夢なのか――次第にそれすら判別がつかなくなってきて、私は彼の大きな背中に腕を回した。
「は、っ♡♡た、いさっ♡大佐♡♡そこグリグリしないでくだ、ぁっ♡ぁ゛♡イく♡Gスポットばっかりグリグリされて♡♡おまんこイきまひゅ、ぅっ♡♡♡」
力強くピストンを繰り返され、高く張りつめた雁首で執拗に気持ちいいところを刺激されると、簡単にイきそうになってしまう。
「大佐♡マルクス大佐、ぁっ♡♡イかせて♡も、おまんこイかせてください、っ……♡♡上官おちんぽぎゅうぎゅう締め付けてる♡はしたない副官まんこ♡♡このまま大佐のおっきいおちんぽでイかせて♡ん゛ォッ♡♡アクメクるぅっ♡♡」
気持ちよくて、惨めで、幸せで、胸が苦しい。
うねり蕩けるおまんこの中を強く突き穿つ肉杭の動きが、より激しさを増した。
「ッ、ぅ~~~♡♡♡」
「許可する――イけ、っ♡イけ♡♡副官まんこ思いっきり締め付けて♡上官ちんぽに媚びながらイけっ♡オレに抱かれてるって自覚しながらアクメしろっ……♡♡」
「は、ひっ♡ぁ゛♡大佐♡大佐のおちんぽでズポズポされてイきまひゅ♡お゛♡おまんこだけじゃなく、て♡♡おっぱいも触ってください♡♡♡副官の癖に♡触ってほしくてビンビンに勃起した乳首も♡♡大佐の指でお仕置きしてくださ、ぃっ……♡♡」
突き上げられるたびにばるっ♡ばるっ♡♡と大きく揺れる乳房を下から持ち支え、朱赤に染まった乳首を彼の眼前に突き出す。
すると大佐は、それまで腰をしっかりと掴んでいた手で色づいた乳首をぎゅうぅぅッ♡♡♡とつねるようにして引っ張ってきた。
「ん゛、ぁあぁッ♡♡や゛、ァっ♡イく♡♡イっぐぅ~~~ッ♡♡♡」
ビクビクと強張ったように体が震えて、一拍遅れて全身の毛穴から汗が吹き出してくる。
かすかな痛みと絶大な快感の中で極致まで押し上げられた私は、世界に白い幕がかかったような視界の中でぐったりと体を投げ出した。
(ほ、ホント、に……♡♡大佐に♡おまんこイかされちゃった、……♡♡♡)
はっ♡はっ♡♡と犬のような呼吸を繰り返しながら、今起こったことと現状を把握しようとする。
だが、体どころか指一つも満足に動かせない――深すぎる絶頂の余韻に囚われた私を見下ろして、未だ熱の萎えない大佐が舌なめずりをした。
「はは――汗で化粧が落ちると、余計に似てるな……」
苦しそうに胸を押さえて笑う大佐は、その手で私の体を軽々と抱き上げた。突き立てられたままのおちんぽが膣壁を刺激するたびに全身が震えたが、そんなことはお構いなしだ。
「許されないことを、してるみたいだ。自分の大切な副官に――オレのことを上司として信頼してくれているあの子の気持ちを、めちゃくちゃにしてる……」
ぐるんっ♡と体を反転させられ、ベッドに突っ伏すような体勢を取らされる――情けなく弛緩した体では、どうやってもお尻を突き出すような体勢になってしまう。
「ぁ……♡♡た、大佐……?」
「まだ、オレがイってない。イーリス……もう少しだけ、付き合って……」
切なげな声で名を呼ばれたかと思うと、すぐに緩やかな抽送が再開された。
イったばかりの敏感なおまんこをぐぽぐぽ♡と刺激されながら名前を呼ばれ、下腹部が再び疼きだす。
「ッぁ゛……♡ん゛♡ン、ぅううっ……♡♡」
「イーリスのまんこ……♡イったばっかりでビクビクしてる――腰動かすたびに、ぐぷぐぷいやらしい音を立てて、ちんぽ咀嚼してるの……聞こえてる?」
「は、ぃ……♡♡きこえて、ます♡聞こえてます、からっ……♡♡」
ずぢゅ……♡ずぢゅ……♡♡と柔らかくおまんこを掘削されて、一度引いたはずの快感が再び頭をもたげてきた。
今度は激しく突き上げる動きではなく、緩やかに擦りつけ、形を覚えさせるような動きを繰り返される。焦らすようなピストンに、意識していなくても自然と腰が揺れてしまう。
(こ、れッ……♡♡♡イったばっかのおまんこズリズリってされるの――無理、っ♡♡気持ちよくて、ワケわかんなくなる……♡♡)
「ッふ♡ぅっ……♡♡お゛♡ッぉ゛……♡♡ん、ぐっ♡」
