屋敷の庭にカラスが集まっているのを見て、なんだか嫌な予感がした。
古びた別邸の庭は全くと言っていいほど手入れされていない。当たり前だ。この屋敷に仕えている庭師なんていない。ここにいるのは、家を追い出された私――ダフネ・ランカルテスと、私に仕えている老夫婦だけ。
誰も手入れができない庭は時々野兎が顔を出したが、これほどにカラスが集まっているのは初めて見た。
「な、なにあれ……」
目付の老夫婦に見とがめられないように庭に出た私は、目の前に広がる光景に思わず眉をひそめた。
なにか――不気味なほどのカラスの大群の中に、なにか白くて小さなものがいる。
「もしかして、襲われてるの?」
大きさからみて小動物、それこそ野兎か犬、あるいは猫だろう。
ギャアギャアとけたたましく声を上げるカラスの群れを凝視すると、その中心で啄まれているのが小さな猫であることに気が付いた。
(このままじゃあの子、殺されちゃう……!)
見たところ、カラスの数は五匹から六匹――こんな時、私が魔導を使える人間だったらすぐに助けてあげることができただろう。
「っ……」
けれど、自分の無力さに打ちひしがれている時間はそう長くはなかった。
早くしないと、あの白い猫が殺されてしまう。そう思って、手近にあった小さな石を持ち上げ、カラスの群れに向かってそれを思い切り投擲した。
「え、えいっ!」
こんなところ、じいやとばあやに見られたらまたお説教をされてしまう。
だけど、目の前でただ白猫が嬲られているのを眺めていることなんてできない。
決意をこめて投げた石は、力が入らないなりにきちんと放物線を描き、カラスたちの群れへと投げ込まれた。
それに驚いたカラスたちがバサバサと飛び去って行くのを確認してから、私はそっと白猫に近づいてみる。遠目から見てもわかるほどに痛々しい怪我を負ったその猫は、ぐったりとして動かない。
「……大丈夫? 酷いことをされたのね……」
本来なら、白く美しい毛並みを持った猫だったに違いない。
今はあちこちが啄まれ、赤と白のまだら模様になってしまうほどの大けがを負っている――特に一番ひどいのは、後ろ足につけられた大きな傷だ。
(傷薬と、それからお湯が必要ね。あとは清潔な布……薬と布はいいとして、竈に向かったらきっとばあやがいるはず)
彼らは私の監視役であって、味方ではない。
実家のランカルテス侯爵家に雇われている二人の老夫婦は、私がなにか不審な動きをした瞬間にそれを両親へと伝えるだろう。野良猫を拾ったことが知れたら、なにをされるかわからない。
「……少しの間だけ、静かにしていてね。お薬を用意してあげるから、私の部屋に行きましょう?」
それでも、消えゆく命を見過ごすことはできない。
小さく呼吸を繰り返す猫を抱え上げて、見つからないように部屋へと戻った。
「こんな時、炎属性の魔導が使えたら便利だったけど……」
この国では、貴族の血筋にある人間は魔導という特殊な力が使えるのが一般的だった。
いや、むしろそれが貴族である条件ともいえる――稀に生まれる私のような無能力者は、それだけで貴族社会の爪弾きになるほどだ。
高い魔力と、多彩な魔導の才能を持つ者こそが尊い血筋にふさわしい。
そんな風潮が根強く残るこの国で、私のような出来損ないはそれだけで家の面汚しだ。
例にもれず、生家であるランカルテス侯爵家で、私はほとんどいないような扱いを受けていた。妹が非常に優秀な風属性魔導の使い手だったので、両親は無能力の私ではなく妹の教育に専念するようになった。
そして――一年前、私は婚約者から婚約の破棄を告げられてここにいる。
(テイラーに恋人がいるのも知っていたけど……あれは少し、堪えたなぁ……)
部屋に戻ってきた私は、寝台の上に清潔な布を敷き、そっと白猫を寝かせてあげた。
できれば傷口を洗い流せるぬるま湯が欲しかったのだけれど、ばあやに見つからないように冷水を用意するので精いっぱいだ。
「冷たいかもしれないけど、少し我慢してね。……ずっと一人で我慢していたのね」
猫は成猫のようだったが、肉付きは薄い。野良猫かと思っていたが、首には鮮やかなエメラルドグリーンの首輪がつけられている。
「あなた、飼い猫なのね。じゃあ早く元気になって、ご主人様のところに帰れるようにならないと」
驚かせないように小さな声で話しかけると、猫はようやく身じろぎをし出した。
血で汚れていた目元を濡らした布で拭いてあげると、そっと目を開けてくれる。右目が青、左目が金色のオッドアイ――白く眩いその毛並みも相まって、神秘的なまでの美しさを感じてしまう。
「……足の傷が一番ひどいのね。薬を塗っただけで、ちゃんと治ってくれるかしら」
冷たい水に布を浸し、硬く絞って体を拭いてあげる。
そうすると、カラスたちに啄まれていた傷はそれほど深くはないことがわかった。ただ、その数が多かったので出血も多いように見えたのだろう。
むしろ心配なのは、後ろ足についた大きな傷跡だ。
切り傷というには、少し傷口が広すぎる、けれど擦過傷と呼べるほど浅くはなく、なにか強い力で抉られたような痕が残っていた。
(もしかして、このまま歩けなくなってしまうかも……)
もし傷口が膿んでしまったり、更に深く傷がつくようなことがあれば、きっとこの猫は歩くことができなくなってしまうだろう。
しっかりと薬を塗りこんで包帯を巻いてから、薄く目を開いた白猫に声をかける。
「いい? この部屋は少し窮屈かもしれないけれど、あなたのためなの。傷が塞がるまで外に出してはあげられないわ」
与えられている部屋は、それほど広い造りをしていない。
ベッドと小さな机、暖炉があるだけの部屋は、きっとこの猫には窮屈だろう。
「ちゃんと傷が治ったら、外に出られるようにしてあげる。だから、それまで我慢してね」
そっと声をかけると、猫は心得たと言わんばかりに瞬きを二度繰り返した。
大怪我をしているのに、気を立てることもない。この子は頭のいい猫なのだろう。
体を綺麗にし終えた後はそのまま眠ってしまったらしく、規則正しく体が上下するのを見てなんとか胸をなでおろした。
(食事は、私と一緒のものでもいいかしら……)
とはいえ、大層なものを食べさせてあげられるわけではない。
実家は私のことをかろうじて死なせないようにはしているものの、どこかで死んでしまっても問題はないと思っている。
――いや、きっとここで死んでしまった方が、両親や妹には都合がいいのかもしれない。
(男爵令嬢の暗殺未遂がかかっている姉なんて、いない方が絶対にいいもの……)
メイボリー男爵令嬢――かつての婚約者であるテイラーの、今の恋人だ。彼女は一年前、暗がりで暴漢に襲われかけたという。
そしてそれを仕向けた犯人は私――知らぬ間にそんな事件の犯人にされていた私は、家名を穢したと言われて辺境の地に封じられた。
「私、なにもしてないんだけどなぁ……」
曰く、婚約者の心変わりを知った私がメイボリー男爵令嬢を傷物にしようと人を雇ったのだとか。
当然そんなことをした覚えはないのだが、この国で魔力を持たない貴族の話を聞いてくれる人間なんていない。事の真偽よりも侯爵家の名を守ることを優先した両親が、私を僻地の別荘に遠ざけたのだ。
無論、傷つかなかったわけではない。悲しかったし、とても悔しかった。けれど今の私では、自分の評価を覆すことができないのが現実だ。
「お嬢様――お食事をお持ちいたしました。中に入ってもよろしいですか?」
ぼんやりと過去を思い返していると、扉の前から声がかけられる。
ばあやが夕食を持ってきてくれたのだが、このままでは猫のことを知られてしまう。
「あ、ありがとう。……その、風邪をひいてしまったみたいだから、そこに置いておいてもらえるかしら?」
「風邪でございますか?」
「えぇ……」
なんとか声を潜めて、それっぽい声を出してみる。
ばあやは扉の前でしばらく黙っていたが、何度か空咳を繰り返すと、食事を部屋の前に置いてくれた。
「薬湯をご用意しますので、そちらをお飲みください」
「……はい」
……薬を用意してもらうのは申し訳なかったけれど、今はこの白猫の命が大切だ。
ばあやの気配が遠ざかったのを確認してからそっと扉を開けて、薬と食事を部屋の中に運び込む。薬瓶は窓の側に置いておいて、まずは食事に手を付けた。
野菜を煮込んだスープなどは、猫が食べてもいいものだろうか――柔らかく煮込まれた人参と鶏肉を小さくほぐして、その口元に持っていく。
「食べられる? 今は辛いかもしれないけれど、少し食べて力をつけなくちゃ」
せっかく眠りについたところ悪いが、食事を摂らなければ怪我も治らない。
白猫の体をそっと揺さぶると、彼(おそらく)はそっと目を開けた。
口元にスプーンを近づけてもなかなかそれを食べてはくれない。もしかして警戒しているのかと思い、先に私がそれを口に入れてみる。
「ほ、ほら、とってもおいしいのよ? あまり味付けも濃くないし、危険なものは入っていないから。ね?」
伝わっているかどうかはわからないが、再び鶏肉をほぐして口元に運ぶと、彼は少しずつではあるけれどそれを咀嚼してくれた。
(よかった、食べ物は食べられるのね――)
何度か鶏肉を口元に運び、彼がそれを食べるのを確認する。
食欲はあるようで、ちゃんと水も飲んでくれた。この調子ならばきっと、回復は早いだろう。
「早く元気になってね。あなたのことを待っている人がいるんだから」
美しい緑色の首輪――これをつけた人は、きっと彼の帰りを待っていることだろう。
猫は私の言葉を理解しているのか、またぱちぱちと目を瞬かせた。ゴロゴロと喉を鳴らす彼の姿はとても優美で、もしかするとどこかの貴族の家で飼われている猫なのかもしれない。
(飼い主もきっと、この子のことを心配しているはず……)
これほど頭のいい子だ。きっと、飼い主にも愛されていたに違いない。今も彼のことを探しているであろう飼い主のことを思うと、とても胸が痛くなった。
「安心してね。きっと元気になるわ……」
寝台は一つしかないので、猫の傍らに私も横たわる。
