24/08/03 新しい短編を追加しました。ファンタジー+1

男爵令嬢の淫らな献身~盲目の旦那様ににえっちで健気なご奉仕させていただきます♡~

Skebでご依頼いただいた、悪意によって顔に大怪我を負った男爵令嬢が、同じく悪意によって盲目になった公爵令息に嫁ぐお話

「喜びなさい、マルグレット。カグリアーノ公爵家からお前に縁談が来ているわ。お前は公子……モーリス様の妻になるのよ」

 ――継母の言葉に、私はなんとも言えない気持ちになった。
 マグメル男爵家……生家である男爵家は、父が亡くなってから女主人である継母が切り盛りしている。
 優しい母と穏やかな父、そして大好きなおばあさまが亡くなって、この家はとうとう私の胃場所ではなくなってしまった。

「お姉様ったらすごい! そのナリでご結婚ができるだけでも奇跡のようよ! それにカグリアーノ公爵家って、金鉱山を持っているんでしょう? きっといい暮らしをさせてもらえるわ」

 にこにこと無邪気に笑う義妹が、もし公爵家と縁戚になったら好きなだけ宝飾品を買えると喜んでいた。
 継母は半月後に迎えが来るが、なにも用意はなくていいとだけ告げてその場を去ってしまう。――多分、新しくできた愛人のところに行くのだろう。

(持参金もないし、私のような人間が嫁げるというのもおかしい……それに、カグリアーノ公爵家っていえば――)

 斜陽の男爵家に生まれた人間と言えど、それなりに情勢の話は耳に入るものだ。
 カグリアーノ公爵家は領地に金鉱山と五つの港を有する大変な金満家で、嫡男であるモーリス様は王太子殿下の右腕とも呼ばれている。
 三代前の王妃様はこのカグリアーノ公爵家の出身で、公爵家の縁者になるということは王家とも縁ができることになる。
 だが、そのモーリス様は、半年ほど前から病で床に臥せているらしい。

(呪いを受けたとか、毒を盛られたとか聞いていたけれど……大層な重病で、屋敷から出られないのだっけ)

 華やかな美貌とその政治手腕から、かつて王都の令嬢たちは皆モーリス様に恋をしたという。だが、病を得てからは表舞台から一切姿を消している――そんな人と、よりによって私が結婚するというのだから、裏がないわけがない。
 使用人がほとんどいなくなった屋敷の中を歩き、部屋に戻ってから、私は鏡を見て重いため息をついた。

「……どうして私が――」

 そっと、鏡に手を重ねてみる。
 そこに映っているのは、顔の半分ほどを火傷の痕に覆われた醜い女の顔だ。

(もう痛まないほどにはなったけれど……)

 数年間前、父がまだ生きていた頃――私は頭から熱湯をかぶり、この火傷を負った。
 継母が誤って手に持っていたお湯を落とし、私にそれが掛かってしまった……悲惨な事故だったと継母は泣いて父に謝ったが、アレは恐らく故意のものだっただろう。
 貴族の令嬢として、顔に大怪我を負ったのは致命的だ。本来ならば長子の私が優先される他家との縁談も、すべて義妹の方へ向かうようになった。

(まぁ……こんな廃れた家に縁談を持ち掛けてくるようなもの好きも、そう相違ないけれど――)

 父が生きていた頃はまだよかった。
 学者として生きていた父は最高学府で教鞭をとっており、生きていくには十分なだけの蓄えもあった。
 だが、継母がやってきてから生活は一変した。華やかな継母は自分とメリッサを着飾ることに夢中で、家の財産を恐ろしい速度で食いつぶしていく。
 やがて父が亡くなると、女主人という立場をいいことにその遺産にも手を付け始めたのだ。

(よほど高い金額で売られたのね。とっても嬉しそうだったもの)

 鏡から顔を背けて、深く息を吐く。
 二年前に祖母が亡くなるまではまだ幸せだった。醜い顔を隠すためのヴェールも、祖母の前ではつけなくてもよかったし……なにより祖母は優しかった。
 継母の勝手な振る舞いに心を痛め、わずかに自分が所有していた指輪を私のために残してくれた――そんなおばあさまが亡くなってからは、生きながらにして死んでいるような心地だった。
 召使いのように家の雑事をさせられ、機嫌が悪いと当たり散らされる。
 そんな毎日を送っていれば少しずつ心が麻痺してくるもので、この度もたらされた縁談にだって特別な感情を抱くことはできなかった。