腰を動かされるたびに押し出される声を、枕で口を押さえることで相殺する。ゆっくりとした動きは、激しいピストンよりもよっぽど強く二人分の肌の質感や体温を感じさせてきた。
「イーリス――ん、オレの……イーリス」
ぬ゛ぷ♡ぬ゛ぷっ♡♡ず~~り♡ず~~り♡♡にぢゅっ♡♡ぬちっ♡ぐぷぷっ♡♡♡
甘ったるい声で名前を呼ばれながら、膣奥をやんわりと撫で擦られる。
無理矢理快感を叩き込まれる動きとは違って、まるでしっかりと彼に愛されているみたいな錯覚を覚えてしまうのが恐ろしい。
「ん゛、ん゛ぅ♡ぅ、っ~~~~♡♡」
「中央軍部は男ばかりで――皆君を見るだけで居住まいを正す。わかるか? オレを含めた周囲の男たちが、どんな目で君のことを見てるのか――」
ぐぐっ……♡と後ろから体重をかけられて、そんな言葉を聞かされる。
私はふるふると首を横に振って、さらに強く枕に顔を押し付けた。そんなことは知らないし、ありえない。私のことなんて大概女として見られないという人間が多数だろう。
「美しいものを汚したい。整っているものを乱したい。誠実な人間であろうと何度自戒しても、性懲りもなく頭の中では君を犯してる」
「ん、ぐっ♡ぅ、んんっ……♡♡♡」
「幻滅されるんだろうな――本物のイーリスに、こんなことを言ってしまったら」
ぬ゛ち♡ぬ゛ち♡♡と今度は軽く腰を動かされて、弱点だけを的確に責め立てられる。
枕に顔を埋め、ぎゅっとシーツを掴んで快感をやり過ごそうとしたが、何度も嬲られた体は極限まで敏感になっていた。
腰を打ち付けられるたびに膣肉が引き締まって、貪欲に雄茎を締め付ける。
(知らなかった……♡私、なにも知らなかったんだ――♡♡♡こんなに近くで、ずっと大佐のことを支えてるつもり、だったのに……♡)
情けなくて、恥ずかしくて、涙がにじんでくる。
向けられている感情にまるで気付くことなく、彼のことを傷つけ続けていたんだとしたら。
だとしたら私は――本当に、彼の副官失格だ。
「ぁ゛、ッ♡た、いさっ……♡♡」
「上官として尊敬されたい。彼女の理想の人間であり続けたいと思う一方で――オレは、いつだってその破滅を望んでる、ッ……」
「ん゛、ぃッ♡♡♡」
ばぢゅっ♡♡とひときわ強く奥を穿たれて、下腹部の疼きがより強くなる。
ビリビリと痺れるような感覚から戻れないままでいると、再度深い場所を強く突き上げられた。
「ッはぉ゛っ……♡♡♡」
み゛ぢッ……♡♡とお腹の中で質量を増したおちんぽが、ぐりぐりと子宮口を押し上げてくる。
背筋に感じられる吐息の荒さが、射精が近いことを教えてくれた。
「オレ、の――オレのイーリス、っ……♡ッく、ぁ゛……射精る、っ……♡♡」
「や――た、大佐、ッ……♡♡♡」
ばぢゅばぢゅばちゅっ♡♡♡と一気に最奥を突かれて、再度絶頂の波が全身を飲み込んでいく――それとほとんど同時に、お腹の中で熱いものが花開くように爆ぜた。
「ンん゛、ぅっ……♡♡ぁ゛♡や、ぁっ……♡♡♡」
どぷぷっ♡♡と熱いものがおまんこの一番奥に注ぎ込まれて、その感覚だけでもイってしまう――ビクビクと体を震わせて深い快感に溺れながら、私はボタボタと涙をこぼした。
(や、だ……泣きたくなんてないのに、っ……)
こんなところで涙を流す権利なんて、私にあるはずがない。
だけど、突きつけられた想いの重さだとか、それに気づかなかった自分の不甲斐なさだとかが押し寄せてきて、こちらの意志とは関係なしに瞼が濡れた。
「っ、は……だ、大丈夫……か?」
肩を震わせている私に違和感を覚えたのか、背後から気遣わしげな声が聞こえたきた。
――今振り向いたら、多分化粧もなにも酷いことになっているだろう。
そうは思ったものの、声をかけられた以上振り向かずにはいられなかった。
「……君は」
ぐず、と鼻を鳴らして背後を振り向くと、大佐は目を大きく見開いた。
涙が化粧が崩れた顔はそれはひどいものだろう――そして、そこから普段見ているはずの副官の顔が現れたら尚更驚くはずだ。