すると、気持ちが落ち着いてきたのか強い眠気に襲われ、私はそのまま眠りの淵へと落ちてしまった。
そして、その日から――私はとある夢を、毎日のように見ることになる。
● ● ●
「っあ♡あ、ぅうっ……♡♡んっ♡ンんぅ♡♡は、ぁんっ♡♡♡」
体が、熱い。
ドクドクと、血の巡りがいつもよりずっと早くなっているのを感じながら、私はうっすらと目を開けた。
(あぁ、また……また、いつもの夢――)
「ダフネ、目が覚めたのかい?」
「……ケイレヴ」
「眠っていてもいいよ。疲れただろう」
柔らかな声が、まず鼓膜を揺さぶってくる。それにつられて瞼を開くと、そこには普段と何一つ変わらない私の部屋があった。
月明かりが指すその部屋の中で、いつもとの違いはただ一つだけ――白い髪をした男の人が、私の上に覆いかぶさっている。
「や――ケ、ケイレヴ、だめ……♡」
白髪の若い男性は、自分のことをケイレヴと名乗った。
驚くべきことに、彼の瞳は数日前に拾った猫と同じオッドアイになっている。まるで示し合わせたかのように、猫を拾った次の日からケイレヴが夢に出てくるようになったのだ。
「なんで? いつも気持ちいいって教えてくれるじゃないか……ほら、体から力を抜いて。今日も私が、君のことを愛してあげる」
ケイレヴは、とても美しい。
決して女性的ではない、男性としての美しさを持ちながら、その微笑みはとても華やかだった。微笑まれると、彼の言うことを何でも聞いてしまうような気さえする。
でも――でも、この夢はなにかがおかしい。
「ほら、聞こえる? ダフネのおまんこ、私に触られるのを期待してもうこんなにぐちょぐちょになってる」
「や――ぁ、あっ♡」
夢の中の私は、いつも服を着ていない。
だからこそ私はこれが夢だとわかるのだが、いくら夢の中とはいえ服を着ていないのはかなり抵抗がある。
「ダフネ。私のダフネ――君が気にするようなことはなにもないんだ。ただ私に身を委ねて、愉悦を感じていればいい」
歌うようにそう囁いてくるケイレヴが、私の内腿に指を這わせてくる。
(いけない――こんなに淫らな夢を見るなんて……)
私は毎夜、ケイレヴに体をまさぐられる夢を見る。
最初は触れるだけのキスだったのが、夜ごと淫らさを増していった。
今では私の体はことごとく彼に暴かれ、かいかんにあらがえなくなってしまう。
夢の中で、それも男の人に体を触られるなんてはしたないにも程があるが、このところはいつも彼が夢に出てきて、私の体をくまなく堪能していくのだ。
「や――」
「さっき少しだけ触ったけど、ナカでも感じられるようになってきたんだね。嬉しいよ――ほら、指一本くらいなら簡単に入ってしまうね?」
「ひ、ぁンっ♡♡あ♡だめっ……♡♡ケイレ、ヴ♡やっ♡ぁ♡あぅっ♡♡♡お、おまんこさわっちゃだめ……♡♡ひぁ、ぅッ♡♡」
ちゅぷんっ♡♡と指先を蜜口に突き立てられ、軽くナカを攪拌される。
少し前まではそんなことをされても苦しいだけだったのに、今は指で膣内をぞりぞり♡となぞられるだけで腰が浮いてしまう。
「は♡ぁ、あんっ……♡♡だめ♡♡や゛、っ♡あ♡あっ♡♡あっ♡」
「駄目と言いながら腰を揺らして、説得力がないな――あぁ、それともダフネは胸を弄られるのが好きかな? ほら……乳首もこんなに可愛く色づいて、触れてほしいと私を誘っているね」
くちゅっ♡♡つぷぅ……♡♡♡ぐちゅ♡ぐちゅっ♡♡ぬぷぬぷぬぷっ♡♡♡
最初は浅い位置をなぞっていた指先が、どんどん奥まった場所へと沈み込んでいく。
その度に与えられる快感は甘く逃れがたい。
身をよじって何度逃げようとしても、彼の逞しい腕が私の体をしっかりと抱きとめており、身動きすることができなかった。
「あぁ♡♡ンッ♡♡やだ♡や♡♡♡そこだめ♡よ、弱いところ、だからぁっ……♡♡」
「知っているよ。君の悦い場所を、私はどこだって知ってる――指でここをぐりぐりってされたら、君が途轍もなく感じてしまうこともね」
「ほ、お゛ッ♡♡」
かわいいよ、と呟いてからケイレヴはある一点をぞりぞり♡♡と擦り上げる。
一番感じてしまうところを刺激された私は、ガクガクと腰を震わせながらその快感を真正面から受け止めてしまった。
(こんなっ♡こんなのおかしい♡♡♡夢なのに♡夢なのに気持ちいいの♡♡ケイレヴにおまんこかき混ぜられて♡♡イきそうになっちゃってる♡♡♡)
夢なら――早く、覚めてほしい。
見知らぬ男の人にこんな風に体を暴かれる夢を見るなんて、いけないことだ。未婚の女性がこんなに淫らな夢を見てしまうことは罪に等しい。
「ダフネ、余計なことを考えてはだめだ。今は私のことだけを考えて――気持ちいいことだけを追っていればいい」
「あふっ♡♡ひ――や、ぁあっ♡♡♡」
「気持ちいいこと以外、考えられないようにしてあげる」
左右で色の違う瞳をふっと細めたケイレヴが、ぱっくりと左胸の先端を口に咥えこんだ。
温度の高い咥内で、乳首がねっとりと舐め上げられる。
「や♡ケ、ケイレヴっ! やめて――だめ♡これ、はぁっ……♡♡♡」
ぢゅっ♡♡ぢゅるるっ♡ちゅぱ♡ちゅぱ♡♡♡ぢゅぞぞぞっ♡♡♡
音を立てて乳首を吸い上げられ、痺れるような快感と羞恥が一気に押し寄せてきた。
「ひぁ♡♡だめ、ぇっ♡♡乳首♡乳首舐めちゃだめ♡♡♡あぅっ♡あ♡きもちぃ♡♡♡前歯で乳首コリコリってされて♡♡♡気持ちよくなっちゃう♡♡」
「んん……♡いいんだよ。たくさん気持ちよくおなり♡」
ぢゅるぢゅると胸の先端を吸われながら、巧みな指先に蜜壺を弄られる。
与えられる快楽は私が許容できるそれを優に超えていて、されるがままに喘ぎ続けるしかできない。
「ダフネ、ダフネ。こっちを見て――あぁ、いいね。涙を浮かべて蕩けた君の顔は……食べてしまいたいくらいに、愛おしい」
とろんと目元を蕩けさせたケイレヴが、私の腰を掴んでいた手をぱっと離す。
既に体には力が入らなくなっていたので、逃げる心配もないと思われたのだろう。その広い手のひらは空いた右の乳房をぎゅむっ♡と押し潰し、指先で先端を捏ねまわされる。
「は、ひっ♡♡や゛っ♡あ♡ぁああっ……♡♡」
「どこもかしこも感じてしまうね? ほら御覧、少し指を動かすだけでこんなに蜜が溢れてくる」
「ほ、お゛ッ♡♡♡」
ぐちゅっ♡と水っぽい音が聞こえたかと思うと、頭の中が一瞬白けてしまうほどの愉悦が駆け抜けていく。
ケイレヴは本当に、私のどこをどう触れれば感じるのかをよく熟知している。
当たり前か――これは私の夢なのだから、都合よく感じてしまうだけなのかもしれない。
「ダフネ……舌を出して御覧。私とキスをしよう」
「だ、め……♡それは、ぁ♡♡」
「なぜ? キスよりもっとすごいことをしているじゃないか」
カリッ♡と乳首を引っ掻かれて悲鳴を上げるが、近づいてくる彼からは顔を背けた。
だめだ。体につられて、心まで揺らいでしまう。
キスなんてしたら、きっと私はケイレヴのことを好きになってしまうかもしれない。
――夢でしか、逢えない人なのに。
「わ、たし――出来損ない、なの……だから、だか、らっ……♡♡」
「出来損ない? 君が? ――とんでもない!」
ケイレヴが、なにかを叫んだ気がした。
けれどその意味が分からないまま、私の意識は浮上する。
……もっと触れられたかったと、心の奥がぎゅっと締め付けられるような、そんな気がした。
● ● ●
「お嬢様、お加減はいかがでしょう」
「か、かなり良くなってきたけれど、まだ少し怠くて……今日も食事は外に置いてもらえる?」
朝が来ると、夢のことは大体忘れてしまう。
ただ、ひどく淫らな夢を見ていたような気がして、今日はベッドから起き上がるのがなかなか辛かった。
(体、熱い……変な夢を見ていた気がするけど……)
体を、誰かに暴かれる夢。
そんな夢を見てしまうなんて、私は本当に体のどこかが悪いんじゃないだろうか。
溜息をついてから、ばあやが置いていった薬と食事を部屋に持ってくる。すると、数日前に拾った白猫がのそりと起き上がってきた。
「おはよう、お寝坊さん」
にぃ、と小さく啼いた白猫は、随分と調子が戻ってきたようだ。
カラスに啄まれていた怪我はいつの間にか塞がっており、一番深かった足の怪我もほとんどよくなっている。
思っていたよりもずっと早く怪我がよくなってきたので、彼が飼い主の元に戻れる日は近いかもしれない。
「おいで。ご飯を食べたら、ブラシをかけてあげる」
食事もしっかり食べられるようになったし、一時は命の危険まであったのが嘘のようだ。
(それにしても――案外猫って、なんでも食べるのね)
スープやパンを皿に盛ってあげると、彼はゆっくりとそれを食べ始める。
猫に好き嫌いはないのか、野菜や肉、穀物までしっかりと平らげてくれるのだ。
動物のことはよくわからないが、こうしてなんでも食べてくれるからこそ回復も早いのだろう。
「早く元気になってね」
そう声をかけると、食事を終えた白猫は瞬きをしてから水を飲み始めた。
「それにしても、あなた――上品に食べるのね。食事を残したことも、水をこぼしたこともないし」
お水はいつでも飲めるように受け皿に入れているのだが、彼は非常に丁寧に水を飲む。床を汚したこともなかったし、悪戯に受け皿で遊ぶこともない。
白猫の飼い主は、非常にしっかりと彼を躾けていたようだ。
やがて水を飲み終えた白猫は、軽やかに私の膝の上に登ってきた。その美しい毛並みをブラスで整えてあげると、ゴロゴロと上機嫌の喉を鳴らし始める。
「いい子ね。……きっともう、外に出ても大丈夫。あなた、ご主人様のところに帰れるのよ」
ぴくん、と彼の耳が動いたのはその時だ。
気持ちよさそうに毛並みを梳かれていた猫が、大きな目でこちらをじっと見つめている。
「あなたがいなくなってしまうのは寂しいけど、でも――でも、きっと私、あなたのことを忘れないわ」
綺麗な毛並みの、不思議な目をした白猫。
気まぐれな彼は私のことをすぐ忘れてしまうかもしれないけれど、きっと私は彼のことを終生忘れたりはしないだろう。