(だって、明らかに身分違いだもの)

 どんな理由があってあのカグリアーノ公爵家が私を嫡男の妻にしようとしたのかは、一切謎だ。
 もしかしたら、体よく使える召使いが欲しいのかもしれない――そんなことを考えながら、私は半月後の輿入れをただ静かに待つこととなった。

● ● ●

「マグメル男爵令嬢、マルグレット様でございますね? ささ、どうぞこちらへ――」

 その日は、朝からひどく慌ただしかった。
 継母や義妹は手持ちの中で最も上等なドレスに身を包み、数少ない使用人たちもどことなく忙しない。
 ただ一人、私だけは淡々と来るべき時を待っていた。
 なにも用意をすることはないと言われていたので、身の回りで必要なものと、おばあさまの遺品である指輪だけを持って、やってきた従者と共に馬車へ乗り込む。
 ……黒いヴェールで顔を隠していることにも、従者は特に驚いた様子を見せなかった。

「マルグレット様、お足元にお気を付け下さいませ」
「ありがとうございます。……見えていないわけではないので、お気遣いいただく必要はありません」
「左様でございますか――しかし、段差がございます。奥様に万一のことがあれば、大旦那様や大奥様にお叱りを受けてしまいますので」

 わざとつっけんどんな物言いをしたが、若い従者は嫌な顔一つ見せることはなかった。
 四頭立ての豪華な馬車に乗り込むと、それはやがてゆっくりと動き出す。
 ――窓は開けず、私はおばあさまの指輪をそっと手のひらに乗せていた。

(なんだか……もっとひどい物言いをされると思っていたのに……)

 奥様なんて呼ばれるから、誰のことかと思った。
 数日考えたが、私はやはり召使いの代わりとして公爵家に嫁ぐんじゃないか――そう自分のことを納得させていた。
 そのため、ヴェールの件にも触れず、こちらが失礼な態度を取ったのにも関わらず叱責さえないというのに居心地の悪さすら覚えてしまう。

(これから一体……どんな生活を送ることになるのかしら……)

 どんな状況でも、家を乗っ取られて大切なものを奪われる生活よりはマシだと思う。妻としてではなく使用人として仕えろというのなら、私は喜んでそうするつもりだった。
 静かにそう決意を固めると、馬車はゆっくりと速度を落とした。
 そっと窓から外を見ると、そこは多くの上位貴族たちの邸宅が居並ぶ王都一番街――さらにその奥にあるカグリアーノ公爵家の邸宅は、王宮と見紛うほどに立派なものだった。

「奥様、本邸に到着いたしました。大旦那様と大奥様……それと、モーリス坊ちゃまがお待ちです」
「……は、はい」

 馬車が完全に動きを止めると、先ほどの従者が声をかけてきた。
 手を借りて馬車から降り、案内されるがままに邸宅の中へと足を踏み入れる。
 豪奢な建物の中はどこもかしこも掃除が行き届いており、誰もが私を奥様と呼んで頭を下げた。
 そんな丁重な扱いに慣れない私は、ぺこぺこと頭を下げながら公爵夫妻が待っている部屋へと向かう。

「こちらです。その、モーリス坊ちゃまはお身体の調子が優れず……離れから出ることができないのですが」
「わ、わかりました。まずはその、ご挨拶だけでも」

 心臓がうるさい。
 かのカグリアーノ公爵と顔を合わせるのも緊張したが、この姿を見て眉を顰められると思うと、それだけで頭が痛くなった。
 それでも、挨拶をしないわけにはいかない――開かれた扉の中へ一歩足を踏み入れると、そこには優しそうな老夫婦が椅子に腰かけていた。

「……君がマルグレットだね?」
「は、はい。その……このような出で立ちで、誠に申し訳ございません。故あってこのような――」
「怪我のことは聞いています。……大変でしたね。数年前に事故に遭われたとか」

 震える謝罪をしようとした私を、優しい女性の声が遮ってきた。
 ちらりと視線をあげると、公爵の傍らに座る老婦人がニコニコと微笑んでいる。

「……申し訳、ありません」
「何を謝ることがあるものですか。あなたは事故の被害者なのですから……それに、マグメル男爵令嬢は勤勉な孝行者であると聞きました。なんでも、おばあさまのお世話をずっとなさっていたとか」