「イーリス? いや……君は、まさか……そんな」
瞠目した大佐に、私はただ黙り込むしかない。……よりにもよって、私は上官を騙してこんなことをしてしまったのだ。
(軍法会議……いや、明日の朝には軍籍そのものがなくなってるかも……)
どこかで冷静な自分がそう呟いている気がする。とはいえ、化粧が落ちて彼が私の正体に気付いた以上は、これ以上嘘をつき続けることもできない。
「……も、申し訳ありません。大佐――その」
「……本当にイーリスなのか? いや、君は……確かに似ているとは、思っていたが」
ぽかんとした表情を浮かべるマルクス大佐が、はらはらと涙をこぼす目元を優しく拭ってくれた。
その様子はまだ動揺しているようで、改めて自分はとんでもないことをしてしまったのだと自覚する。
「はい……イーリス・ペイルバック少尉です……」
「なんて――なんてことだ。いや、そんな……君はもう、休んでいるものだとばっかり……」
いつも通り所属を名乗る声には情けないほどに張りがなくて、ついでに涙も止まらない。泣いている場合じゃないってわかっているのに、どうしても溢れてくるものを止められなかった。
「申し訳ありません……こんな、ことを……大佐にさせてしまって」
無理矢理部屋に押しかけて、挙句に体の関係を持ってしまった。
大佐は部屋で休んでいただけなのに――これではどうやっても言い訳はできない。
ぎゅっとシーツを掴んで沙汰が下される時を待っていると、しばらくの間部屋の中に沈黙が流れた。
「どうして、娼婦なんて嘘をついたんだ。君が……君がこの部屋に、イーリスとしてやってきてくれたなら……」
ややあって静寂の帳が破られると、大佐はぽつりとそう呟いた。
てっきり厳しい叱責が飛んでくるかと思っていた私は、その弱々しげな声にハッとして顔をあげる。
「そ、れは――その」
「都合のいいことを考えるぞ。オレは……君が、自分自身の意志で、俺に抱かれに来てくれたんだって」
汗に乱れた赤い髪が、ちらりと視界に映る。
都合がいいだなんて――私からしてみれば、彼の言葉こそが自分にとって都合の良い言葉に聞こえた。
そう。まだ夢の続きを見ているんじゃないかとすら思えるくらいに。
「誰かに命令されて、この部屋を訪れたわけではありません。……わ、私の意志です……」
ぐず、と小さく鼻を鳴らして、随分と腫れぼったくなった目を擦る。
視線はどうやっても彼と合わせることはできなかった。そもそも、その資格すら私には存在していない。
「――イーリス」
「……はい」
「幻滅しただろう」
また小さく鼻をすする。
心細そうな声につられて視線をあげると、大佐は迷子になった子どものような表情を浮かべていた。
「オレはいつも、君にあぁいった――醜い感情を抱いていたんだ。理解のある上官でいようとしながら、頭の中では……君のことを、ずっと求めていた」
きつく眉を寄せ、苦しそうに唇を噛んだマルクス大佐が、そっと手を伸ばしてくる。
――その手を振り払うことなんてできるはずがない。私は甘んじて彼が触れる手のひらを受け入れ、されるがままにその腕の中へと飛び込んだ。
「この期に及んで、オレはまだ君に焦がれてる。……多分もう、今までと同じように君に接することはできないと思う」
きつく体を抱きしめられて、彼の鼓動をしっかりと感じる。
大佐の言葉を、このままの意味で受け取ってしまって本当にいいんだろうか。まだ夢の中にいるような心地でそう自問自答を繰り返す私の鼓膜を、更に彼の声が叩く。
「それでもオレには、君が必要なんだ。イーリス……どうか、どこにもいかないで」
絞り出すように呟かれた言葉に、強く胸が締め付けられる。
……本当に夢じゃないのかを確かめるように軽く肌を抓ってみると、確かに痛みを感じた。
「最低なことをした自覚はある。君のことを大切だと言いながら、オレはあんなに、酷いことを」
「……それは、私も――大佐がそうなるように、誘ったのは私です。責任の所在は私に――」
「違う。責任なんて、感じなくていい」