(少なくとも、この子と一緒に過ごした時間は楽しかったわ。静かで、温かくて……とても聡明な子)
部屋の中で白猫を膝に乗せていると、悲しかったことや苦しかったことを一瞬だけでも忘れることができた気がする。
(誰かに必要としてもらったことって、もしかして初めてだったかも――)
私がいなければ、この子は死んでしまう。
そう思って怪我が治るように手を尽くした時間は、紛れもなく私にとって幸せなものだった。
「そう……元気になったのなら、お家に帰らなくちゃ」
幸せだった、一時の思い出があれば――きっと私は、それでいい。
魔力もない、誰にも必要とされないはずだった私が、この小さな命を助けられたんだから。それだけで――それだけでいい。
(これ以上を望むなんて、きっと罰が下るわ)
温かい猫の体温が、私に穏やかな眠りをもたらしてくる。
――何故だかひどく、体が重い。その中心が更に熱いのは、淫らな夢を見たせいだろうか。
(あぁ、また……また、眠ってしまったら)
息を吐きだすと、それはどことなく熱を帯びていた。
眠ったらまたあの夢を見てしまうのに、それを心のどこかで期待してしまっている自分がいる。
眠りに落ちるのはほんの一瞬だ。遠ざかる意識の向こう側で、白猫がにゃあと小さく啼いたような気がした・
「――君は欲がないね。いや――こんな暮らしをさせられていれば、そうなってしまうものなのかな。……かつての私にも見習わせてやりたいよ」
「――あなた、は」
……また、いつもの夢だ。
白い髪と、青と金の瞳。
あの白猫と同じ色合いをした男性――ケイレヴが、じっとこちらを見つめている。
「ケイレヴ……じゃあ、これはまた……」
「そう、夢だよ。随分と疲れているようだけど――浄化能力は使用する魔力が桁違いだからね。知らずのうちに体が疲弊しているのかもしれない」
魔力という言葉に、思わず眉を寄せた。
夢の中のくせに、彼は私に魔力がないことを知らないらしい。
「魔力なんて……わ、私、魔導を使えないの。魔力だってないし……」
「そんなことはない。私から見て、君の体に渦巻く魔力はかなりの量と質を誇っている」
「馬鹿なことを言わないで。だって私、魔力測定装置を使った診断で……体内の循環魔力も、蓄積魔力もゼロだって言われたんだから」
もしかして、これは私の願望なのだろうか。
実は私に魔力があって、妹のように高等魔導を使えたら……そんな未来を、一度も胸に抱かなかったわけではない。
そうしたらお父様もお母様も、私を自慢の娘と呼んでくれたはず。
頭の中によぎったそんな考えがあまりに浅ましくて、自分に嫌気がさした。
「魔力測定装置、か……あんなもので測れない力なんて、この世にいくらだってある。現に、一般的な魔力測定では王太子殿下が主要六属性の魔導に通じていることを判別できなかったんだから。あの人はずっと炎属性の魔導だけが秀でていると思われていたんだ」
「……夢なのに、そんなことをも知っているの?」
「私は何でも知っているよ。君が知りたいことはなんだって」
綺麗な目を細めたケイレヴは、つぅ、と私の頬を撫でてきた。
「ん、ぅ……♡」
「私の前で、なにかを取り繕うことなんてしなくていい。……寂しいんだね、ダフネ?」
甘く名前を呼ばれて、耳朶を食まれる。
またいつも通り、彼の手で蕩かされてしまう――いけないとわかっていても、私はその誘惑に抗えなかった。
「あ、ぁ……♡ケイレヴ、だめ――」
「夢の中でくらい、素直になってもいいだろう? 君が自分を甘やかせないのなら、私がそうしてあげる。……触れるよ、ダフネ」
低い宣言の後で、ケイレヴの指先がドレスの内側に潜り込んでくる。
鮮やかな手つきで下着とドレスを脱がせた彼は、いつものように仰向けで寝台に横たわる私をじっと見下ろした。
「ダフネ。さぁ、足を開いて御覧……いつものように我を忘れて、淫蕩に耽ってしまおう」
「や――また、気持ちよくなるのは……」
気持ちよく、なりたい。
いけないことなのに、何度も夢の中で繰り返された淫靡な戯れは私に期待を持たせてくる。
全てを――ケイレヴを受け入れてしまえば、またあの快感を与えてもらえる。そう思うと、思わずごくりと喉が鳴った。
「怖くないよ。私は君を愛したいんだ……決して、傷つけたいわけじゃない。だから安心して身を任せて」
言うなり、ケイレヴはちゅっと私の唇を食んだ。
くちづけは硬く拒否していたはずなのに、一度触れられるとより深い場所まで彼を受け入れてしまう。
「ふ、ぅうっ♡♡♡ちゅ♡ちゅぱっ♡♡んぢゅ、ぅっ……♡♡や、ぁんっ♡」
「キスは、心地好いものだろう? 私も心地好いよ――心臓が破裂しそうなくらい苦しいのに、こんなにも……」
微かに声を掠れさせたケイレヴが、そう言って再び私の唇をついばんでくる。
触れるだけのキスはくすぐったくて、舌先を咥内にねじ込まれると震えるほどの愉悦が湧き上がってきた。
唾液を絡め合い、呼吸を共有するような深いくちづけを交わすと、互いの唇が離れる瞬間に透明な唾液の糸が繋がりあう。
「は、ぅ……♡♡♡」
ふるっ……♡と体を震わせて、初めてのキスの余韻に浸った。
知らなかった――ケイレヴが言う通り、キスがこんなに気持ちいいものだなんて、誰も教えてはくれなかったのだ。
「このキスは魔法だ。夢の中で、誰も知らない私たちだけの秘密――誰も、私たちを咎めたりはできない」
金色と青の、きらきらとして綺麗な瞳。
それが私のことをうっとりと見つめている……もう、彼を拒絶することなんてできなかった。
「ダフネ、苦しくはないかい? ここから逃げ出してしまいたいと思ったことは」
「そんな――お父様やお母様が、許してなんてくれないわ」
「私は君の意思を聞いているんだよ。両親のことなんて関係ない」
柔らかい声で名前を呼んでくるケイレヴに、ついいらないことまで答えてしまう。 確かに――ここから出たいと思ったことは何度もある。けれど、それはどう考えても不可能だ。
だけどそんな私に、ケイレヴはふるふると首を横に振った。思いのほか真剣なまなざしで、彼は私の目を見つめてくる。
「君の、本当の願いを教えてごらん。ここから出たいとか、王都に行きたいとか……きらきらした宮殿で、美しいドレスを着たいとか、なんだっていい」
これは夢なのだから、なんだってアリだ。
そう言われて、それもそうかと納得した。これは私の夢なのだから、なにを言ったって咎められないはず。
「誰かに……誰でもいい、たった一人でもいいから――誰かに、必要とされたい」
ぽつりとこぼした言葉は、今まで誰にも告げたことがない願いだった。
必要とされたい。誰かに求められたい。生まれた時から無能と判断され続けた私は、生きてきて今まで誰からも必要とされたことがなかった。
たった一匹、あの白猫だけは頼ってくれたが――それでも、彼が元気になってしまったら、私はまた一人ぼっちになってしまう。
「ごめんなさい。こんなこと、望んじゃいけないのはわかってるけど……」
「それが、君の心からの願いなんだね?」
ぎゅっと、ケイレヴの手が私の手を強く握る。
夢の中なのに、彼の体温を強く感じ取ることができた。泣きたくなってしまうほどに温かいその手のひらに、こくんと頷く。
「綺麗なドレスも、きらきらした宮殿も必要ないの。ただ、誰かの役に立てるなら――」
「……わかった。その願いは必ず私が叶えよう」
ケイレヴは――これまで見たことがないほどに真剣なまなざしで、ゆっくりと頷いた。
その表情はとても頼もしくて、私はついごくりと唾を飲み込んでしまう。夢の中の出来事なのに、本当にそれが叶ってしまうじゃないかとすら思えた。
「それに少なくとも、今の私は君のことをすごく必要としているよ。触れたい相手に触れられないというのは、これ以上なく切ないからね」
「ぁ――ん、っ♡♡や♡」
「快楽に溺れて御覧。目の前の私のこと以外、なにも考えられなくなってしまえばいいよ」
きつく私の指先を握っていた手が離れ、そろそろと内腿をなぞる。
皮膚の薄いそこを艶めかしく撫で上げられると、腰の辺りがそわそわして落ち着かなくなってしまう。
「言葉に出すと、なんだって軽くなってしまうように思える。だからあまり、私は他人にこういうことを言うのが好きではないんだけど」
一度体を起こしたケイレヴは、体をずらして同じように内腿に顔を寄せてきた。指先で触れた場所にゆっくりと唇を落としながら、彼は柔らかく微笑む。
「私には君が必要だよ。そして同じくらい、君にも私を必要としてほしいと思っている――私はダフネのことが大好きだから、褥の上で乱れに乱れて、私を求める君の姿が見たくて仕方がないんだよ」
「で、でも……」
「誰も私たちのことなんて見ていない。夢の中でまで君が我慢する必要なんてどこにもないんだよ?」
……確かに、それもそうかもしれない。
私の夢なんだし、多少は私に都合がよくたって――それくらいは、許されはしないだろうか。
頭に浮かんだ想像を見透かされたかのように、ケイレヴはうっとりとするほど美しい顔に優しい笑みを浮かべている。その目を見つめているだけで、頭の奥が痺れてしまいそうだ。
「そうだろう? ね、全て私に任せておくれ……」
「んぅ♡」
ちゅ♡と内腿を吸われて、甘い声が漏れる。
それを諾と受け取ったのか、ケイレヴは包むもののない秘裂に指を伸ばし、そっとその場所をなぞり上げた。
「ひぁ♡ぁ、ああっ……♡♡♡」
「声も我慢しなくていいよ。気持ちいいなら気持ちいいと、声を出して言ってみればいいんだ。……ダフネは少し、自分の考えていることを胸に秘めすぎている」
「だ、ってぇ……♡♡ひ♡だめ、えっ♡お、おまんこ舐めちゃ……♡♡」
ちゅ♡♡ちゅるる♡♡くちゅっ♡ちゅぱ♡ちゅぱっ♡♡ぢゅるるるっ♡♡♡
軽く指で開かれたおまんこに、ケイレヴの長い舌が挿し込まれる――♡
ほんの少しの刺激で溢れ出してくる淫蜜を舐め取り、わざとらしく音を立ててそれを啜った彼は、更に舌先で粘膜を刺激してきた。
「ひ♡んくぅ♡♡♡あっ♡あっ♡♡あっ♡♡」
「ん――ほんの少し刺激しただけで、こんなに蕩けてしまうんだよ? もっと素直になって……ほら、おまんこぢゅぽぢゅぽ気持ちいいね?」