 上品な口調の公爵夫人は、笑みを崩すことなく私に話しかけてくれる。
 祖母の名前が挙がったことで、私はようやく息を吐くことができた。

「あなたの祖母――先代のマグメル男爵夫人は、王宮に仕えていた才女でした。その指輪……覚えているわ。森の賢者であるリーファーンに貰った、魔法の指輪……」
「え、えぇと……祖母のことをご存じなのですか?」
「えぇ。私は王妃様のもとで行儀見習いをしていて、マグメル男爵夫人は賢者リーファーンと共に王妃様の家庭教師をされていました」

 祖母の若い頃の話など、ほとんど聞いたことがなかった。
 それに、今名前が出たリーファーン――森の賢者と名高い老魔女は、かつて祖母に指輪を送るほど親しい友人であったのだという。

「男爵夫人は頭のいい女性でした。行儀見習いをしていた頃の私はまだ子どもでしたが、いかにも清楚な教師というか……歴史に教養深く、また数学にも秀でていた――あなたの佇まいも、マグメル男爵夫人の若い頃そっくり」

 懐かしいわ、と微笑む公爵夫人の前で、私は泣き出してしまいたい気持ちになっていた。
 久しぶりに大好きな祖母の話を聞き、胸がいっぱいになる。
 すると、公爵がコホンと小さく咳ばらいをした。好々爺然とした公爵の表情はどことなく曇っている。

「妻から君のことを聞いて、ぜひ愚息の妻にと思ったんだ。……その、情けない話なのだが、息子は今病を患っている。そのせいで屋敷に引きこもっている有様で……」
「病、ですか……」
「毒を盛られて、目を患ってしまったんだ。介助があれば歩くことはできるのだが、本人がそれをひどく嫌がっていて――王太子殿下から出仕の要請があるというのに、それすらも無視している」

 カグリアーノ公爵家の嫡男が情けない、と頭を抱えた公爵は、あろうことか私に向かって頭を下げてきた。

「恥を承知で頼む。君にモーリスの……心を癒してほしいんだ。一人息子ということもあって、なにかとアレを甘やかしてしまったが――さすがにこのままでは、貴族としての責務を果たすこともできん」
「あ、頭を上げてください!」

 王家の遠戚でもあるカグリアーノ公爵に頭を下げられ、私は思わず声を上げた。

「わ、私でよければ喜んで――その、ですが……私はこのような見目をしておりますので、ご期待に添えられるかどうかはわかりません」

 なので、妻ではなく――本当に使用人のように、彼に接した方がいいかもしれない。
 王太子殿下からの要請を断り続けるほどに深い心の傷を負っているのならば、きっと私のような人間には近づかれたくもないはずだ。

「その――もしも、モーリス様がどうしても私を妻として迎え入れることができないと仰った際は……どうか、離縁のお許しをいただけませんか。お体を患ったモーリス様のお心まで苛むようなことはないように……」

 そう言って公爵夫妻の前を辞した私は、そのままモーリス様が寝起きをしている離れに案内された。
 離れと言っても、それだけで私が暮らしていた男爵邸よりずっと大きなお屋敷だ。本邸の傍らにある離れへとやってきた私は、思わずその荘厳さにため息を吐いた。

(同じ貴族でも、ここまで違うのね……)

 片や斜陽の貧乏男爵家、片や押しも押されもせぬ名門公爵家なのだから、何もかも違うというのは予想していたが――ここに義母がいたら、調度品の一つでもくすねて帰ろうと言い出しかねない。

「奥様――坊ちゃまはこちらです。すでに大旦那様から、このご結婚についてのお話はされているのですが……」
「わかりました。それでは、ここからは私が――あなたはもう下がってください」
「……大丈夫ですか?」
「おそらくは」

 なにを言われても、どんなにひどい仕打ちを受けても、顔に熱湯をかけられるよりはマシだろう。
 食事を床にぶちまけられて、大切なドレスを暖炉に突っ込まれるよりは――あるいは父の遺した書物を、冬の薪と共にくべられるよりはずっといいはず。
 奥にあるモーリス様の部屋へ向かった私は、そっと扉をノックした。

「……モーリス様」

 予想通り、返事はなかった。
 人の気配はあって、なにかが動くような音も聞こえてくる。
 だが返事はない――なので私は、もう一度声を張り上げて夫の名前を呼んだ。

「マルグレットと申します。本日より、モーリス様のお世話をするためにこちらへ参りました」

 名を名乗ると、また扉の向こうで何かが動く気配がする。
 しばらくそのまま待っていると、やがて扉の奥からガタンッと大きな声が聞こえてきた。

「モ、モーリス様!?」

 重たく硬い、なにかが倒れる音――それに驚いて扉を開けると、部屋の中で一人の男性が倒れていた。
 恐らく、彼がモーリス様なのだろう。まばゆい金髪を床に散らして、彼はうつぶせで倒れていた。