力強く言葉を否定され、さらにきつく体を抱き寄せられた。汗ばんだお互いの皮膚が、ひた、とくっついて離れない。
「お願いだ。オレのそばにいて。ずっとここで……オレのそばから離れないでいてほしいんだ」
切実なその言葉は、逃れられないほどに色濃い欲と熱を孕んでいる。
そこでようやく、私は彼の言葉をそのまま受け入れることができた――夢ではないのだと、ようやく実感することができたのだ。
「……あの、お咎めは」
「ない。あるわけないだろ、そんなの――君が査問委員会にオレのことを告発するって言うなら止めはしないけど」
その言葉に、抱きしめられたままでぶんぶんと首を横に振る。
そうしてお互い視線が絡む度に唇を重ねあい、静かな夜はゆっくりと更けていった。
● ● ●
「――というわけで、今回の大雨被害については五年前の豪雨の際の教訓を活かし、早急な堤防の復旧作業並びに税率の引き下げ、十分な食料備蓄の確保を最優先に部隊を派遣しています」
定例会議にて、マルクス大佐は一切の淀みなく現状の報告と今後の課題を発表し終えた。
国王陛下への提言を行うための重要な会議ということもあり、ミーコット将軍も厳しい表情を浮かべてゆっくりと頷く。
「承知した。陛下は早急な人員派遣を高く評価している。こちらからも、必要物資を優先的に輸送できるように進言してみよう」
「ありがとうございます。……では、自分から報告は以上となります」
大佐の動きに合わせて頭を下げて、会議でのおおよその仕事は終了だ。今回の定例会議に向けてかなり準備をしてきたので、何事もなく終えることができたのはただただありがたい。
(これが終わったら休日……長かった……)
ここ数日はこのために働き詰めだったので、会議が終わる頃にはヘトヘトになってしまった。
大佐もずっとここ数年分の災害資料と向き合っており、若干テンションがおかしいまま会議に参加したくらいだ。
「マルクスよ! お前、今日の発表は随分気合が入ってたじゃないか。ん? やっぱりアレか、婚約すると男として身が引き締まるんだろう」
「なーに言ってるんですか……ちゃんと職務を遂行しただけです。オレの婚約のことは関係ないですって……」
「関係ないわけなかろうが! ったく、イーリス嬢といつになったらくっつくかって賭けまでしとったのに、気付いたらホイホイと婚約しおって……」
「ちょっと待ってください。それ初耳なんですけど……」
ハァ、と重苦しいため息をついたマルクス大佐に、私はただ苦笑するしかない。
婚約――というのもちょっと妙な気持ちになるのだが、一応あれから大佐とは結婚の約束をした。
実家の両親は私がいつ軍部を辞して結婚するのかとやきもきしていたようだが、相手がマルクス大佐だとわかると腰を抜かしていたほどだ。
(いろんな方面に心配されてたの、知らなかったなぁ……)
職務一筋に邁進していくつもりだったので、そもそも結婚の予定そのものがなかったわけだし――それでもいいと思っていたのだが、大佐はしっかりと私たちの関係に名前を付けてくれた。
「しかし、これでお前の親父さんたちにも顔向けができるってもんだ。あっ、まだくたばらないからな? お前の娘の結婚式に出るまではおっ死んでられんからな!」
「いつまで生きてるつもりなんですか……っていうか、そもそも娘ができるかどうかもわからないのに」
豪快に笑って去っていくミーコット将軍を見送ってから、大佐はまた深々と溜息を吐いた。
「マジでデリカシーの欠片もない爺さんでごめん。アレでも一応世話になってるし……」
「い、いいえ。その……いつまでもお元気でいていただきたいというのは、軍部の総意でもあるので……」
そんな話をしながら執務室へ戻り、二人で少しお茶をすることにした。
とにもかくにもここ数日はとんでもない忙しさで、こうしてゆっくりとした時間を過ごすことすらできなかった。
(資料の精査怠って予算案出したら即突っ込まれるし……本当に辛かった……)
