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夫――クレウンシス公爵キースが死んだのは、秋雨が冷たさを増したある夜のことだった。
「それでは、最後のお別れになります――よろしいですかな、公爵夫人」
「……はい」
司祭様による最後の祈りが終わり、私はすっと目を伏せた。
結婚して三年にも満たないが、夫の顔を正面から見たのは一年ぶりだったかもしれない。彼は家に寄りつかず、このところ愛人に与えた邸宅に入り浸っていた。
霊廟に運ばれた柩に、参列者が次々と土をかぶせていく。王家の傍流であるクレウンシス公爵家の当主が亡くなったということもあり、参列者はそれなりに多かった。
(本当に、死んでしまったんだ……)
キース様は事故で死んだ。
愛人と共に旅行に出かけた際、運悪く野盗に狙われたらしい。馬車ごと襲われたところを逃げようとして、谷底へ転落――夫はすぐに見つかったが、相手の女性はついぞ見つからなかったと聞いた。
(雨が降っていて、さぞ冷たかったでしょうに)
土がかぶせられていく柩を眺めながら、私は夫とともに亡くなったという愛人のことを考えていた。
……憎くないわけではない。だが、遺体すら見つからないというのは哀れだ。
そして、共に死んだ夫のことも……彼の死を悼もうと目を閉じたが、なんの感情も湧き出てこなかった。
むしろ感じるのは、冷たい谷底へ、たった一人で転がり落ちていった――顔も知らない女性への憐憫。その恐怖と孤独に思いを馳せていると、不意に誰かの影が落ちた。
「あ……」
「大丈夫かい? ……埋葬は終わったよ、中に入ろう」
「……はい。ありがとうございます――お義父様」
ぼうっとしていた私の前に立っていたのは、夫の父――メルキオール・ド・クレウンシス前公爵だ。
少し前までは所領で隠居暮らしをしていたのだが、息子の死を聞きつけて王都の邸宅に戻ってきた。
年頃は、四十を幾許か超えた頃らしい。
らしい、というのは、義父に実際の年齢を聞いたことがないからではあるが――それにしても、外見だけならば年よりも十は若く見える。
「寒くないかな。暖炉に火を入れてもらおうか」
「いえ……そこまでは寒くないので、お気遣いなく……」
義父は三年前に一度か二度顔を合わせたきりで、それ以外はほとんど言葉を交わしたこともない。
だからというわけではないが、会話をするのはひどく緊張した。
国王陛下からの信頼も厚く、元々は王太子殿下の家庭教師もしていたという――そんな義父が、息子であるキース様の死を知ってひどく狼狽したのを見てしまったのだ。
(お義父様だって、身を引き裂かれるくらい悲しいでしょうに……気丈に振舞われているのが余計に痛々しい……)
夫と義父の関係は、決して良好とは言えなかった。
義父が偉大過ぎる――あるいは、遠縁とはいえ王家の血筋というのが余程重荷だったのだろう。夫は愛人を何人も囲い、放蕩を尽くす生活を送っていた。
いつも愛人の邸宅に入り浸り、本邸にはほとんど帰らない。それでも、夫は義父にとってただ一人の子どもであり――公爵家の跡継ぎだったのだ。
屋敷の中に戻っても、まだすべてが終わったわけではない。参列客にお礼を述べ、見送りをして――そんな段取りを考えていると、どこからか甘ったるい匂いが漂ってきた。
「あぁっ、いたいた! こんなところにいたのねぇ……!」
「あ……お、叔母様……」
「やだもう、酷い顔色じゃない!」
大声でこちらに声をかけてきたのは、叔母のルイーゼだった。その隣には、にこにこと人当たりのよさそうな笑みを貼りつけた叔父のグンターもいる。
「本当に心配したのよ! 公爵様が亡くなったというのに連絡もないし……」
「すみません、バタバタしていて……お越しくださって、ありがとうございます」
私はなんとかそれだけ言った。
叔母の香水は昔から変わらない。甘くて濃くて、少し頭が痛くなる匂いだ。
流行り病で亡くなった両親の葬儀にも、同じ香水をつけていた気がする。
「それにしても大変だったわねぇ。急なことで、あなたもさぞ……ねえ、グンター?」
「あぁ。本当に気の毒に」
叔父はしみじみと頷いた。その目が、一瞬だけ私の背後——広間の方角をちらりと見たのを、私は見逃さなかった。
(……財産の話をしに来たんだ、この人たちは)
そう直感して、背筋に冷たいものが流れていく。
両親が亡くなった時、叔母夫妻はすぐに私の養育を申し出てくれた。七歳で両親を亡くした姪が哀れだ――そう言って、私の後見人になってくれたのだ。