「や、ら……♡そこでっ♡♡喋っちゃ、っ……♡」
ぢゅぽ♡ぢゅぽ♡♡と舌で蜜口を犯される感覚に、体がわなないて快感を強く伝えてくる。
更にその近くでしゃべられると、彼の吐息が敏感な場所を刺激してくすぐったい――もどかしいような感覚に身をよじると、更に深くまで舌が潜り込んできた。
「んゃっ♡♡ふ、ぅううっ……♡♡くぅっ♡♡ンっ♡♡♡」
声を、我慢できない。
こんなに甘ったるくて、媚びるような声――誰かに聞かれるのも恥ずかしいくらい発情しきった声音で、どうしようもなくケイレヴのことを求めてしまう私がいるのだ。
(でも――でも、これも夢だから……♡)
夢の中なら、誰も私を咎めない。
彼が言った言葉を頭の中で繰り返して、私は小さく口をひらいた。
「ぁ、ケイレヴ……も、もっと――♡もっと気持ちよく、して♡♡お、お腹うずうずして♡♡もどかしくて♡もっといっぱい気持ちよくなりたい……♡♡♡」
「あぁ――いくらだって悦くしてあげよう。君を、それが望んでいるのなら」
笑みを深めたケイレヴが、ぐっと私の足を掴んで押し開く。
恥ずかしい場所を彼の眼前に晒すのは勇気が必要だったが、彼は不安そうな私を見上げると何度も「大丈夫」と繰り返した。
「そういえば、ここに触れたことはあったかな?」
「え……ッん♡ぁ、あっ♡♡なにそれ、っ……♡♡んくっ♡ひ♡そ、そんなところ触っちゃだめっ……♡♡」
くにゅっ♡と、足の間を指で押しつぶされる――その瞬間に、舌で愛撫された時とはまるで違う峻烈な快感が湧き上がってきた。
「おや、クリトリスに触られたのは初めて? 自分で触れたこともないの?」
「あ、あるわけないじゃ――ッくひ、ぅっ♡♡♡」
にゅくっ♡♡こりゅっ♡♡♡くにくにくに♡♡♡
指でその場所を押し潰され、扱き上げられるたびに、目の奥で火花が弾けるような感覚が繰り返される。
どうしてこんなことになるのか、その意味が分からないままの私は、ひたすら与えられる快感に喘ぎ悶えることしかできなかった。
「ひぅ♡♡う♡やぁあっ……♡♡」
「ここは、女の子が気持ちよくなるためにある場所なんだ。特にダフネは――普通の人より、少し大きいかもしれない。すごく敏感なのもそのせいかな?」
ぴんっ♡と指先でクリトリスを弾かれ、へこっ♡へこっ♡♡と情けなく腰が揺れる。
ケイレヴはその様子すら楽しんでいるようで、執拗に弱い場所を指で押しつぶしてきた。
「お゛、ッ♡ぁ゛ッ♡や、やめっ♡ぉひっ♡♡やらっ♡あ゛、ぁっ♡♡」
「クリトリス、とーっても敏感♡乳首よりも、おまんこよりも、こっちの方が感じちゃうんだね――♡」
「ん、っ♡ん゛ぅうっ♡♡やら♡ケイレヴ♡♡や゛♡それっ♡♡クリトリスぐりぐりしたらっ♡あ♡変に♡♡変になっちゃうぅっ♡♡」
指先で円を描くようんに淫芽を刺激してくるケイレヴは、その手を休めることなく再び太腿に唇を押しつけてくる。
二つの刺激が結びついて、肌への刺激で達してしまいそうになる私を、彼は色の違う二つの目でじっと見つめていた。
「変になっちゃうくらい、気持ちいい?」
「は、ひっ♡♡気持ちいい♡いっぱい♡いっぱい気持ちいいのくるぅ♡♡♡お゛ッ♡りゃめ♡イく♡♡イっちゃう♡♡♡クリトリスいじめられて♡♡ケイレヴの指でイかされちゃうの♡♡」
「……指だけでイってしまうの? ダフネは淫乱だな。この前まで体に触れられたこともなかったくせに」
薄い唇を舐めたケイレヴが、ぢうっ♡♡とクリトリスに吸い付いたのはその時だった。
それまで指で押しつぶされていたクリトリスをきつく吸い上げられて、脳裏でバチンッ♡となにかが弾けた。
「っひ、ィっ♡♡♡ぁ♡あ゛、ぁあっ♡♡や♡イ♡イく♡♡クリトリス吸われて♡♡♡イってる♡イってるからぁっ♡♡やだやだやだ♡いっぱい吸わないでぇっ♡♡あっ♡♡あ゛ぅっ♡♡♡」
ぢゅるっ♡ぢゅっ♡ちゅぱ♡ちゅぱっ♡♡ぢゅぞぞぞっ♡♡♡
淫らな水音を立てて淫芽を思い切り周防上げられた私は、波濤のようにもたらされた喜悦に抗えずにイってしまう――けれど、彼はそれでも口淫を止めたりはしなかった。
震える太腿を押さえつけ、更に根元から舌でクリトリスを舐め上げられる。逃げ場のない快感は、より敏感になった体を簡単に追い詰めてきた。
「ダフネ――私のダフネ。泣き喘ぐ声も可愛らしいね……んっ♡クリちんぽしゃぶられるの好き?」
「す、好き♡すき、だから♡♡ぁ♡やめっ♡もうや、ぁあっ♡♡♡ゆるして♡♡」
繰り返し繰り返し与えられる快感は、私から正常な思考を簡単に奪い去ってしまう。
意味のなさない言葉の羅列をこぼしながら、私はひたすらケイレヴに助けを求めた。
「快感を受け入れると、心地好いものだろう? ねぇ、ダフネ……君の淫らな姿を見ていたら、私もひどく興奮してしまったよ」
そう言って身を起こしたケイレヴは、ぐったりと横たわる私のすぐ横に立った。
イきすぎてぼんやりとした視界の中に――赤黒い、屹立した肉茎が突き出されたのはその時だ。
「見て、ダフネ」
「ッ、う……♡♡」
ばるっ♡と下穿きの中から飛び出してきたのは、紛れもなく男性の――その、すっかり勃ち上がった生殖器だ。
「あ♡ぁ……♡♡」
「君がこんな風にしたんだよ。毎度自分で処理をするのもなかなか厄介でね……ねぇダフネ、君の体でこの熱を鎮めてくれないか」
くるしいよ、と小さく囁くケイレヴに、私がごくりと唾を飲み込んだ。
わかっている。男性のそれが、どうしたらこんな風になってしまうは知識として知っていた。
(本当に、苦しそう……こんなに大きくなって、とっても熱くて……♡♡)
眼前に突き出されたそれは、既にケイレヴのお腹につきそうなほど反り立っていた。
血管がはりめぐらされ、赤黒く怒張したそれは見ているだけでも苦しそうに思える。
「ど、どうしたら……」
「君の手で触れて。そうだな――幹のところを手で何度か擦ってみて。あまり力は入れずに……」
熱を鎮めてくれと言われても、そのやり方がわからない。
困ってケイレヴ本人に聞いてみると、彼はあっさりとその方法を教えてくれた。
言われた通りに指を這わせると、その場所は火傷しそうなほどの熱を孕んでいた。……これでは苦しいのも当然だろう。
「ん……♡あ♡あっ……♡熱い、っ……♡♡こんなに、ドクドクって言って……♡く、苦しいでしょう……?」
「とても、ね。でも、ダフネに触れられていると多少は和らぐ」
もっと触ってと懇願されて、私は拙い手つきで彼の肉幹をゆっくりと扱き上げる。
指先から伝わってくる彼の鼓動に、お腹の奥の方が熱くなってきた。
「こ、これは……先端は、大丈夫なの? ヒクヒクってして、こっちも苦しそう……」
どうしてそんなことをしたのか、理由を言葉で説明できない。
屹立した彼の肉茎に顔を寄せた私は、唇でその場所をぱくりと咥えていた。彼が私にそうしたように、舌の届く範囲で円い先端を舐め上げる。
「ッ、く……」
「ん……♡んちゅ♡ん、ふぅう……♡♡」
ちゅぽ♡ちゅぽっ♡♡ちゅっ♡♡ぢゅぽ♡ぢゅぽっ♡♡ぢゅぽっ♡♡
教えられたわけではないけれど、体が勝手に動いてしまう。
大きなケイレヴのそれは到底すべてをほおばることはできないけれど、足りない部分は手を使って刺激してあげる――そんなことを繰り返していると、どんどんお腹の奥が疼いて仕方がなくなってきた。
「ん♡ふぁ♡♡む゛、うぅっ……♡♡」
おまんこが熱くて、でもイきそうというほどではなくて――どうしていいのかわからなくなる。
狂おしい焦燥感に駆られた私は濡れそぼったおまんこに手を伸ばそうとしたが、そこで頭上から低い声が降り注ぐ。
「ダフネ」
微かに掠れて、色気の混じった声。
それがケイレヴのものだと気付くのに、少し時間がかかってしまった。普段の余裕じみた声音とはまるで違うそれは、鼓膜と同時に子宮に響いてくる。
「君も苦しいのかな。一番奥が、切なくなって仕方がない、とか……」
体の疼きを言いあてられて、こくりと頷いた。
夢なのだから、ケイレヴが私の状態をどれほど熟知していようが驚かなくなってきた。
「――どうにか、してあげようか。君が私のものになってくれるなら、その疼きを鎮めてあげられる」
「ほ、本当に……?」
沈黙は肯定と同じ意味だ。
わかってる。本当は、この先になにがあるかなんて理解している――だけど、それに抗うことなんてできない。
身中でどんどん昂っていく熱が、理性を蕩かしていく。
「私は、君に嘘をつかない。君がそうと誓ってくれれば、いくらでも与えてあげる。だって私は、君のことが大好きだからね」
柔らかく頭を撫でられ、唾液と先走りで汚れた唇を指先が拭ってくれる。
強く強く脈打つ鼓動と、自覚してしまった気持ちからは逃げられなかった。
「――な、る。ケイレヴのものになる、から――お腹、熱いの……助けて……♡」
夢でも、幻でもいい
今この一瞬、ケイレヴは私のことを求めてくれる。そう思ったら、どうしようもなく彼のことが愛しく思えた。
「いいよ、助けてあげる。でも覚えていてね。君はもう私のもの。私は君がいなくてはもう生きられないのだから、君も同じように私がいなくなったら生きられないようにならなくちゃいけない」
「ッ、ぁ……♡い、いい♡ケイレヴのものでいい、から――だから、お、おまんこ助けて……♡♡ケイレヴのおちんぽで、思い切りぐぽぐぽして……♡♡」
鼓膜に絡む声すら快感を拾ってしまい、彼の言葉に否と答えることはできない。
いや、それ以前に――その言葉に従うこと自体が、私の中で一つの愉悦と化していた。頷いて、受け入れてしまえば、彼は私に狂おしいほどの愛と快楽を与えてくれる。
「じゃあ、君の口から聞かせて。ダフネ、君は私のものになるんだよね? お嫁さんになって、ずーっと私と一緒にいてくれる?」
「な、なります♡ダフネの、ことを♡♡ケイレヴの――お、およめさんに、してください……♡♡」
微かに震える声でそう告げると、大きく足が開かれる。
物欲しそうに涎を垂らした蜜口に赤黒い切っ先が当てられたかと思うと、それは一気に未通孔を突き上げてきた。