事務仕事は嫌いではないのだが、重要案件であるが故の責任や監査の厳しさはなかなか辛いものがある。
今日のためにと買っておいた王都で人気のパティスリーの焼き菓子に、最高級の茶葉を用意して、二人だけのお茶会の準備を進めた。
「……いい香りがする」
どっかりとソファに腰かけて疲労を隠そうともしない大佐が、ぽつりと呟いた。
一昨日昨日は彼もほとんど眠れず、目の下にはうっすらと青黒い隈が浮かんでいる――今日さえ乗り越えたら休日なので、後はゆっくり休んでほしい。
「お茶を淹れました。大佐の好きなフレーバーティーですよ」
「あー……ありがとう。前に買って来てくれたイチゴのやつ? すごいいい香り……」
やや眠そうな口調ではあったが、温かい紅茶を差し出すとその表情はパッと明るくなった。
彼の隣に腰を下ろした私は、お茶請けに買ってきたいくつかの焼き菓子もテーブルの上に並べていく。
「甘いものとか久々に食べるな……なんというか、すごい染みわたる感じ……」
「わかります。ここの焼き菓子はすごくおいしくて――私も、食べるの楽しみにしてたんです」
仕事が終わると大体パティスリーは閉まっているので、今回は昼休みにこっそりと買いに行ってきた。
軍服を着た私が行くにはやや可愛らしすぎるお店なのだけれど、味は一級品だ。
「……イーリス、今日オレの家おいでよ。明日から休暇なんだし――ウチでゆっくりしていけばいい」
「そ、れは……えぇと、さすがにまだ――」
「婚約してるって発表したんだから、誰も君のことを咎めたりしないさ。婚前だからってとやかく言われるなら、今から国王陛下に直訴して結婚を認めてもらってもいい」
いつもよりやや幼いような様子でぐずる大佐は、きっとそれだけ疲れが出ているのだろう。
婚約と言っても、貴族である私たちが結婚するためには国王陛下の正式な許可が必要だ。その手続きに数か月かかってしまうということもあって、今は彼の邸宅には赴かないようにしていた。
「ここで大佐の評判に傷をつけるわけにはいきません。ちゃんと陛下から、正規の手順で許可をいただいたら――そうしたら、ちゃんとお宅に参りますから」
「……それじゃ我慢できないから言ってるんじゃないか」
「え――わ、ぁっ!」
グイっとお茶が入ったティーカップを傾けて中身を飲み干した大佐が、いきなり私の腕を強く引っ張ってきた。
「た、大佐……!」
「顔真っ赤だ。かわいい……会議だから仕方がないとはいえ、ここ最近は全然君に触れてなかったし」
押し倒されるような形でソファの上に組み敷かれた私は、呆然としながら大佐のことを見上げるしかできない。
――いや、まずい。
二人きりの寝所ならともかく、ここは軍部の中心部。外にはひっきりなしに誰かが歩いているし、もしも――万が一、誰かがやってきてしまったら。
「お待ちください大佐! さ、さすがにここでは、っ……!」
「大丈夫。この時間なら誰も来ないよ。俺たちが死ぬほど重たい定例会議潜り抜けたのはわかってるだろうし……野暮なことはしないって」
そう言ってにっこり笑った大佐が、ぷち、と軍服を脱がせてくる。
まずいと思って抗議の声を上げようと開いた唇は、体温よりも少し高い彼自身の唇でふさがれてしまった。
「ンむ、っ……♡♡ふ、ぅっ♡ん♡ちゅ、ぅっ……♡♡」
触れるだけのキスを、角度を変えて何度か繰り返される。
すると、貪欲な私の体は面白いほどに熱を帯び、緩やかなくちづけに反応していった。
「ぁ、んんっ♡や、大佐……だ、だめ……♡♡」
「上官に嘘をつくのか? 物欲しそうに顔を蕩けさせてながら腰をくねらせているのに」
ぷちゅ♡と唇を押し付けられて、蛇のようにうねる舌先が咥内に潜り込んでくる。
お互いの唾液を絡めるように舌先同士が重なりあうと、もう抵抗することはできなかった。久しぶりに与えられる熱と快感が、徐々に体から力を奪っていく。
「ん゛ぅ♡ちゅ♡ん、ぁ……♡♡あ、たま……ビリビリする……♡♡」
「ほら、イーリスだってオレのことが欲しくなってる――口開けて。もっといろんなことがどうでもよくなるくらい、気持ちいいキスをしよう」