(でも――結局、あの時だって……)
きゅ、と、握りしめた右手に力がこもる。胃のあたりがどんどん重たくなって、胃液が込みあがってきそうだった。
……叔母夫婦はその後、両親が私のために遺してくれていた遺産をことごとく食いつぶした。
父が持っていた伯爵の称号も、思い出のある屋敷も、お母様のドレスも宝石もすべて売られて……最後には、私自身が売られるように夫へ嫁がされたのだ。
「しかし、まさかあのキース様が亡くなるとはな……お前も一人で、さぞ心細いことだろう」
「……いえ、それは――」
「なにかあったら、すぐ私たちに相談してねっ! 可愛い姪のことをほっておけなくて……私たちが後見として、しっかり支えてあげなくちゃって話してたのよ、ねえグンター?」
「あぁ、そうだとも。子どものいない俺たちにとって、お前は娘みたいなものなんだから」
矢継ぎ早に話しかけられて、言葉を発するタイミングを失ってしまう。
私は大丈夫。公爵家のことにむやみに口を出さないで――そう言いたいのに、うまく言葉が出てこない。
「大丈夫よ! 私たちに任せてくれていれば、何も悪いことは……」
「――失礼」
心配を装った言葉が次から次へとかけられ、私が困り果てていると、騒ぎを聞きつけてきたらしい義父がすっと私と叔母の間に割って入った。
「彼女の叔母様方ですね? 私のことは覚えていらっしゃいますか?」
「え、えぇっ! メルキオール様のことを忘れるだなんて……! この度は本当に、ご愁傷さまでございました」
叔母が背筋を伸ばし、なんとも悲しげな声を出す。
叔父もそんな叔母に寄り添い、いかにも沈痛な表情を浮かべていた。
「わざわざお越しいただき、ありがとうございます。彼女のことも心配いただいたようで」
「えぇ――わたくしたち、姪が両親を亡くしてから、本当の娘のように思って育ててまいりましたの。幸せを願って送り出した姪が、愛する夫まで失ってしまうだなんて……」
今にも泣きだしそうな声のルイーゼ叔母が、口元を手で隠して顔を反らした。
それに追従するように、グンター叔父が一歩前へと進み出た。メルキオール様に右手を差し出し、扱く人の良さそうな笑みを浮かべる。
「姪は心を痛めております。公爵家の未亡人としてはまだ若く、至らぬ点もあるでしょう――であれば、親代わりとして私どもが彼女の後見に……」
「あぁ――それは必要ありません。ご安心ください」
――と。
芝居がかった口調の叔父を、義父は一言で切り捨てた。
「彼女は公爵家未亡人……つまり、この家の女主人です。彼女は使用人たちによく慕われておりまして、彼らの手も借りながら家を切り盛りしてくれることでしょう」
「で、ですが、姪は――」
「それに、私もこちらの本邸で生活することになりました。……今回亡くなったのは、クレウンシス公爵家の当主ですから」
静かな口調で、淡々と、しかし一切の反論を許さない強さでそう告げる。
王族を前にしても一歩も引かないと言われているメルキオール様の、その立ち振る舞いからにじみ出る威圧感。
柔らかな物腰からは想像もつかない芯の強さに、叔母夫妻の顔色がどんどん悪くなっていった。
「息子が死んだ今、特例として私がこの家の当主となります」
淡々とした、温度を感じさせない口調だった。
必要事項だけを口にしたメルキオール様が、一度だけ深く息を吐いた。
「公爵家の当主として、残念ながらあなた方に彼女の後見は務まらないと判断しました。……なんでも、ご実家の事業がうまくいっていないとか」
「そ、それは関係ないでしょう……! 私たちはただ、姪が心配で――」
「そうですね。あなた方が事業資金の担保にしているのは、彼女の実家が所有していた荘園や財産でしょうから……なにかあると困るでしょう」
メルキオール様が放った言葉に、叔母夫妻は愕然とした表情を浮かべていた。
というか、事業がうまくいっていないとか、元々伯爵家が所有していた荘園を担保にしているとか――そんな話は、私も聞いたことがなかった。
父が遺した遺産を食いつぶしているのは知っていたが、まさかそこまでの状況だとは思いもよらなかったのだ。
「ですが、それも本来は彼女に遺されたものだったはず……彼女が公爵家に嫁いできた今、私がどうこうしろとは言えませんが……」
確かに、いかに義父といえど私が嫁ぐ前のことを咎めることはできない。
だが、次に彼の口から発せられた言葉に私は目を剥いた。
「彼女はこれから、私と結婚します」
「えっ!?」
――誰が、誰と結婚する?