「――いいよ♡」
「おほ、ぉ゛ッ……♡♡♡」
「これでダフネは私のものだね♡誓ってくれたんだから、私も旦那様としてたっぷり君を愛してあげる」
ぐぷっ♡♡ごちゅっ♡ごちゅんっ♡♡ぬぷぷっ……♡ぐちゅっ♡♡♡
太くて熱いケイレヴのおちんぽ♡一気におまんこに挿入ってくる……♡♡♡
「ぉ゛ッ♡♡ふ、とっ♡♡は♡あ♡ぁひっ♡♡♡ぉ゛♡お゛~~~~♡♡♡」
ぬ゛ぷっ♡♡♡ぬ゛っ♡ぱんっ♡ぱんっ♡♡ぱんっ♡♡♡ずちゅんっ♡♡
狭い蜜路をこれでもかと押し広げながら、ケイレヴのおちんぽは一気に最奥を目指す。
彼のもので体を押し開かれることに、一切の苦痛は感じなかった。ただ強烈な快感だけが、蕩け切った私の体の中いっぱいに広がっていく。
「あぁ♡ぁ゛ッ♡♡これ♡♡これがケイレヴのおちんぽ♡♡ひゅご♡ッお゛♡♡おまんこごりゅごりゅって♡♡いっぱい犯されてるぅ♡♡♡」
卑猥な言葉を口に出す度に、体がぞくっ……♡と震えた。
ケイレヴは無遠慮に膣内を押し開き、私の体をぎゅっと抱きしめながら腰を打ちつけてくる。普段は余裕溢れる態度の彼が、必死に私を求めてくれているのが途方もなく嬉しかった。
「そうだよ♡ダフネのおまんこ、私のちんぽでたくさん犯してあげる――ほら、快楽を受け入れたら、とても心が楽だろう?」
どちゅんっ♡どちゅっ♡♡と力強く奥を突き上げられて、その度に軽い絶頂を繰り返す。
おかしくなる――♡夢なのに、気持ちよくて変になっちゃう♡♡♡ケイレヴに犯されて、おちんぽ気持ちいいって知っちゃった……♡♡♡
「ぁ゛♡ぁうっ♡♡気持ちいい♡♡気持ちいいです♡♡♡ケイレヴに♡いっぱいごちゅごちゅってされるの気持ちいい♡♡んッ♡あ♡もっと♡もっと気持ちよくして♡♡♡ダフネのおまんこも♡おっぱいも♡全部使っていいから……♡♡」
「貪欲だね。でも、それでいいんだ……私の、愛しいダフネ」
激しくおまんこを突き上げながら、ケイレヴの手は私の乳房に伸びてくる。
律動を繰り返されるたびに揺れるおっぱいを片手で掴んだ彼は、やわやわとそれを揉みしだきながらギリギリのところまでおちんぽを引き抜いてくる。
「ん゛、ぅうっ……♡♡」
ぎゅっ♡ぎゅっ♡♡と乳首を抓られると媚肉がさらにおちんぽを締め付けるが、彼はそんなことお構いなしに腰を引き――それから、一気に奥を突いてきた。
「ッお♡♡ぃ、ぃ゛ッ♡♡♡あ♡ぁっ♡♡だめ♡おっぱいいじめないれぇ♡♡♡おまんこたくさん気持ちいいのに♡♡いっしょにおっぱい弄られたら♡♡♡お゛ッ♡イっちゃう♡またぁっ♡♡♡」
強い快感を感じるたびに、目の前で何度も火花が爆ぜる。
甘えるように絡みつく肉襞をごちゅごちゅっ♡♡と突き上げられると、乳首から伝わる鋭い痛みすら快感に置き換わっていった。
「いっぱいイくところ、私に見せて? ダフネの悦い場所たくさん犯してあげるから――イけ♡イけ♡♡お嫁さんアクメ私にもっと見せて♡♡」
「ひお゛ッ♡♡ん♡お゛ッ♡♡ぉ゛、ッ~~~♡♡♡」
ずっ♡♡ずぬ゛っ♡♡♡ごちゅごちゅごちゅっ♡♡ぬ゛ぽっ♡ぬ゛ぽっ♡♡ぬ゛ぽっ♡♡♡
深い場所をリズミカルに突き上げられて、その度に押し出されるような声が漏れる。一度イくたびにぎゅっ♡ぎゅっ♡♡とおちんぽを締め付けてしまい、それに興が乗ったらしいケイレヴが何度も同じ場所を突き上げてくるのだ。
「はひ♡♡そこ♡そこ好きぃ♡♡イく♡まらイぐぅっ♡♡♡」
「ッ、……ナカの締めつけすごいね……♡さっきまで処女って思えないくらいに感じて――」
「ら、って♡♡ケイレヴ、が――」
あなたが私のことを、こんな風にしたくせに。
舌ったらずに相範郎すると、彼は嬉しそうに目を細めて笑う。その仕草が少しだけ可愛いとすら思えてしまった。
「そうだね。私が君をこんな風にしたんだよ……質素に、ただ息をして生きているだけだった君を、こんな欲しがりさんに変えたのは私だ」
隆起した喉仏が、ゴク、という音とともに上下する。
その光景すら淫靡に思えて、子宮がさらにきゅんっ♡と収斂した。
「でもそれでいいんだ。だって君は、私のお嫁さんになるって誓ったんだし――今までの君が無欲すぎただけ。……さぁ、もっと気持ちよくなろうね、ダフネ♡」
「ッおぁ♡♡あっ♡♡や゛、ッッ♡♡♡」
「君が大好きな勃起クリトリス……指でシコシコってしてあげる♡クリちんぽ扱かれながらおまんこいじめられるの気持ちいいね?」
それまで乳首を弄っていた指先が、交合部のすぐ上にある淫芽をぎゅっ♡♡と摘まみ上げる。
その瞬間、世界が一気に塗りつぶされるような鮮烈な感覚が一気に駆け抜け――世界が、反転する。
「ほ♡♡お゛、ぉ゛ッ……♡♡♡ッひ♡♡ぃ、っ……♡♡」
「あれ? ……ダフネ、ダフネ。……少しいじめすぎてしまったかな? でも、まだまだ休んでいる暇はない――よっ♡♡」
どぢゅっ♡♡♡と最奥をノックされて、一度白んでいた意識が引き戻される。
ぼやけた視界の中央にケイレヴの姿を認めたかと思うと、彼は力強くピストンを繰り返してくる。
「ふ、おぉっ……♡♡」
「おはよう、ダフネ。気持ちいいのいっぱいでトんでしまったかな? すまないけど、もう少しだけ私に付き合ってくれるね? ……ちゃんと君の膣内で、たくさん射精してあげるから……」
すりすりと下腹部を撫でられて、その場所が甘く疼くのを感じる。
自分の中でケイレヴのすべてを受け止める想像をして、思わず喉が鳴った。
――早くそうしてほしいと、頭の中で本能が叫び続けている。
「物欲しそうな顔をしているね」
「だ、って――ぁ、あっ♡♡」
夢、ならば。
それならきっと、この狂おしい時間は必ず終わりを告げる。だけど、与えられるこの熱が、耳朶をくすぐるこの声が、偽りだとは思いたくなかった。
「ケイレヴ……きて……♡」
胸を締め付けられるような気持ちになりながらそう呟くと、ケイレヴが私の唇をふさいでくる。
熱い舌と舌が絡み合い、ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら――おまんこだけではなくて、咥内まで犯されているようだった。
「は、ぷぅっ♡♡んっ♡んちゅっ♡♡♡ぁ♡あぅ、っ……♡♡」
繰り返されるくちづけと律動に、頭の奥が滲んでいく。
これが夢なのか、はたまた現実なのか――その境目すらなくなった私は、吐き出された熱と極めた愉悦の中にひたすら沈んでいくのだった。
● ● ●
「……あれ」
夢――だ。
朝がきて、目が覚めて――いつも通りの私の部屋が目に飛び込んでくる。
倦怠感というか、重怠いような心地は残っていたが、抱きしめてくれる腕はどこにもない。
寝台から起き上がった私は、とても静かな部屋の中を見回して深く息を吐いた。
(やっぱり、あれは夢だったのね……)
夢の中の出来事は、所詮幻でしかない。
狂おしいほどに求められた記憶も、甘く官能的な刺激も、なにもかもが――私の頭の中で作り上げられた想像なのだ。
「ケイレヴ……」
ぽつりと呟いた声に反応する人は誰もいない。
そしてもう一つ――ここ数日この部屋に逗留していた白い客人の姿が、どこにもなくなっている。
いつも寝台から降りようとはしないあの白猫の姿が、部屋のどこを探しても見当たらないのだ。
「……あなたも、帰ってしまったのね」
よく部屋の中を見てみると、窓がほんの少しだけ開いている。
恐らくそこから、彼は外に出ていったのだろう――冷たい朝の風が吹きすさぶ窓辺に立つと、ふと小さな土くれのようなものが目に入った。
「なにかしら――これ」
土や泥を積んである中に、なにかが埋められていたらしい。
ぽっかりと穴が開いたその場所は綺麗に掘り返されており、その犯人は容易に想像ができた。
いつの間にこんなものができていたのかはわからないが、あの猫がじゃれついていたのだろう――そう思うと、なんだかその不思議な土くれも可愛らしく思えた。
「でも、これでまた一人ぼっちね」
優美にしっぽを揺らしていた束の間の友人のことを思い出して、私はぼんやりと外を眺めた。
……大丈夫。これまでの暮らしに戻っただけ。
また静かに、何事もなかったかのように暮らしていけばいい――そうすれば、またいつもの暮らしに慣れるはずだ。
自分にそう言い聞かせて、そっと目を伏せる。
胸の奥で芽吹いた痛みはそっと伏せて、見ないふりをした。
だが、それから数日後――この辺ではまず見ることができないような、王立軍の軍服に身を包んだ人々が、大勢この屋敷を訪れてきた。
「失礼、こちらにランカルテス侯爵令嬢――ダフネ様はいらっしゃいますか」
「は、はぁ……いったい何の御用で……」
応対したじいやもばあやもすっかり驚いてしまって、お互いに顔を見合わせている。
まさか、王都でなにかあったのか――男爵令嬢の件で処罰が下るのかと思ったが、彼らの様子を見ているとどうやらそれも違うようだ。
「あ、あの――ダフネはわたくしですが、一体どうなさったの……?」
なにがあったのかと声をかけると、彼らは一斉に私の方を見た。それまでじいやに声をかけていた軍服姿の女性が、一歩前に進み出て腰を折ってくる。
「あなたがダフネ様……失礼、わたくし第三特殊魔導連隊隊長……[[rb:浄化能力者 > サナティア]]のレルディと申します」
「サ、浄化能力者……?」
髪を高い位置で結い上げたレルディは、紅を引いた唇をにっこりと吊り上げる。軍人らしいはきはきとした声に驚いてしまったが、敵意は感じられなかった。
「はい。第二王子殿下の命令で推参いたしました。こちらに高位の浄化能力者がいらっしゃるとのことで」
「……すみません、あの、心当たりが……この通り、この屋敷には私と二人の召使しかおりません。私は魔導がほとんど使えませんし、この二人も……」
一体、何が起きているというのだろう。
浄化能力者というのは、この国でも数えるほどしか存在しない特殊な魔導に秀でた能力者のことだ。
その力は他の魔導とは違い、唯一人を癒すことに特化している。
非常に稀有な能力ゆえに軍でも重宝される存在なのだが、じいやもばあやも浄化能力が使えるなどという話は聞いたことがない。