するりと頬を撫でられて、言われるがままに口を開ける。
そうすると彼の舌が頬の内側をぞりっ♡となぞってきて、腰のあたりにむず痒いような刺激が生み出された。
「ん゛ぁ♡ぁ゛、んんっ……♡♡ん、ふ♡ちゅ……♡♡♡」
ぢゅるるっ♡ちゅ♡♡ぷちゅっ♡れろ♡れろ♡♡ちゅぱ♡♡ぢぅううっ♡♡♡
キスを繰り返すたびに頭の芯が蕩けていって、本当になにもかもがどうでもよくなってしまう。
軍服の下に着ていたシャツも巧みな指先がボタンを外していってしまって、中途半端に服がはだけ落ちた。
「ん、ぁ……♡♡大佐……♡」
「は――すごい。全部脱がせないっていうのも、これはこれで……」
ゴク、と唾を飲んだ大佐が、はだけたシャツの隙間から骨張った手を差し込んだ来た。
柔らかいふくらみに指先が沈むと、びくんっ♡♡と体が跳ねた。ほんの少し肌に触れられただけなのに、心臓の鼓動が早くなって体にじっとりと汗が浮かぶ。
「ん゛ァ、ッ……♡♡」
「ほら、イーリスだって我慢してたんだろ? ちょっとおっぱい触っただけで、もうこんなに感じてる」
クスクスと笑う大佐が、もう片方の手をスカートの中に差し込んできた。
触れられるのが久々ということもあったが、お互い極度の緊張を乗り越えた後で若干頭が働いていない――さしたる抵抗もできずに彼の動きを受け入れてしまった私は、その甘い愉悦に身を捩った。
「ん、ふっ……♡ぁんっ♡あ――……♡♡」
「下着越しでも、まんこトロトロになってる……触られるの、期待してたんじゃない?」
「そんなこと、っ♡あ、まって――本当に、こんなところでっ……♡♡」
二人きりの執務室で、互いの吐息の音だけがやけに響いて聞こえる。
下着の上から割れ目をなぞられて体から力が抜けてしまった私は、ぼんやりとした心地でその音を聞いていた。
「仮に誰か来ても、踏み込んでくる勇気なんてないだろ。ここはオレの執務室なんだし――まぁ、あんまり喘ぐとびっくりされるかもしれないけど」
「ひぅっ♡♡」
ぐちゅんっ♡♡と下着の中に指を突き立ててきた大佐が、蕩けた蜜口にずぶずぶと指を沈めてくる。
随分と容易く指先を受け入れられるようになったその場所は、まるで喜ぶようにうねって膣内を締め付けた。
「ん゛ァ、ッ♡♡た、たいさ……♡マルクスさま、だめっ♡♡あ♡変な声、いっぱい出るぅ……♡♡」
ぐちゅぐちゅ♡♡といやらしい水音を立てて膣壺が攪拌されて、緩やかに腰が揺れてしまう。
そうすると、大佐もその動きに合わせて指先で弱いところをぐり♡ぐり♡♡と押し込んできた。
「ふっ♡あ♡あ♡そこ、弱いのに、ぃっ♡あ♡♡グリグリしちゃダメ♡♡だめ、ぇっ♡ンぁ♡ぁ゛♡あ、ッ~~~♡♡♡」
「お、っと」
びくんっっ♡♡と大きく体を跳ねさせて、あっという間に快感の極致まで押し上げられる――こんなに呆気なくイってしまうものかと自分でも驚いたが、それは大佐の方も同じだったらしい。
「ッ、ぅ……♡♡す、みませ……♡なんでこんな♡こ、こんなことで……♡♡♡」
全身からじわじわと汗が滲み出て、目の前がチカチカする。
いくら久しぶりとはいえ、こんなに簡単にイかされてしまうとは思いもよらなかった。
(む、無理♡もう完全に、全身発情してる……♡♡♡副官として♡婚約者として♡♡♡ちゃんと、止めなくちゃいけないのに♡♡もうおまんこ犯してもらうことしか考えられない♡♡♡)
ぢゅぽ♡ぢゅぽ♡♡ぬちぬちぬちっ♡♡ぐに♡♡♡ぐちゅ♡ぐちゅっ♡♡♡
指先を小刻みに動かされて、淫蜜が滲む媚肉をひっきりなしに刺激される。その度にへこっ♡へこっ♡♡と腰が揺れてしまって、なす術なく快感に溺れるしかない。
「お゛、ッ♡♡んぅっ♡ふ、ぅううっ……♡♡♡」
「一回イっちゃったんだし、別に気持ちいいの我慢しなくていいよ――オレも、君の可愛いところ見てたらちんぽ苦しくなってきたし……♡♡」
妖艶に舌なめずりした大佐が、軍服の上着を脱ぎ捨ててベルトに手をかける。