発せられた言葉の意味を理解できないのは叔母夫婦も同じだったようで、二人してぽかんと口を開いていた。
「すまないね、こんなところで伝えることになってしまって……国王陛下からの命令なんだ」
一方、メルキオール様は至極冷静だった。
こちらを振り向き、申し訳なさそうに眉尻を下げてから頬を掻く。そして、彼に下された命令がなんであるのかを詳細に語ってくれた。
「王家の遠戚であるクレウンシス公爵家が途絶えることがあってはならない。故に、メルキオール・ド・クレウンシスを公爵家当主代行とし、その子を新たなるクレウンシス公爵として擁立せよ――事態はどうにも深刻でね。国王陛下は、私に今一度子を成せと仰せだ」
「な、なぜ私が……? だって私は、その――」
「あぁ。私も倫理にもとる行為だと進言したのだが……どうにも私の政治的な立場は特殊でね。健康な若い婦女子を娶るという目的に……その、君が合致してしまった」
穏やか義父が、これ以上なく言いにくそうに――けれど隠すことなくその理由を教えてくれる。
適齢であり、子を孕めるほど健康な女性を周囲で見繕った結果、それが私ということになったのだろう。血の気が引いたが、心の中でその言葉を噛み締め、納得している自分がいた。
いや――本当はかなり、ものすごく、めちゃくちゃ驚いたけれども。
「本来であれば、このようなことをあなた方の前で言うつもりはありませんでした。ですが、陛下から命令を賜った以上……私は私の妻となる女性を守らなばならない」
きっぱりと、厳然とした口調でそう告げたメルキオール様に、叔母夫妻は暫し黙り込んでしまった。
だが、ややあってグンター叔父がハッと顔を上げ、叔母のことを小突く。
「お、おい……」
「えぇ……そうね。そういうことなら――こ、公爵閣下がこの子のお側にいてくださるのでしたら安心ですわ!」
早口でそれだけを言い残し、叔母夫妻はそそくさとその場から逃げ去ってしまった。
すると、義父がその背中を見送りながら深い息を吐く。
「――公爵というか、当主代理というだけなんだがね」
「す、すみませんお義父様……お忙しい中、このようなことでお手数をおかけして……」
「いいや、気にしないで。来客の対応は執事に任せているから……それよりも、大丈夫だったかい?」
……それは、どういう意味での『大丈夫』なんだろう。
色々と衝撃すぎて、なにから尋ねればいいかわからない。どう答えるのが正解なのかを考えあぐねている私の肩に、義父がそっと触れた。
「っ……!」
「あぁ、すまないね。でも――これからの話は、人のいない場所でした方がいい。……君のためにも」
「そう、ですね……えぇ。お気遣いありがとうございます……」
確かに、先ほど話した内容は人目につくような場所でするものではないだろう。
義父の気遣いに素直に感謝をしつつ、奥にある部屋へ移動する。
その間も、足元から込みあがってくるような得体のしれない不安が尽きることはなかった。
● ● ●
本邸の奥にある、当主執務室。
本来は夫が使用する部屋ではあったが、夫が屋敷に寄りつかないこともあって長らく使われていなかった場所だ。
「さぁ、そこに掛けて。――事の説明をしよう」
「は、はい……」
勧められたソファに腰かけると、見計らったかのように扉がノックされた。
義父が扉を開くと、執事がそっと部屋の中にやってくる。
「旦那様、お茶をお持ちいたしました」
「あぁ……悪いが、お茶を入れたら出てくれないか。できるだけの人払いを――例の件を彼女に話す」
「承知いたしました。それでは、奥様……こちらを」
訳知り顔の執事が小さく頷き、持ってきてくれた温かいお茶を淹れて私の前にそっと置いてくれる。長らくこの家に勤めている老執事は、夫に代わり家の仕事を回してくれてもいた。
私が知らないことは大概彼がやってくれていたので、相当迷惑もかけていたと思う――その表情は、義父を目の前にして少しホッとしているようにも見えた。
「それでは、わたくしはこちらで失礼いたします」
「あぁ、ありがとう」
恭しく腰を折った執事が部屋を出ていくのを確認し、義父が対面のソファに腰かける。
喪服のまま、長い足を組んで深く深く息を吐いたメルキオール様は、しばらく黙り込んだ後で重い口を開いた。
「本来なら、君はこの家の未亡人として生きるか、実家に戻るかを決められる立場にある。……だが、今回に限ってはそれを許すことはできない」
「その……こ、国王陛下のご命令があったから、ですか」
「そうだ」
短く頷いたメルキオール様が、言いにくそうに顎を撫でた。恐らく、この決定には彼自身の意思も考慮されてはいないのだろう。
ずっと離れて暮らしていた夫の妻と、子どもを作る。流石にこの国でも倫理観を問われる話であり、義父がそれを国王陛下に進言したとは思えなかった。
「クレウンシス公爵家が、王家の遠戚だから……家を絶やすわけにはいかないということでしょうか」
「それだけじゃない。……元々、我がクレウンシス公爵家は……王家の予備血統なんだ。万が一この国の王家が断絶するようなことがあれば、クレウンシス公爵家の人間が自動的に王位継承権第一位となる」
予備血統という言葉がいまいち理解できずに、眉を寄せる。
すると義父は、より簡単に話を噛み砕いてくれた。政治の話にはそこまで詳しくはないので、素直にありがたい。