「なにを仰いますか。王子殿下より、こちらのダフネ様が類い稀なる浄化能力の持ち主と聞き及んでおります。……失礼、右手をお借りしてもよろしいですか?」
「は、はぁ……」
レルディの雰囲気に圧倒されながら右手を差し出すと、彼女は小さな箱のようなものを取り出した。
……本邸にいた時に何度も見たことがある。魔力の質と量を判断するための測定器だ。
「これは、魔力測定装置ですか?」
「はい。市井に出回っている廉価なものではなく、こちらは特殊な――より精密な魔力測定を行うためのものです。例えば、火と水のような反属性の魔力を同時に有していると、なかなか正確な測定結果が求められないので」
軍用の、非常に精密な測定装置――貴族でもなかなか手に入れられないというそれに手をかざすと、箱全体がぱっと明るく輝く。
「あ……こ、これって」
「魔力反応ですね。これがダフネ様の魔力の色――見えますか? 私ども浄化能力者と同じ、真っ白な光です」
今まで一度も、測定器が輝いたことなんてなかった。
どうせ今回も今までと同じ、諦めるような、憐れむような視線を向けられるものだとばかり思っていた私は、じっとその小さな箱を見つめる。
「それにこの光量――これは、私のものよりも強い……?」
「えっ?」
レルディの言葉に、私は思わず目を丸くした。
自分に魔力があったということ、それも浄化能力者だったことも驚きなのに――魔力量が、連隊長のレルディより多いだなんて。
(そんなことがあるわけ……だって、私は今まで……)
生まれてからずっと、役立たず、家の恥晒しと蔑まれてばかりだった。
魔力がないから、魔導を使えないなら、せめて魔力を持った子どもを孕め――それができないのならば出来損ないは不要だと、そう言われて生きてきたのに。
「……いかがでしょうか、殿下。仰せの通りに魔力測定を行いましたが、携帯用の測定装置ではここまでが限界です。殿下がお持ちになっている測定装置をお借りできませんか」
測定装置を注意深く観察していたレルディが、背後を振り返って誰かに許可を求めている。
その声に応じるように、多くの軍人の中から白い軍服の青年が歩み出てきた。
「――許可する。我が国にとっても貴重な浄化能力者、それもこれほどまでの魔力量を有するとは……先々代王妃と同じ、『[[rb:極北 > ポラリス]]』の可能性がある。慎重に調べろ」
「承知いたしました。……ダフネ様、こちらにも手を――ダフネ様?」
ぽかんと口を開ける私に、レルディが不思議そうな表情を浮かべる。
いや――この状況で、驚かない人間なんていないはず。
数多の軍人の中から進み出てきたその人物は、夢の中で出会って青年と同じ顔をしていた。
「……ケイレヴ?」
「やぁ、ダフネ。数日ぶりかな――悪いけれど、少しだけレルディのいうことを聞いてくれないかな? 大丈夫、彼女は信用に値する人間だ。悪いようにはしないから」
なにも――夢の中と、何も変わらない。
声の高さも、喋り方も、不思議な色の瞳と、真っ白の髪の色だって。
目を見開いたまま固まっている私に、ケイレヴはニコニコと笑みを向け続けている。その間にいるレルディは不思議そうに私たちを見比べたが、やがてそっと私の手を取った。
「ダフネ様、失礼いたします。まさかあなたの魔力量がここまでとは思わず――こちらの方がより精密な測定が可能です。右手を」
「は……はい……」
今度は、先ほどのものよりも少し大きめの箱だ。
そっと手をかざすと、先ほどよりもさらにまばゆい光が溢れ出す。
「っ……」
目が痛くなるほどの光が満ち、レルディですら自らの目元を覆っていた。
唯その中で、ケイレヴだけがじっと私のことを見つめている。
「これほどとは――レルディ、すぐに王都の父上と兄上に報告を。……曾祖母様以来――七十年ぶりの『[[rb:極北 > ポラリス]]』だ」
「かしこまりました。……それでは殿下、こちらの方はいかがいたしましょうか。わたくしの憶測ですが、浄化能力の高さ故に魔力測定装置が機能しなかったものかと……あるいは、彼女の生家がこれを隠匿した可能性も考えられます」
「『[[rb:極北 > ポラリス]]』は王家で身柄を保護するしきたりがある。それと……私と彼女は知己だ。私とともに、一時辺境伯領で療養を行う。――そこからのことは兄上と相談だな。侯爵家がなぜこれほどの浄化能力者を隠し立てしていたのか、その罪を問わなければ。お前たちは至急、王都に戻れ」
レルディが一礼すると、彼女が引き連れてきた軍人たちは影も形もなくどこかへと消えてしまう。
転移魔導――熟練した魔導の使い手でなければ使いこなせない高等技術を目の当たりにして、私は更に開いた口がふさがらなくなってしまう。
私の背後にいたじいやとばあやはいつの間にか姿を消していて、ケイレヴだけが嬉しそうにこちらを見つめていた。
「たくさんの人がいて、怖がらせてしまったかな。ごめんね、少し準備に時間がかかってしまって」
「ぁ――ケイレヴ? 本当に……い、いえ、第二王子殿下……?」
先ほどレルディが言っていた、第二王子殿下という言葉――
「あぁ、正式な自己紹介をしていなかったね。私の名はケイレヴ――ケイレヴ・フォン・ヴォルダミット……少し前まではケイレヴ・シナノーディアと名乗っていたが、臣籍に下ったものでね。春の叙勲の際に、ヴォルダミット辺境伯を継承することになっている」
ヴォルダミット辺境伯……その名は、一族の恥さらしと呼ばれて社交界への出席を許されなかった私ですら知っている。
この国で辺境伯領を受け継ぐのは、王族から臣に下った者のみ――当代国王陛下にご兄弟はいなかったが、ご子息である王太子殿下には弟君がいた。
「まだ叙勲していないから、彼らも仕方がなく私のことをそう呼んでいるに過ぎない。驚かせたのならば許しておくれ」
「いいえ……その――ほ、本当にケイレヴ? だってあれは、私の夢で……」
「あぁ、夢。そうだね……明け方に見る、淫らで甘く、狂おしい夢。君の中ではそうだったかもしれないが、私にとっては紛れもなく現実だった」
コツ、と、彼が爪先で軽く地面を蹴る。
するとケイレヴの姿はその場から消え――そこには一匹の、美しい白猫がたたずんでいた。
「こちらの方が見覚えがあるかな? ……失敬、人間の体と違って、猫の体だと上手く話せないんだ」
何度か咳き込むような仕草をしたその白猫は、けれど流暢な言葉をその口から発してくる。
なにからなにまで驚いたが――この国の王族は高い魔導の資質を誇るという。体を猫に変えてしまうくらいは、きっとケイレヴにとって造作もないことなのだろう。
「じゃあ、あの時の猫がケイレヴだったのね……お、驚いたわ」
「あぁ。体が小さい方が傷の治りも早いからね。……恥ずかしい話、単独で辺境の視察に赴いたら、隣国の偵察部隊に見つかってしまってね」
再びヒトの姿に戻ったケイレヴが、深く憂鬱そうに息を吐いた。
自分が継承する予定の辺境伯領に隣国の隠密部隊が侵入し、それを撃退しようとしたところ瀕死の怪我を負ってしまったらしい。
「向こうの方も壊滅させることはできたんだが、人間の姿を保つことができなくなってしまってね。少し休もうと猫の姿になったらカラスに啄まれて……あの時は本気で死を覚悟した。……それを君が救ってくれたんだ」
ケイレヴの話を聞いた私は、白猫が全身に負っていた怪我を思い出した。
啄まれたところはともかく、足には大きな怪我を負っていたはずだ。それもほとんど塞がっていたはずだが、ケイレヴは大丈夫なのだろうか。
「あ――じゃあ、怪我は? もう大丈夫なの……?」
「あぁ。浄化能力者である君の側にいたから、普通じゃ考えられない速度で回復した。それで魔力がないとかいうから、妙だと思っていたんだ」
そこで彼は、一度王都に戻って同じ浄化能力者であるレルディに相談をしたのだという。彼女が率いている部隊と高性能の魔力測定装置を用意するのに数日かかり、今日ようやく私の元に来てくれたのだとか。
「あれは――あなたのことは、ずっと夢の中の人だと思っていて、その……第二王子殿下なら、私のことは聞いているでしょう?」
「あぁ、なんだっけ……婚約者が入れあげていた恋人を襲うよう仕向けた、だっけ? 馬鹿馬鹿しい。君がそんなことをできる人間じゃないのは、私がよく理解しているよ。そんな人間が、見返りもなく薄汚れた猫を助けるものか」
ケイレヴはそう言って、不愉快そうに眉を寄せた。
……私のことを信じてくれたのは、彼が初めてだ。魔力を持たない人間がなにを言ったところで、私の周囲では聞き入れてなどもらえない。
私のことを信じてくれたのは、ケイレヴが初めてだった。
「私はね、君を迎えに来たんだ。ともに辺境伯領で暮らそう、ダフネ――君が望むなら、王都の別邸で過ごしてもいい。浄化能力者としての才能を活かしたいというならそれができるように手配をする。だから……」
そっと私の手を取ったケイレヴが、色の違う二つの目でじっとこちらを見つめてくる。
吸い込まれるようなそのまなざしはとても真剣で、視線を逸らすことすら許されないような感覚を覚える。
「ダフネ、どうか私と一緒に生きて……私はもう、君なしでは生きられないようになってしまった」
「で、でも――その、私は……あなたにつりあうような人間じゃ」
王国貴族は、生まれ持った資質を国と民のために行使するのが使命だ。
自分の資質を知らなかったとはいえ、私は今までその役割を放棄してきた。そんな自分が、彼のような立派な人の側にいられるような人間だとは思わない。
「……君が与えてくれたのは、見返りを求めない無償の愛だ。王宮で生きてきて、私は今までそのような愛情を受けたことなんて一度もなかった。薄汚い野良猫に手を差し伸べ、懸命に命を繋ぎとめようとしてくれた君の優しさに報いたいんだ」
ぎゅっと握りしめられた手から、彼の体温が伝わってくる。
何度も抱きしめられたあの熱を思い出してしまいそうで、私はぎゅっと唇を噛んだ。優しい温もりに縋りついてしまいそうになる。