「モーリス様! お、お怪我は――」
「……別に、これくらいは……っ、私に触れるな……!」

 倒れたモーリス様に手を伸ばすと、鋭い痛みと共にパンッと乾いた音が響き渡る。
 ……毒を盛られたという話を聞いた時から、こうなることは予想ができていた。

「お前が……父上が言っていた女か。マグメル男爵令嬢……」
「そ、そうです。その――形式的には妻という形になりますが、私は……」
「必要ない。お前もじきに、私を疎ましく思うはずだ。今度は私の食事に、致死量の毒でも混ぜてよこすのか?」

 苦々しいその口調と共に顔を上げたモーリス様は、やや戸惑うように首を振ってから私の方を見た。

「ここはカグリアーノ公爵邸です。モーリス様に毒を盛ろうとする人間など、一人もおりません」
「それならば、私が死ねばお前が犯人ということだな。まったく――父上も母上もどうかしている。あれほど放っておいてくれと言っているのに……!」
「きゃ……!」

 声を張り上げたモーリス様が伸ばした手が、勢い良く体にぶつかってくる。
 存外と強い力に体勢を崩した私がその場に膝をつくと、彼はハッとしたようにきょろきょろと首を動かした。

「あ――いや、違う……すまない。突き飛ばすつもりじゃなかったんだ……!」
「……わかっております。突然のことで、モーリス様にはご心配をかけてしまいましたね」

 なるべく彼を不安にさせないように、声を押さえ、ゆっくりと話しかける。
 そう――私が知っている限りでは、カグリアーノ公子は非常に思慮深く示唆に富んだ人となりをしているらしい。
 こうして不安定になってしまっているのは、ひとえに疑心暗鬼と現状の不安によるものなのだろう。

「おそばにおります。不愉快でしたら、離縁をしていただいても構いませんが――少しの間だけ、モーリス様にお仕えすることをお許しください」

 ……触れても、気持ち悪がられないだろうか。
 相手の目が見えていないのをいいことに、私はそっと彼の手を取った。一度大きくその肩が跳ねたが、今度は手を跳ねのけられることもない。

「……マルグレット」
「はい」
「どうか誓ってくれ。誓って、私を裏切らない……頼む。そうでなければ、私は――」

 かすかに震える声で呟いたモーリス様に、そっと頷く。
 だがそれだけでは、視力を失った彼に私の意図が伝わることはないだろう。

「誓います。決して、モーリス様を傷つけたり、裏切ったりすることはありません」

 そっと耳元で囁くと、明らかにモーリス様の体から力が抜ける。
 そうして私は、彼の世話係――もとい妻として、カグリアーノ公爵家で暮らすことになった。
「マルグレット……マルグレット、どこにいるんだ?」

 寝台の上から、モーリス様が呼んでいる。
 部屋の花瓶に花を活けていた私は、すぐさま彼の傍らに座って声をかけた。

「はい――こちらにおりますよ。いかがなさいましたか?」
「君の気配がなかったから、探していたんだ。できるだけ私のそばにいてくれ」

 公爵家に嫁いで数日が経つと、私はすっかりこの屋敷のことに詳しくなっていた。
 モーリス様は決められた使用人しかそばに置きたがらなかったため、屋敷のことはおのずと自分で何とかしなければならなくなる。
 それでもその数少ない使用人は皆優しくて、ヴェールに覆われた私の姿を揶揄することもなく、問題の少ない毎日を送ることができていた。
 ――そんな日々の中で唯一の問題といえば、やはりモーリス様のことだろうか。

「どこか痛いところはありませんか? 苦しいところは?」
「ない……目以外はすべて問題ないんだ。私は健康で、まだ老いてすらいない……それなのに、目だけが見えない――」

 塞ぎこんだモーリス様は、一日のほとんどを自室で過ごしている。
 彼は精神的に非常に不安定で、こうして私のそばにべったりとくっついて離れない時もあれば、声を荒げて部屋から出て行ってくれと泣き叫ぶ日もあった。
 無理もないことだ。これまで見えていたものを見ることができず、少し動くと物にぶつかったり、足を絡ませて転げまわることになる。
 これまでモーリス様は大きな病気などもしたことがないと言っていたから、余計に体の自由が利かないことが苦痛なのだろう。