「これは建国の頃、初代国王陛下の弟がクレウンシス公爵を名乗ったという流れがあるからなんだが――この国の王権を担保するためにも、我が家の血統を絶やすわけにはいかないんだ」
「そう、ですか……。えぇと、予備血統ということは聞いていなかったので……」
「あらぬ混乱を避けるために、このことは公表されていないからね。王家と匹敵する血筋があるなどと知られれば、私たちの身にも危険が及びかねない」
そこまで話してから、義父は湯気の立つティーカップを傾けて喉を潤した。
それからゆっくりと息を吐き、私の方に視線を向ける。
「本来、君には拒否する権利がある。気分が悪いだろう、君をほったらかして面倒ごとを押し付けていた男の、それも父親と娶せられるなど」
「それ、は……えぇと、驚きました。とっても……」
どんな言葉を尽くしても、この場では失礼になってしまう。
できるだけ言葉を選びはしたが、「驚いた」も不適切だっただろうか――そう思って背中に冷や汗をかいていると、そこでようやく義父が小さく笑った。
「驚いた、か。だろうね……私も驚いたよ」
「お義父様、も……」
「あぁ。驚いたとも――キースが死んだということも、陛下に命じられたことも、未だになにかの夢ではないかと思っている」
そう言って、義父は笑っていた。
確かに口元は笑っていたが――その目元には深い疲労と困惑、そして拭いきれない悲しみが滲んでいる。
それでも、私を不安がらせないよう、至極余裕があるかのように振舞ってくれてれているのだ。
「本当なら、私は君を実家に帰してあげられるように注力するべきだ。だが、こればかりは私の一存ではどうにもできない――それに、今君を生家に帰すことは……些か難しいのではないのかと思ってね」
「……叔母夫妻のことでしょうか」
「うん、賢いね。あの様子だと、公爵家の財産をアテにしていたのかもしれないが」
義父はその浅ましさを怒っているわけでも、嘲笑うわけでもなかった。
「君にこれ以上の負担をかけるのは、私としても本意ではない。だが……この家にいてくれれば、少なくとも私が君を守ることはできそうだ。隠居の身ではあるが、それくらいの力はある」
「あ、ありがとうございます……」
こういう時は、なんと返すのが正解なんだろう。頭を下げはしたものの、次の言葉が出てこない。
ぼんやりとしていると、対面のソファに腰かけていた義父はゆっくりと立ち上がり、私のすぐ隣に腰を下ろした。
「君は――この状況で、私に礼を言うのか。君自身、尊厳が踏みにじられているようなものだろう。まるでモノのように扱われているのに気付いていないのかい?」
すると、義父はすっと首を傾げ、とても穏やかにそう問いかけてきた。
試しているわけではない――ただ、まっすぐにこちらを見つめながら問いかけてくる視線は、嘘がつけないほど静かに凪いでいた。
「君は私を嫌悪する権利がある。あの子に散々迷惑をかけられていただろう。その上、父親である私と子を作れと言われたんだ――憤りを覚えるのも無理はないことだ」
「あ……の、それは……」
私はバツの悪さを隠すように紅茶の入ったティーカップを手に取ったのだが――力の入らない指先から、カップがつるりと逃げだした。
「あっ……! ご、ごめんなさいっ!」
「あぁ、大丈夫だよ。肌にかかってはいないかい?」
柔らかい絨毯の上に落ちたことで、ティーカップそのものは割れなかった。だが、こぼれた紅茶がどんどん広がっていく。
「だ、大丈夫です、けど……あの、本当に……」
「落ち着いて。……ゆっくり、息を吸うんだ」
義父は立ち上がり、私の側に来て何度か背中を撫でてくれた。
それでようやく落ち着きを取り戻した私は、深呼吸を繰り返してもう一度れに頭を下げる。
「取り乱してしまい、本当に申し訳ございません……」
「いいんだよ。それに……君もこんなことでパニックになるほど気持ちが追い詰められていたんだと、気付いてあげられなくてすまないね」
優しい手が、また何度か背中を撫でてくれた。
「いえ……驚いただけ、で……。その、陛下からのご命令なら、受け止めようと思ったんですけど……」
――その言葉は、自分でも驚く程に震えていた。
「国王陛下からのご命令なのでしたら、私はこの国の一員としてそれを遂行せねばなりません。お義父様のお気持ちもわかりますし、私の立場を守ってくださろうとしていることも――」
後ろ盾のない貴族の女性は、この国ではあまりに生きていくのが難しい。だが、実家に帰るにしても、私の居場所はどこにもないだろう。
突然義父と結婚しろと言われたことは驚いたが、それでも――メルキオール様は私のことを気遣ってくれた。
「その――それに、原因は私にもあります。私が……その、先に子を成していたら」
「それはあの子の問題だ。本邸に寄りつかず、公爵家当主としての仕事もしない――その状況で子を成せというのは難しいだろう」
結婚して、三年弱。
その間に子どもができなければ、役立たずと切り捨てられても仕方がない。けれど、メルキオール様は優しく私を慰め、そっと両手で私の手を包み込んでくれた。
「あ、っ……お義父、様」
「君のその決断に、最大限の感謝を。……喪に服す間の一年は、私たちの関係を公にすることができないが……使用人たちには、これまで通りこの家の女主人として扱うように命じよう」