すぐに取り出された勃起おちんぽは、苦しそうに怒張して先端から涎をこぼしている。
「処理とか掃除とか、後で全部オレがやるから――ごめん、イーリスっ……♡♡」
「ひぁ、っ♡」
まだ下着を脱がされていない両足を抱えられたかと思いきや、その中心に屹立したおちんぽがずりゅっ♡と潜り込んでくる。
両足を閉じた形で抱えられ、下着の上から熱い肉杭を押し付けられて、その熱さに眩暈がした。
「ん゛んっ♡♡♡や、し、下着……取って、っ……♡」
ぬち♡ぬち♡といやらしい音を立てておちんぽを下着越しに擦りつけられ、その度に腰が動いてしまう。
挿入を伴わない疑似的なセックスは、余計に体の熱を高ぶらせてきた。
「ごめ、っ……ぁ゛、ッ♡やばいな、これ……下着ぐちゃぐちゃにしながら素股するの、すごい気持ちいい……♡」
ずりずりと先走りを擦りつけるように腰を動かされて、下着はあっという間にぐちょぐちょになってしまった。
滲み出る二人分の体液を吸って重くなった布越しに亀頭を押し付けられると、本当にこのまま挿入されてしまうんじゃないかという錯覚に陥る。
「んゃ、もっ……♡♡挿入れ、て♡やぁっ♡♡下着ズリズリ♡やめてくだ、ぁ♡あっ♡♡はやく……♡お、おちんぽズポズポして、ください……♡♡」
しきりに下腹部が疼いても、一向にその疼きを満たしてはもらえない――そのじれったさに腰を揺さぶり挿入を懇願する。
そうすると、大佐はぐっと体を起こして再び軍服の中に手を突っ込んできた。
「ンぁッ……♡♡」
「さっきより乳首コリコリしてる。体温も高くて――本当に、もうちんぽ待ちきれないんだ?」
わざと羞恥を煽るような言葉で責め立ててくる大佐に、私はただこくこくと首を縦に振った。
とっくに理性なんて蕩けてしまって、ひたすら気持ちよくなることしか考えられない。
(早く、おちんぽ……♡♡大佐のおちんぽ欲しい♡♡♡奥の方ずぽずぽ♡どちゅどちゅ♡ってされて――さっきよりいっぱいイきたい♡♡早く♡♡)
頭の中は、もうそんな気持ちでいっぱいだ。
ここがどこだとか、今が執務中だとか、そんなことはさっぱり全部抜け落ちて、ただただ快感だけを追い求めてしまう。
「お♡おちんぽ、ほしいです……♡♡大佐のおちんぽで♡おまんこいっぱいにして♡♡♡子宮にいっぱい――せ、せーえきびゅっびゅってして、ほしいです……♡♡♡」
震える声で懇願すると、大佐がすっと目を細めてくる。
意味をなさないほどに濡れそぼった下着が指先でずっとずらされ、その隙間から淫唇に亀頭が押し当てられた。
「ぅ、あっ……♡♡」
「そんな風におねだりされたら、オレも我慢できなくなっちゃうな……♡♡」
「ん゛ゃ、ぁあっ♡♡ぁ゛♡あんっ♡ッ、あ♡♡♡おちんぽ♡おちんぽきたぁっ……♡♡」
ぬ゛ぐっ♡と鈍い音を立てて、待ち焦がれていた刺激が全身を駆け巡る。
疲労感と緊張感、そして長らくの欲求不満で燻ぶっていた体に、その刺激はあまりにも甘美だった。
「お゛ぐっ♡お゛♡お゛♡♡♡や、はいって♡♡入ってきたぁ♡大佐♡たいさ、ぁっ♡♡♡あ♡ありがとぉ♡ございましゅ、ぅっ♡♡♡んぁ♡あっ♡♡」
「ちょ、締めすぎ――♡めちゃくちゃ搾り取ろうとして、っ♡あーもう、めっちゃ可愛い……♡♡」
ばぢゅっ♡ばぢゅっ♡♡ぱんぱんぱんっ♡♡♡ぐぽぽっ♡ずちゅ♡♡ぐぷんっ♡♡♡
容赦なく腰を揺さぶられ、最奥を何度も何度も力強く突き穿たれて、その度に幸せで仕方がなくなる。
こんなふうに、自分が誰かに愛されている――それが一夜の夢ではなく現実なのだというのが、こんなにも幸福なことだなんて知らなかった。
「イーリス、っ♡♡自分で腰振って♡気持ちいいところ、自分でグリグリってしてごらん……」
「は、ぃ♡♡んぅ♡あ♡あっ、っ……♡♡こ、こぉっ♡♡ん゛ァ♡ぁ゛♡おちんぽ擦れる、たびにっ♡あたま♡パチパチって、しゅる、ぅっ♡♡♡」
ず~り♡ず~り♡♡と緩慢に腰を動かしただけでも、気持ちいいところに擦れてイきそうになってしまう。