「それに、君はもう私のものだろう? 何度も約束をしたじゃないか」
「……それは」
「夢の中のことだと言って、なかったことになんてさせない。君は私の妻になる。そして私もまた君のものになるんだ。……いいね、ダフネ」
そっと抱き寄せられて、耳元で囁かれる――胸の奥に芽生えた気持ちを押さえることは、もうできなかった。
● ● ●
「先日内乱を起こしたメイボリー男爵領に、特殊魔導連隊から人員を派遣しておけ。……あぁ、浄化能力者を一人つけ、怪我人の治療に回せ。捕らえたメイボリー男爵は……そのままでいい。どうせ長くは生きられんはずだ」
「かしこまりました。……その、男爵令嬢とその婚約者の方はいかがいたしましょうか。我ら浄化能力者でも、手の施しようのない状態で……」
「――治療が不可能ならばその手を領民の回復に回せ。それが彼らの、貴族として民への最後の奉公だ」
「か、かしこまりました。それではメイボリー男爵令嬢並びに、婚約者のテイラー・ハルヴェス伯爵の治療を終了いたします」
恭しく腰を負ったレルディは、大量の報告書に目を通すヴォルダミット辺境伯――ケイレヴへの定時連絡を終えた。
ふた月ほど前、突如として起こったメイボリー男爵領での内乱が起こった。
……一人娘とその婚約者が呪詛返しに遭い、廃人となったことで武装蜂起した男爵だったが、それは数日のうちに鎮圧された。王太子の名代として兵を率いたケイレヴは、目下その事後処理に追われている。
「あ、あの……私がなにか、お手伝いできることはある? この前みたいに、怪我をした方の治療に当たったりとか」
「現状、ダフネ様のお力をお借りするほどの怪我人は出ておりません。ですが、先日男爵領を訪問なさった時の影響がすさまじく……やはり七十年ぶりの『[[rb:極北 > ポラリス]]』ですから、姿を見せるだけでも民の希望となりましょう」
浄化能力者として国の認定を受けた私も、応援と怪我人の治療のためにその場へと向かった――怪我をした兵士や市民の治療は驚くことも多かったが、自分の能力を初めて他人のために活かすことができた。
……ただ、それから半月ほどが経ったが、私はなかなか住まいであるヴォルダミット辺境伯領から出られずにいた。
「そうだろうね。まぁ、時折なら彼女の顔を見せて民の気力を引きだすのもいいかもしれない。だが、ダフネは君たちとは違って専門の訓練を受けていない。彼女の浄化能力は非常に強力だが、それゆえに負荷も大きいはずだ。先日は連続して浄化能力を行使したから、しばらくは静養が必要だな」
「そうですね……わたくしたちであっても、浄化能力の連続した使用は体に堪えます。ダフネ様には今しばらく体を休めていただきましょうか」
――と、こんな感じでケイレヴが外に出るのを許してくれない。
体力的には問題がないと思っていても、しっかりと体を休めるようにの一点張りだった。・
「では、これにて報告を終了いたします」
「ご苦労。下がっていいぞ」
ケイレヴが片手を上げると、レルディはふっとその場から姿を消す。
完全に彼女の気配が消えてから、私はムッと唇を突き出してケイレヴの隣に立った。
「まだだめなの?」
「悪いけど、これは君のためでもあるんだよ。君の浄化能力を狙って、不埒な輩が命を狙ってくるかもしれない――『[[rb:極北 > ポラリス]]』はね、国の守り神であると同時に、他国から見れば脅威でもあるんだ。私が側にいれば君を守ることができるけど、現場で指示を出していたらずっと君に寄り添っていることはできないだろう?」
許しておくれ、と首をかしげるケイレヴだったが、そう言われると強く言い出せない。
『[[rb:極北 > ポラリス]]』――浄化能力者は通常の魔力等級ではなく専用の等級でその力を測られる。平時で最も高い等級はレルディが持つ『[[rb:天狼 > シリウス]]』だが、それよりもなお強い浄化能力を有する人間が『[[rb:極北 > ポラリス]]』という特別な称号を与えられるらしい。
(百年で一人か二人いればいい方、ってケイレヴは言ってたけど……そんな力が私にあったなんて……)
私の前に『[[rb:極北 > ポラリス]]』を名乗ることが許されたのは、先々代の王妃様――つまりケイレヴのひいおばあさまだったという。
その時は大きな戦争が起こり、先の『[[rb:極北 > ポラリス]]』は体が動かせなくなるまで戦地を駆け巡ったのだとか。
「私は曾祖母様の話をよく聞いて育った。君の浄化能力はとても強力で、側にいるだけでも心地好いけど……でも、優しい君はきっと自分の限界までその力を使ってしまうだろう? 現に、この前だって一気に治療を行ってふらついていたじゃないか」
「だ、だって……」
「君の清廉な心根も、誰かを助けたいという気持ちは理解しているつもりだ。だけど、体は大切にしなければならないよ」
執務用の椅子から立ち上がったケイレヴが、そっと私の腰を抱く。
頬を擦り寄せてくるケイレヴの表情には、にわかな疲労が見て取れた。最近は男爵領の事後処理に追われて、あまり眠れていないらしい。
「あなたの方こそ、しっかりと休まなくちゃ……っきゃ、ぁっ」
「もちろん。君と一緒に、今日はゆっくりとするつもりだ。……ちゃんと男爵領の件も片付きつつある。ここからは兄上に引き継いで、即位前の適当な武勇伝にでもしてもらおうか」
レルディが帰って気が抜けたのか、ケイレヴは目元を擦って生あくびを繰り返した。
部下がいる前では厳しい態度を崩さない彼が、私の前では少し子どもっぽいような仕草を見せる――彼の妻として辺境伯領にやってきてから、それがちょっとした自慢になった。
「……って、私も休むの?」
「もう何日君に触れていないと思ってる? 私だって寂しいよ――今日は一緒にいよう。寝室から出なくていいから、ね?」
そろそろと腰に回された手が艶めかしい手つきで触れてくるのに、ぞくっ……♡と体が震えた。
……確かに、ここしばらくはともに眠ることも難しかった。
「ま、まだお昼――」
「時間なんて関係ないよ。もうレルディも王都に帰ったし、ここからは私たち二人だけの時間だ」
身をかがめたケイレヴがそっと耳元で囁いてくる。それだけで体が反応してしまうのは、きっと私も彼に触れたいと思っていたからだろう。
共に寝所に向かうと、彼は上機嫌にベッドへ腰かけた。かつて白猫と一緒に眠っていた小さなベッドは、私たち二人が同時に寝転んでも十分なだけの広さを持ったものへと変わっている。
「そういえば――あの、テイラーたちの件って……治療をやめるって言っていなかった?」
私もそっとベッドに腰を下ろして、ふと気になったことを聞いてみた。
レルディの報告で話だけは聞いていたが――元婚約者だったテイラーがかなりひどいことになっているらしい。
「あぁ。強力な魔導を打ち返されたんだ。精神的にズタボロ……状態はあまりいいとは言えないだろうね。可哀想だけど、彼らにかける手を兵士や市民の治療に充てた方が、多くの人々を救えるだろう」
テイラーとその恋人は、私に何か呪いのようなものをかけていたらしい。
私自身呪いをかけられた覚えはなかったが、ケイレヴ曰く私の浄化能力がそれを全て弾き返していたようだ。
「なにをしても君が死なないから禁呪に手を出したんだろう。私が気付いて対処したが、君の魔力でも同じように弾き返してしまっていたはずだよ」
私が死なないことにやきもきして、二人は強力な禁呪に手を出した――だが、それに気づいたケイレヴが呪いの媒介そのものを破壊してしまったらしい。
(あの、屋敷の窓にあった土くれ……まさかあれが、呪いの媒介だったなんて)
男爵令嬢とテイラーには、申し訳ないとは思う。けれどケイレヴは、私のためを思ってその呪いの媒介とやらを破壊してくれたのだ。
「そ、それと……あの、侯爵家のことも――私の浄化能力を隠していたから、ひどいことになっているって聞いたけど」
「国の宝である浄化能力者を隠し立てし、あまつさえ冷遇していたんだ。それくらいの扱いは受けてしかるべき……仮にも貴族の地位にあるのなら、最初の段階で精密な測定を行うべきだったんだよ」
それは彼らの怠惰だ、と言いきったケイレヴが、深く息を吐いた。
「……そんなに他人のことを考えてばかりでは寂しいな。ここでは私のことだけを考えてほしいのに――ほら、ダフネ。おいで……その可愛らしい唇で、私にキスをして」
むっと唇を尖らせたケイレヴが、両手を広げて私を呼び寄せる。
まるで我儘な子どものような仕草を可愛らしいと思いながらも、私はその腕の中に飛び込んで唇を押しつけた。
「ん……♡っは、ぁ……♡♡ンっ♡♡」
ちゅ、ちゅっ♡と唇を押しつけあい、もたれるようにベッドへと倒れこむ。
触れるだけのキスは角度を変えながら、お互いの体温を確かめ合うように何度か繰り返された。
(夢じゃ、ないんだ――こうやってケイレヴとキスができて、一緒に抱き合っていられるのが……)
ずっと、この熱はいつか終わりが訪れる幻だと思っていた。
けれど目の前にいる愛しい人は夢などではなく、現実として強く私のことを抱きしめてくれる――それが何よりも嬉しくて、泣きたくなるくらい幸せだった。
「ダフネ……口を開けて」
「は……む、ぅ♡♡ん♡ふっ……♡♡ぁ♡んんっ♡」
言われた通りに口を開くと、そこから熱い舌先が潜り込んでくる。
抱きしめる腕の力を強めながら口蓋をなぞられ、私の体は大げさに震えあがった。久々のキスに、体の内側がどんどん熱くなっていく。
「んちゅ♡ぅ♡♡ぁ――ケ、ケイレヴ……♡♡」
抱きしめられると、衣服すら邪魔だと思えてしまう。
素肌で触れ合うことの心地よさを知っているからか、あるいは体を苛む熱から逃れたいのか――ぐりぐりと下腹部に当てられる硬い熱に、思わず声が上ずった。
「おっきいの、当たってる……」
「ずっと禁欲させられていたんだ。これくらいは大目に見てよ。――触ってくれる?」
「う、うん……」
悪戯っぽい声で囁かれて、こくんと頷く。