低く静かな声が、耳を右から左へ抜けていく。
一気に色々な情報が与えられ、頭の中が混乱している――そんな中でぎゅっと手を握られて、身動きも取れなくなってしまった。
(お義父様の手、冷たい……)
氷のように冷え切った指先は、それでも泣きたくなるほど優しかった。
差し出された手を拒むことができない私は、軽く肩を抱き寄せられても言葉を発することができなかった。不意に抱きしめられる形になって、心臓が大きく跳ねる。
「っ……」
「今日は疲れただろう。まずはゆっくり休んで――明日、君の部屋に向かうから」
「……も、もう、ですか……?」
びく、と肩が震えて、ついそう問いかけてしまう。
あの人が亡くなって、今日葬儀が終わったばかりだ。義父との子作りを命じられているとはいえ、さすがに少し待った方がいいんじゃないか――そんな考えが頭をよぎったが、義父はただ静かに頷いただけだった。
「私もあまり若くはない。できることは早めにしておかないと……なにがあるのか、わからないからね」
「あ、っ……しょ、承知いたしました。……出過ぎたことを言って、申し訳ございません」
メルキオール様が言いたかったのは、きっとキース様のことだろう。
まだ若く、病気もなかった。それなのにあの人は不慮の事故で死んでしまって――同じことが、絶対に起こらないとは言い切れない。
「そうビクビクしなくて大丈夫だよ。……仲良くやろう、というのは難しいかもしれないが――私はできるだけ、君を尊重したい」
義父の、薄い唇が――耳元にそっと近づいてくる。
吐息の熱さと声の甘さに体が強張って、顔がじんわりと熱くなるのを感じた。
(これじゃ、まるで……)
――まるで、触れられることを期待しているみたいだ。
体が小刻みに震えるのを感じながら、私はきゅっと唇をかみしめた。
「それに――君は私が思っていたよりもずっと健気で、正直なようだ。――耳まで赤くなっている」
「し、失礼しまし、た……!」
「だから、謝らないで。……それでは、このことは喪が明けるまで内密に――いいね?」
低い声で窘められ、抱き寄せられた肩から腕が離れていく。
少しだけ、それがもったいないような気がして、私は何も言えず俯くばかりだった。
● ● ●
翌日も、私はいつも通りの時間を過ごした。
葬儀が終わっても弔問に訪れる人はいるので、彼らの対応や屋敷の中の仕事の再分配――義父が巻き取ってくれた仕事や、新しく覚えなければならない仕事の整理を続けていた。
「奥様、食事の後はお部屋でお待ちくださいませ。旦那様からのご指示です」
「は、旦那様……?」
「キース坊ちゃまが亡くなられた今、公爵家の『旦那様』はメルキオール様でございます」
仕事を持ってきた執事に指摘され、そうか、と軽く額を抑えた。
まだ周囲がバタバタしているということもあり、そういう邸内での対応は慣れていない。
(早く慣れなきゃ……)
昨晩はようやくゆっくりと眠れたのだが、それでも忙しいことに変わりはなかった。
「気をつけます……」
「無理もないことでございます。これまで『旦那様』は滅多に屋敷にお帰りにはなられませんでしたし……しかし、メルキオール様がいらっしゃるのなら、執務に関しては問題ございますまい」
そう告げた執事の表情も、どことなく安堵しているように見えた。
人が死んでいる。だから、こんなことを考えるのは不謹慎かもしれないけれど――うまく回らなかった歯車が、キース様の死で動き出したような、妙な感覚を覚える。
執事に頼まれていた仕事を終え、食事をとっている間も、義父とはあまり話さなかった。
最低限の仕事の話はしたけれど、何を話していいのかわからない。ぎこちない空気のまま部屋に戻り、髪を解いて支度をしていると、やがてコツコツと扉がノックされた。
「っ……!」
……きた。
ついにこの瞬間が来てしまった。
この屋敷の主を廊下で待たせるわけにもいかないので、私は静かにその扉を開け――それから絶句した。
「やぁ――待っていてくれたんだね」
「お、義父様……?」
義父は、常日頃きっちりとした――誰にも隙を見せない格好をしていた。
だが、今は……しっかりと撫でつけられていた髪は半分ほど濡れたままで、シャツだけを羽織った簡素な服装で私の前に立っている。
見たことのない義父の姿、その壮絶なまでの色気に、思わず眩暈がした。
「は、ぇっ……あ、おっ――おまち、しておりました……」
幸い、声は変わらないのですぐに義父だとわかった。妙にひっくり返った声音でそう返しながら、彼を寝室に招く。
(なんでこんなに混乱してるんだろ――っていうかお義父様……髪を下ろしたら印象が変わるのね……)
男性の見た目の変化で、これほど驚いたことはない。
というか、キース様とは……初夜がどうだったのか、実はよく思い出せないのだ。
(あの時はただ、痛くて怖くて――早く終わりますように、って思ってたっけ……)
自分よりずっと体躯のいい男性に組み敷かれる恐怖と、体に異物をねじ込まれる痛み。
それに耐えるのが女の役割なのだと言われ、ひたすら苦痛を押し殺していたが――そんな私に向けられたのは、痛みをねぎらう声でも賞賛の言葉でもなく、冷たい侮蔑の視線だった。
「……大丈夫かい?」