自分で一番感じる場所におちんぽを擦りつけ、胸元をまさぐってくる手に自らの手を重ねて淫楽に耽り続けることに、なんの抵抗も感じなくなってきた。
「は、ぁんっ♡あ♡たいさ♡大佐、っ……♡♡キスして、ください♡おねが――んんっ♡」
緩やかなピストンが徐々に激しくなる中でそう懇願すると、大佐はすぐに身を屈めて唇をついばんできた。
ぢゅぷぢゅぷと淫らな水音を立てながら膣奥を穿たれ、咥内は彼の舌でいっぱいにされる。まるで、全身をマルクス大佐に支配されているみたいだ。
(キスハメすき♡♡♡いっぱいちゅーされながら♡おまんこぐぽぐぽ♡おちんぽで思いっきり殴られるみたいな激しいえっち最高♡♡♡婚約者おちんぽ好き♡♡好き♡♡♡)
好きで、好きで、おかしくなってしまいそうだ。
私だけがこんなに彼に焦がれているんじゃないかと不安になるくらい、大佐のことを愛している。
女として、いわゆる王道の生き方をしてきたつもりはないのに――それなのに、彼はこうして自分を求めてくれた。それが何よりうれしくて、誇らしい。
「は、んんっ♡ちゅ♡♡ん、はっ……♡♡たい、さぁ……♡♡すき♡すき、です♡♡♡」
ふわふわとした心地で、何度もそう繰り返す。
口に出して伝えなければ、この気持ちがどこかへ消えてしまうような気がして――何度も何度も彼を好きだと口に出すと、彼は面映ゆいような表情を浮かべて再び唇同士を押し付けてきた。
「ん、っ♡」
「恥ずかしいけど、結構嬉しいな。君はあんまりそういう直接的な感情を伝えてくれないから」
ちぅ、と音を立てて唇が離れ、ずんっ♡と深いところを突き上げられた。
全身の毛穴が開くような感覚さえ覚えながら、絶頂への階を登っていく。
「ぁ――す、好きです……♡♡ずっと、あなたに救われた時から……♡」
へにゃ、と力なく笑う私とは対照的に、大佐はきゅっと眉を寄せてより抽送を強めてきた。
ばちゅばちゅばちゅっ♡♡♡と腰を打ち付ける速度と強さが増すごとに、視界が揺れて喜悦が大きく膨らんでくる。
(あ♡おちんぽビクビクしてる♡♡♡大佐イくんだ♡♡射精♡射精してもらえるぅ……♡♡♡)
こんなところで中出しされたら、この後はもう仕事どころじゃない――頭ではわかっているのに、体は貪欲に熱を求めていた。
うねる膣壁を擦るようにして雁首が悦い場所を擦り上げて、最奥を押し開くように子宮口をノックされる。
「ん゛ぁっ……♡♡」
「イー、リスッ……♡♡」
ぶぢゅっ♡♡びゅるるっ♡びゅ♡♡ぶびゅ~~~♡♡びゅぷっ♡♡びゅっ♡♡♡
絞るような声で私の名を呼んだ大佐が、もったりとして濃い精液を膣奥へと注ぎ込む。
それとほとんど同時に愉悦の淵へと押し上げられた私は、声を上げることもできずにビクビクと体を震わせた。
「ん゛、ッ♡♡んぐ、っ♡っ~~~♡♡♡」
「は――うわ、悪い……全部ぐちょぐちょになってる……」
吐き出された精液と、こぼれ落ちる愛液――汗も涙も何もかもが入り混じった液体がソファと床を汚していたが、もうお互いにそれどころではなかった。
「……イーリス? 大丈夫か……?」
「だ、だいじょ、ぶ……じゃ、ないです……♡♡ダメだって、い、言ったのに……!」
はあはあと荒い呼吸を繰り返しながら大佐を睨みつけると、彼は赤い髪を揺らして申し訳なさそうに笑った。
――まさか本当に、執務室でこんなことをするとは思わなかった。
「悪かったって。ちゃんとオレが後始末するし――あっ、体も拭いてあげるから」
「結構ですっ! もう……!」
せっかく整えていた髪も乱れているし、下着なんて本当に大変な状態だ。
とりあえず乱れた服を整えていると、散々な有様になった執務室の後始末を買って出た大佐と視線が合う。
「……な、なんですか……」
「いや――やっぱり今夜ウチにおいでよ。今の一回だけじゃ、オレ全然満足してないから」
体力はあるからね――そう言ってニッと笑った大佐に悲鳴じみた抗議をしながら、私はなお疼く下腹部にそっと手を当てた。
……家族には、今から大佐について出張とか適当なことを言っておくとしよう。