口の中に溜まった唾液を飲み込んで、窮屈そうにしているケイレヴのおちんぽを取り出してみた。彼の言う通り、しばらく触れていなかったその場所ははちきれんばかりの熱を湛えている。
「君が私に触れてくれるなら、私も君に触れるよ。――服は邪魔だね」
「っひ、あぁっ♡♡」
彼の瞬き一つで、着ていた服がするりと解け落ちる。下着だけの姿になったところで、彼の長い指先が留めてあったリボンを解いた。
「ダフネだって、期待して目が潤んでいるじゃないか。安心して、ちゃんと気持ちよくしてあげるから」
クスクスと笑ったケイレヴが、やんわりと胸を持ち上げてくる。指が沈み込むその感覚だけで腰が跳ねてしまい、蜜口からじゅわりと蜜が溢れ出してきた。
「んんっ♡」
「ほら、ダフネも私のことを、ちゃんと気持ちよくして――ゆっくり手で擦って。……そう、上手上手」
ゆっくりと――根元から亀頭に向けて、指先で刺激を与えていく。
ケイレヴのおちんぽは大きくて、片手だと包み込むことができない。なので丁寧に、時間をかけて手淫を施していく。ここに来てから何度も彼と体を重ねて、ちょっとずつその方法も学んでいった。
「ぁ♡んんっ……♡っは♡ぁ……♡♡」
むに♡むにっ♡♡と乳房を揉まれて、思わず肉茎を扱く手が早くなる。
甘い刺激が与えられると頭の奥がかすんでしまい、より貪欲に快感を求めてしまう――自分でも浅ましいと思うけれど、ケイレヴはそれがいいという。
「ケイレヴのおちんぽ……どんどん硬くて、熱くなってきてる……♡♡」
「それは、まぁ――これだけ我慢させられればね。君だってさっきから腰ヘコヘコさせて、ずーっと物欲しそうな顔ばかりしているじゃないか」
「う、ぁ……♡♡だって――」
「そうだ、今日はダフネが私の上に乗ってくれないか? 君のことを見上げてみたいし――たまにこういうことをするのもいいだろう?」
すりすりと腰を撫でられ、肩が跳ねる。
……上に乗るという経験はあまりないけれど、確かに興味はあった。普段は一方的に彼に責められることが多いから、その逆というのも試してみたいとは思っていた。
「う、ん……♡ぁ♡あっ♡ケイレヴっ……♡♡乳首かじっちゃ、ぁっ♡♡」
なんとかやってみる、と口にしたその瞬間、ケイレヴが赤く色づいた乳房の先端を前歯で軽く食んだ。
こりゅっ♡という小さな音とともに駆け抜けていく鋭い愉悦に背中を反らすと、彼は逃がすまいとしっかり体を抱き寄せてきた。
乳首を刺激される快感に身悶えしながら、何度か手を上下させて肉茎を扱き上げる――徐々に質量と熱を増してくるその感覚に眩暈を覚えるが、ここから先に待ち受けていることを考えると強い渇きが頭をもたげてくる。
「っ、――ダフネ、もう大丈夫……」
顔を上げたケイレヴが、少し掠れた声で名前を呼んできた。
潤んだ色違いの瞳は凄絶なほどに艶めかしくて、色素の薄い肌がにわかに色づいているのにどうしても興奮してしまう。
「さっき言ったみたいに……できるね?」
「う、うん――」
完全に勃ち上がり、先端から透明な涎をこぼすおちんぽから目を反らせないままで、ケイレヴの言葉に頷いた。
刺激され続けた乳首はジンジンと熱を宿しており、それに連動するようにおまんこがぬかるんで仕方がない。彼の言葉一つで乱され、どうしようもなく欲情してしまう。
「じゃあ、私の上に乗って。自分で挿入れられるね?」
「多分……ん、んっ……♡」
腰を浮かせて、ケイレヴの体を跨ぐ。
服を着ていると細身に見えるけれど、裸になると見た目よりずっと逞しい肉体が晒される。綺麗な顔立ちとしっかりと鍛えられた体のバランスには、ようやく慣れてきたところだ。
(ケイレヴのおちんぽ、もうこんなになってる♡♡こんなにおっきいので犯してもらえるんだ♡♡)
ぐっと腰を上げて、熱い切っ先を潤んだ場所に押し当てる。
先端が膣口に挿入ってしまえば後は容易く、自重で腰を落とすと難なく長大なおちんぽが膣内へと突き立てられた。
「く、ぁあっ♡♡♡ぁんっ♡♡ふ♡んぁ、あっ♡♡♡」
ぬ゛ぷぷぷっ♡と水っぽい音を立てて、ケイレヴのおちんぽが一気に奥まで突き立てられる――♡♡♡
「ほ、ぉ゛ッ♡♡あっ♡♡や♡これっ――あぁっ♡」
「一気に奥まで入ったね……♡おまんこぎゅーって締め付けてきて可愛い♡そんなに私に犯されたかったの?」
「ふぁ、ぁ♡♡そう♡そうで、す♡♡♡ケイレヴのおちんぽずっと待ってたぁ♡♡♡くぁ♡あっ♡♡あぅっ♡♡やっ、これ――♡腰止まんな、ぁあっ♡♡♡」
ぬちゅっ♡♡ぐぷっ♡ぬ゛ぱっ♡♡ぬ゛ぱっ♡♡♡ずちゅんっ♡♡♡
突き立てられた肉棒はいともたやすく奥まで到達し、子宮口をコツコツとノックしてくる。
普段は組み敷かれることが多いので、下から突き上げられるのは穿たれる角度も場所もなにもかも違った。
一突きされるごとに頭の中で火花が弾けて、大きく長い雄茎の形まで克明にわかってしまう。
「ぉ゛ッ♡♡お゛、ほぉっ♡♡♡」
「ぎゅうぎゅう締め付けて、でもナカはすっごくトロトロだ――相変わらず、君の体は快感に従順みたいだね」
「ッひ♡ら、っへぇ♡♡♡ん゛ぁ♡これ♡♡このおちんぽ♡♡♡ケイレヴの旦那様おちんぽで突かれたら♡♡♡ぉ゛ッ♡」
一度動き出してしまったら、腰を上下させるのを止められなくなってしまう。
まるで自分から貪るような動き――苦しいくらいに膣奥を突き上げられるのが気持ちよくて、腰を下ろす度に媚肉がぎゅうっ♡ぎゅうっ♡♡と物欲しげに蠢動した。
「あれ、まんこ突かれてるだけじゃないよね? ……ダフネの気持ちいいところ、今日はたくさんいじめてあげる」
クッと喉を鳴らしたケイレヴが、揺れる乳房の先端をぎゅうっと指でつまんだのはその時だった。
親指と人差し指で思い切り先端を抓られて、一層膣内がきつく締まる。
「ぁ゛♡♡♡あ、ひっ♡っあ♡♡だめ♡♡あ゛ッ♡あ♡ぁ゛、ッ♡♡♡」
鈍い痛みを感じるほどに乳首を責められながら、ごちゅっ♡ごちゅっ♡♡と力強く奥を突かれる――その瞬間に、体が強張って一気に熱が爆ぜた。
「ほ、ぉ゛ッ♡♡♡ぉ゛♡ひ、ぅううっ♡♡♡」
「乳首とまんこ一緒に責められてイっちゃったね? でもまだ――満足していないだろう?」
優しい笑みは、私をどこまでも深みに誘っていく。
上半身を起こしたケイレヴが腰を抱き寄せ、軽く唇をついばんできた。皮膚の上から伝わる熱にすら、どうしようもなく欲情してしまう。
「ぅ――ん♡♡もっと……♡もっとおちんぽ♡♡ケイレヴのおちんぽで愛して……♡♡いっぱいいっぱい、私のナカをあなたでいっぱいにしてほしいの……♡♡♡」
「お望み通り、何度でも満たしてあげる、よっ♡♡」
ごりゅっ♡♡♡ぬぽっ♡♡ばちゅっ♡♡ぱんっ♡ぱんっ♡♡ぱんっ♡♡
「ほ、ぉ゛お゛ッ……♡♡」
思いっきり、子宮口ノックされてる……♡♡
ケイレヴのおちんぽで、お腹の中いっぱいにされながら♡一番奥のところゴツゴツっていじめられるの――気持ちいい……♡♡♡
「ぁひっ♡♡ひっ♡♡しゅご♡久しぶりの夫婦えっち♡おまんこたくさんハメられるの♡♡気持ちいい♡あっ♡♡しゅき♡お゛♡お゛ッ♡♡♡」
「ん――私も大好きだよ、ダフネ♡こんなにいじらしくまんこ締め付けて、種付けしてほしがってるんだもんね?」
「ふぁ♡あっ♡♡♡そうれひゅ♡♡♡お゛っ♡♡種付け♡種付けしてくらひゃ♡♡♡んぃ゛っ♡♡あ、はぁっ♡♡♡」
どちゅっ♡どちゅっ♡♡と力強くケイレヴが律動を繰り返す度に、心も体もわからせられてしまう。
私はケイレヴのもの――彼に満たされて、彼の腕の中でしか生きられないのだと、本能に刻み込まれる。
(それで、いい――♡♡私のことを必要としてくれたのは、ケイレヴだもの……♡)
「は♡ぁうっ♡♡出して、ぇ♡♡♡ダフネのおまんこに♡たっぷりため込んだこってり精液吐き出してください♡♡♡射精♡♡射精♡いっぱい中出ししてぇ♡♡♡」
むちゅぅっ♡♡ぢゅぽっ♡♡♡ぬ゛っ♡ぬ゛っ♡ぬ゛っ♡♡♡
懸命におちんぽに吸い付く子宮口が、射精を請う動きを見せる。
チン媚び腰振りダンスを止められないままの私をきつく抱きしめたケイレヴが、低く唸ったのはその時だった。
「ッく――」
ぶ、ぴゅっ♡♡♡びゅるるるっ♡♡どぷっ♡どぷっ♡♡♡びゅるっ♡♡びゅ~~~っ♡♡
「お゛♡お゛、ッ~~~~♡♡♡イく♡イっちゃ♡♡射精されながら♡アクメキちゃうの♡♡♡ぁ♡あっ♡♡射精アクメしゅき♡♡お゛っ♡きもちいいの♡♡ケイレヴ♡ケイレヴぅ♡♡」
ぎちぎちっ♡と音がするほどにきつくおちんぽを締め付けると、更にケイレヴが何度か腰を揺すってくる。
一度深い絶頂を極めた体はそれだけでもひどく反応してしまって、軽イキを何度も繰り返してしまう。
「ほ♡お゛ッ……♡♡♡」
やがてゆっくりとおちんぽが引き抜かれて、体の内側に感じていた質量が完全に失せる。
それがどこか切なくて眉を寄せると、ケイレヴは艶めかしく目元を綻ばせた。
「ケイレヴ……♡」
「まだ足りないって顔してるね――ダフネはほしがりさんだなぁ」
「だ、だって……♡♡ケイレヴもまだ、苦しそうだよ……♡お掃除フェラして、またおっきくしてあげるから――ダフネのお口まんこ、いっぱい使って……?」
くぱ♡と口を開くと、苦笑したケイレヴが精液と愛蜜にまみれたおちんぽを突き出してくる。
熱を吐き出して少し芯を失った肉茎は、指で刺激してあげるとすぐに頭をもたげてきた。
「ぁ、む……♡んぢゅ♡♡んんんっ……♡♡んちゅ、ちゅっ♡♡♡」
ぢゅるるるっ♡♡ぢゅぽ♡ぢゅぽ♡ちゅぱっ♡♡♡
夢中で肉芯に吸い付いて唾液を絡めると、まとわりついた精液が綺麗になる頃には、再びその先端はケイレヴのお腹につきそうなほど反り立っていた。
「綺麗になったら、また勃ってきちゃったね……♡」
震える手で、ヒクつく蜜口を開いてみる。
とぷっ♡と溢れ出てきた精液の感触に震えながら、私は再び突き立てられた楔の熱さに溺れていくのだった。
Pixivリクエストにてご依頼いただいた小説です。
魔力がないので役立たずと言われ、更に婚約者の罠にはめられた公爵令嬢が、白猫王子に溺愛されてトロトロあまあまえっちで彼のお嫁さんにされちゃうお話