「え、はっ……はい。すみません、その――き、緊張していて」
深く沈み込みそうだった思考が、メルキオール様の声で引き上げられる。
一瞬苦しくなった喉の奥が開いて、やけに呼吸がしやすくなった。緊張しているのに息がしやすいというのもおかしな状況だが、おかげで頭の中が少し鮮明になってくる。
「そうだろうね。昨日の今日で、君も混乱していることだろう」
小さく笑ったメルキオール様が、そっと右手で頬に触れてきた。
昨日はとても冷たかったその手は、湯上がりということもあってか少し温かく感じる。
「っあ、あの……」
「うん、どうしたのかな」
「――で、できるだけ耐えます、が……その、お見苦しいところをお見せしたら――申し訳、ございません」
その手の温かさにわずかな安堵を覚えたものの、脳裏によぎるのはキース様の冷たい視線だ。
ゾッとしたものが背筋を駆け抜けていくのに耐えながら言葉を絞り出すと、メルキオール様は少し目を見開いて黙り込んでしまった。
(……まず、い)
言ってはいけないことを言ったかもしれない。
一瞬で頭の中が真っ白になって、足からぐらりと力が抜ける。
すると、ハッと顔を上げた義父が私の腕をしっかりと掴んでくれた。
「危ない……!」
「ぁ――す、すみません……」
義父にしてはひどく珍しい鋭い声が鼓膜を叩き、私は何度か浅い呼吸を繰り返した。
全身にじっとりと汗をかき、奥歯がカチカチと音を立てる――そんな私の顔を覗き込み、メルキオール様はそっと首を横に振った。
「謝らなくていい。……まずはベッドに座って、呼吸を整えよう」
「は、はい……」
優しい言葉に、心臓を鷲掴みにされるような苦しさは少し和らいだ。
言われるがままに寝台へと腰を下ろすと、そのまま義父の手が背中を撫でてくれる。服の上から柔らかく背を擦ってくれる手はとても優しくて、徐々に呼吸の速度も落ち着いてきた。
「……まさか、君がそこまで緊張しているとは思わなかったよ」
「すみません――その、こういったことは……ひ、久しぶりで」
キース様が家に寄りつかなかったので、当然と言えば当然だ。
一人寝には慣れているし、むしろこの部屋に使用人以外の人が来ることが初めてでもある。
「そう、だね……だが――」
理知的な光を宿した切れ長の目が、なにもかも見透かすように私のことを見つめてきた。
「あの子が、君を怖らがせてしまったのかな」
「っ……それ、は」
違います、と口にすることはできたはずだ。死んだ人間の尊厳を傷つけてはならない――それなのに、つい言葉に詰まってしまう。
すると、義父は何も言わずに小さく笑い、それから一度だけ髪をかき上げた。艶のある前髪を流すと、そっと肩を掴まれて仰向けに押し倒されてしまう。
「ん、ぁ……」
油断というと言葉が悪い気もするが、完全に気が抜けていた。体は簡単に寝台の上に転がって、そこに義父が覆いかぶさってくる。
「メ、ルキオール様……」
「君が怖がることはしないよ。少しずつ確かめながら触れていく――だから、怖いと思ったらすぐに言ってくれ」
義父の指先が目尻を撫でて、それから頬をゆっくりとなぞる。
(……男の人の手、だ――)
ペンを持つ手には、少しだけ凹凸を感じる。見た目は繊細な指先だが、少し乾いたその皮膚は思っていたよりも固かった。
「ん……は、はい――んぅ♡」
頬から顎をなぞった指先が、太腿の方へと伸びていく。
喉の渇きを覚えて唾を飲み込むと、ゴクン、という音が酷く頭の中で響いて聞こえた。
心臓が強く打ちつける音や、呼吸音が聞こえないように――お腹に力を入れ、できるだけ小さく息を吐く。義父はちらりとこちらに視線を向け、それからぐっと右の太ももに指先を沈めてきた。
「んっ……ぁ、あっ――」
「ゆっくりと呼吸をしてごらん。大丈夫……ここには君をなじったり、傷つけたりする人間はいない」
耳元に唇を寄せられて、低く囁かれる。温かい吐息が耳朶に絡むと、自然と深く呼吸がができるようになり、全身から力が抜けた。
(お義父様の声、安心する……)
低く淡々としていて、優しくはあるが感情の揺らぎは少ない。
過敏になってささくれた心を癒してくれるような響きに、私の呼吸はいつしか元通りの速度へと戻っていた。
「少しは落ち着いたかな? それなら――少しずつ進めていこうか」
「は、はい。よろしくお願いしま、ぅっ――ん、む♡」
頭上から降りかかってきた声に答えようとした瞬間、薄い唇がぷちゅ……♡と押し付けられた。
「ぁ、んんっ……♡ちゅ、っ♡んむ♡♡んッ……♡は、ぁっ♡♡♡んむぅっ……♡」
ちゅ♡ちゅぅっ……♡と軽く唇を吸われ、そのまま両肩を寝台へ押し付けられる。
――思えば、キスは結婚式を除いたらこの時が初めてだったかもしれない。
「は、ァっ……♡♡はっ♡お、とぉさまっ……♡」
触れるだけのキスが終わり、お互いの唇が離れる――顔が一気に熱くなるのを感じつつ義父のことを呼ぶ。
すると彼は、応える代わりにそっと指先で唇を撫でててきた。
「今度は、もう少しだけ唇を開いてごらん。呼吸ができるようにしてあげるから」
穏やかな声にこくんと頷き、先ほどよりも気持ち大きく口を開く――すると、再び端正な義父の顔が近づき、唇にぬくもりが触れた。
「ぁ、んっ……♡♡んむ♡ちゅ、ぅっ……♡♡♡ん♡んくっ……♡」
ちゅ♡ちゅぱっ♡♡ぢゅる、ぬりゅ……♡ちゅぽ♡ちゅ♡ちゅぅっ……♡♡♡
今度は開いた口の間から、生温かい舌先が潜り込んできた。
指先と違って柔らかな舌先が、ゆっくりと歯列をなぞって口蓋を撫でてくる。それだけでぞわっ……♡とした震えが込みあがってきたが、不思議と嫌悪感は覚えなかった。
むしろ、これまで感じたことのない感覚――自分が優しく包み込まれているかのような感覚に、心地よささえ覚える。
「っ、は……♡♡」
長い――思っていた以上に長いキスが終わると、今度はお互いの舌を透明な糸が繋いでいた。
頭の芯の方がじぃんと痺れるような感覚が、自分の中から冷静な思考を奪い去っていく。
(キス、って――怖くないんだ……)
呼吸も、思っていたより苦しくなかった。私は何もしていないけれど、ひとつ大きなことを成し遂げたかのような気持ちになる。
「苦しくはなかったかな?」
「……はい」
怖く、なかった。
けれど心臓は強く高鳴り、頭の横のあたりがドクッ、ドクッ……と脈を打っているような気がしてくる。
「そうか、それならよかった――もう少し触れてみるが、怖かったら教えてくれ」
義父の声は、どこまでも穏やかだった。
やや節の目立つ手の甲で頬を撫でられて、今度は寝間着の裾をゆっくりとめくられる。
「んっ……」
「目を閉じていた方がいいかな。顔を見なければ、あの子を思い出すこともないだろう」
気を使ってくれているのか、義父が優しく声をかけてくれた。
だが、キース様とメルキオール様はあまり顔が似ていない。そう考えると、死んだ夫は顔の知らない義母に似ているのかもしれない。
「大、丈夫です……それは、失礼になりますので――」
「……律儀な子だね」
笑ったのか呆れたのか、義父の声が少しだけ揺らいだ気がする。
太腿を撫でる手がこそばゆくて、少しずつ足の付け根に近づいてくる指先の感触にお腹の奥が疼いた。きゅう、と下腹部が切なく蠢動するのを感じて、つい顔が熱くなってくる。
「く、ぅ……♡ん♡♡」
「唇を噛んでしまってはいけないから、どうか声を我慢しないで」
やんわりと諭されて、その言葉にすっと頷いた。
(メルキオール様って――すごく、優しい人なんだな……)
これまであまり話したことも、会ったこともなかった相手だ。頭がいい人だとは知っていたが、逆に少し怖いとすら思っていた。
だが、触れる指先の優しさ、手のひらの熱を感じると、怖いというよりも頼もしいと思えてしまう。柔らかく、感情を乱すことのない声が、心の奥の方に静かに染み入ってくるみたいだ。
「ん、ぁ……あ、っ♡」
くちっ……♡と小さな音を立てて、指先が布で秘された割れ目に触れたのはその時だった。
ぼんやりと考え事をしていた私は、その感触で急速に現実へと引き戻される。
「ん♡ん、ぁ……さ、触って……?」
「あぁ。少しだけ――これは痛くない?」
「……はい、っ♡く♡あ、ごめっ……んんぅ♡♡♡」
くちゅ♡くちっ♡ぬちゅ♡♡♡ぬりゅっ……♡くちゅ♡
指先を小刻みに動かされ、カリカリカリ……♡と爪の先で秘裂をなぞられる。緊張でお腹のあたりに力がこもっていたのが、その愛撫で見事に脱力してしまった。
「んぅっ……♡」
「あぁ、具合は良さそうだ――少しずつ濡れてきたね。……わかるかい?」
「っ、はい……♡」
促されるまま頷くと、義父が濡れそぼった私の下着に指先をかけた。
そして、それをゆっくりと引き下ろす――かすかに潤みを帯びた蜜口が外気に晒されて、体がぶるりと大きく震えた。
そのまま更に両足を開かれると、くぱ……♡と口を開いたおまんこがメルキオール様に晒される。
(っ……見られ、てる……♡)
義父は何も言わなかったが、私としては恥ずかしいことこの上ない。
この期に及んで足を閉じるわけにもいかずにいると、メルキオール様はすっと首を傾げて体を曲げてきた。
「っ、え――ま、待ってっ……んんっ♡」
くちゅ……♡と、生温かい感触がおまんこに触れる――それが彼の舌であると気付いた時、私はガバッ! と体を跳ね起こした。
「お、おおおおお義父様!」
「なんだい?」
「なに、今ッ……な、何を――」
「……舐めてみたんだが、だめだったかい?」
ちろ……と舌で軽く唇を舐めてみた義父の表情が、酷く煽情的でドキドキしてしまう。
下ろした黒髪の印象も相まって、あの冷静な義父とはまるで別人のようだ。
「舐め、て……いや、あのっ――そのようなことをされては……」
「しっかりと体を慣らすのは大切なことだよ。大丈夫だから、もう少し私に任せて」
ぬちゅ……♡くちゅ♡ぢゅぷぷっ……♡ぐぽ♡ぐぽっ♡♡
にわかに蜜をまぶした淫裂を舐め上げられて、一瞬体が強張った。だが、義父は私の両足を抑えつけたまま、チロチロとその場所を何度も舌先で弄ってくる。
「ぉ゛、ッ……♡♡お、とぉさまっ……♡ン♡♡あ、ぁあっ♡」
普段、絶対に触れられないような場所をぬちぬちと刺激され、唇から甘ったるい声がこぼれ落ちる。
こんなことをメルキオール様にさせるなんて、絶対にあってはならない――頭ではそのことを理解しているのに、体はより深いところを刺激してほしいと言わんばかりの腰を揺さぶってしまう。
「ん♡ん、っ……♡♡」
「声は出しても大丈夫。……可愛らしいその声を、もっと聞かせてくれないか」
「ひっ――そ、そこで話しちゃ――ん゛ッ♡」
義父が声を発するたび、吐息がおまんこに触れてくすぐったさにも似た妙な感覚がせりあがってきた。
軽くお腹に力を入れるが、挿入される舌の蠢きは止められない。
「ん……我慢、しないで。もう君を怖がらせる人間はいない――」
ちゅ♡ちゅぷっ……♡♡と舌の先端を動かされて、背中が弓なりに反る。
お腹の奥が舌の熱でとろけて、蜜と一緒に溢れてきそうだ。
「ん゛ぁ、ぁ゛っ……♡」
ぢゅぷんっ♡♡と、硬いなにかが突き立てられたのはその時だった。
舌よりも固い――ぬちゅぬちゅと淫蜜を撹拌するそれが、義父の指先だと気づいたのは少し遅れてのことだ。
「あ♡あふ、ッ……♡♡ひ♡ぃ゛ッ……♡♡♡だめ♡お義父様……っ♡ん♡♡ぁ、やぁあっ♡♡」
「舌だけだと芸がないかと思ってね。だが、安心したよ――なかなかキツく締め上げてくると思ったが、指一本くらいならなんとかなりそうだ」
ぬぢゅ♡ぬぢゅ♡と小刻みに指を動かされながら、熱を帯びた吐息交じりの声を囁かれる。
あの、いかにも誠実そうな義父が――私の体を組み敷き、絶え間ない快楽を与え続けている。
(う、そ――こんな、だって……)
異性に体を触れられる行為は、ある程度こちら側の忍耐が必要なことだと思っていた。
苦しいことも、痛いことも、私が耐えればいい。そうしないと男性が精を放てない――だから、女の方が耐えるのは仕方がないこと。
ずっとそう思っていたのに、義父の手は、舌は、そんな私の思い込みを優しく揺さぶって粉々にしてしまう。
「おと、さまっ……♡あっ♡メルキオールさまっ……♡♡♡んぅ♡だめ♡そこはぁっ……♡」
ぐぢゅ♡くちっ♡♡とおまんこの中を指でほぐされ、天井のあたりを小刻みに刺激される。腰が浮かぶような妙な浮遊感が襲い掛かってきて、私は何度も首を横に振った。
「これだめ、んぅ♡♡くぅっ……♡ひぁ、やだっ――そこは、ァんっ♡」
「気持ちいいのかな? 自分の思っていることは、しっかり口にするといい」
指先を的確に動かしながら、義父の柔らかな表情は変わらない。
じっと私のことを見下ろし、怖くないようにとずっと声をかけ続けてくれている。
「イっても大丈夫だよ。私が見ている――君が、私の体で感じているところを」
「い、く……?」
「あぁ――あの子は、君にそんなことも教えていなかったんだね」
――そこで、少しだけメルキオール様の表情が変わった。
眉尻を下げ、呆れたように息を吐いたメルキオール様が、更に指先を深く突き立ててきた。
「少し拡げてみようか。痛かったら、すぐに教えておくれ」
「え――ぁ゛、ぁあっ♡」
ずぶぶっ……♡と長い指先を挿入されて、軽く関節を曲げられる。
ぢゅぽ♡ぐぷっ♡♡と生々しい音を立ててかき混ぜられた膣内が、ぎゅぅうっ……♡ときつく収縮した。
「は、ぁっ――や、これっ……♡♡なん、かぁっ♡あ♡クるっ……♡♡♡んぁ、あっ♡」
びくっ……と体が震えたかと思うと、下腹部から妙な痺れがせりあがってくる。
未知の感覚が恐ろしくてシーツを蹴るも、ろくに力の入らない体ではそれらしい抵抗もできなかった。
「いいよ。イっても……私が、君の痴態を見ていてあげる」
甘い――頭の中に、直接染みわたるような、優しい声。
その声に縋るように、私はガクガクッ……♡と腰を揺らして快感を追い続けた。
「んぅ♡ん♡い、ぅっ……♡♡ぁあっ♡イく♡も、イきま、ぁぁあっ……♡♡♡」
ぐぷぅっ……♡とある一点を刺激されるのと、積み重なった快感が爆ぜる瞬間はほとんど同時だった。
「ンぁ♡あ゛~~~~ッ♡♡」
びくんっ♡がくがくがくっ♡♡へこっ♡へこっ♡♡がくんっ♡♡♡
こちらの意思とは関係なく、体が弛緩と緊張を繰り返す。全身にぶわっ……♡と汗が浮かんで、私は頭の下にある枕を掴んだまま必死にその愉悦に耐えた。
「ん゛ぅ、ぅ゛ッ……♡♡ふぅ♡うっ……♡これ、ぁ――これ、が……?」
「上手にイけたね。……ほら、痛いことも怖いことも、なにもなかっただろう?」
ずりゅ……♡と濡れそぼった指先をおまんこから引き抜かれ、私は四肢を寝台の上に投げ出した。
はっ♡はっ♡♡と浅い呼吸が止まらず、下腹部にわだかまる余韻が思考を鈍らせる。
「おと、さま――こんな、こと……」
こんなことを、これから彼と繰り返すというのか。
信じられないような心地で生ぬるくなったシーツを握ると、義父が小さく首をかしげて顔を近づけてくる。
柔らかい黒髪が耳朶に触れ、吐息が鼓膜に絡んできた。
「そうだよ。これから――君は私と、こういうことをする」
ゾッとするほど低くて甘い声に、きゅうぅっ……♡♡と子宮が疼く。
「だが、今日はもう終わりにしておこうか。疲れているだろう? それに――あまり急くものではない。私はあまり、君に負担をかけたくないんだ」
シーツの上に投げ出した手に、義父が指先を絡めてくる。
じんわりと熱を宿したその指先に、心臓を鷲掴みにされているみたいだ。
「……お義父様」
は……♡と小さく息を吐き出すと、そのまま一度だけ――触れるだけのキスをされた。
気遣うようにじっとこちらを見つめるまなざしが遠ざかり、口元に笑みを浮かべたまま、義父が扉の方へと向かっていく。
「暖かくして休むんだよ」
柔和な声が、鼓膜に絡みついて離れない。
一人になった部屋の中で、私は呆然としたまま眠るまでのわずかな時間を過ごすことになった。