「マルグレット……いやだ、私はこのまま――このまま屋敷の中で、一人きりで死んでいくしかないのか?」
「私がおそばにおります。それに、王太子殿下から出仕の要請もあるのではありませんか?」
「殿下にこのような、惨めな姿をお見せするわけにはいかない。あの方は私を信頼してくださっているんだ……それなのに、私は――」

 ひゅ、とモーリス様の喉が鳴ると、彼はまた頭を抱えて叫び出した。
 耐えがたい孤独と恐怖に、何日かに一度はこうして感情を爆発させることがある。

「マルグレット! お前もどうせ、そのうち私のもとからいなくなる! ブリーデルも、カロンも、リトヴァーンもそうだった! 友人だと思っていたのに!」
「モーリス様! モーリス様、どうか落ち着いて……!」

 ブリーデル様、カロン様、リトヴァーン様は、それぞれモーリス様の幼いころからの親友だという。
 彼らは皆爵位を持つ貴族で、カグリアーノ公爵家とも親交が深い。それが、彼が目を患ってからは一度も見舞いに来ず――それどころか、侯爵家出身のリトヴァーン様はモーリス様から婚約者すら奪っていったのだという。

「そばにおります。モーリス様……大丈夫、私もうどこにも、帰る場所なんてありませんもの」

 癇癪を起こして、酷い呼吸困難を起こしてはいけない。
 そっとモーリス様に寄り添った私は、ゆっくりとその背中を擦ってみた。すると、少しずつ彼の様子も落ち着いてくる。

「マルグレット……すまない、私はまた……君を傷つけるようなことを――」
「ご不安な気持ちは、十分に理解できます。私だって、明日目が見えなくなればモーリス様と同じようになるでしょう」

 そう――本来は、このように声を荒げる方ではない。
 本来のモーリス・カグリアーノという人は、使用人にすらねぎらいの声をかける温和で優しい人なのだという。
 この屋敷に仕えている人々も、彼の変容に驚きながら、それでいて誰もが彼を疎んでなどいなかった。

「なぁ、マルグレット――抱きしめてもいいだろうか? 不安で、恐ろしくて、押しつぶされてしまいそうなんだ……」
「構いませんよ。どうぞ……私がどこにいるか、おわかりになりますか?」

 優しく声をかけると、そっとモーリス様の手が腕に触れる。
 探るように触れた指先は小刻みに震えていて、彼の不安を色濃く映し出していた。

「ここだ……ここにいる。あぁ、マルグレット――」
「ん、っ……」

 きつく体を抱き寄せられて、そっと唇を重ねあった。
 熱を探るようなくちづけはくすぐったく、やがて深いものへと変わっていく。

「んぁ、っ♡ふ……♡♡んん、ぅ♡ちゅ♡♡」

 かすかに唇を開くと、そこからモーリス様の舌先が潜り込んできた。
 ……こうして、私たちは時折慰めあうように体を重ねる。いや、頻度としてはほとんど毎日――最初は痛くて怖かったが、徐々にその行為にも快感を覚えるようになってきた。

「っ、ふ♡♡ぁ――モ、モーリスさま……♡♡」

 ぬちゅ♡ぷちゅっ♡♡ちゅぱ♡ちゅ♡♡れるぅ……♡♡♡
 絡ませあっていた舌が一度離れると、モーリス様は丹念に口蓋を舐めてくる。するとゾクゾクとした震えが全身に走って、体からすっかり力が抜けてしまった。

「ふぁ、っ♡♡ん゛♡んむっ……♡♡」

 探るように、あるいは確かめるように。懇ろで執拗なくちづけが繰り返されると、頭の奥がじぃんと痺れて何も考えられなくなる。
 目が見えていない分、モーリス様は手探りで私の体に触れてきた。
 二の腕にそっと触れ、そこからやんわりと胸元に手が伸びる――もう片方の手は、ペタペタと私の頬に触れていた。

「今日はヴェールをつけていないんだな……よかった。私はアレが嫌いなんだ」
「そう、なのですか?」
「私とマルグレットを隔てているものは、なんだって嫌いだ。……目が見えていたら、ちゃんと君の顔を見て抱くことができるのに」

 苦々しげに呟いたモーリス様だったが、私は彼の目が見えないこの状況こそが救いだった。
 きっと――きっと、醜く爛れた私の顔を見たら、彼だって眉を顰めるだろう。

「……あまり、顔に触れるのは」
「痛むのかい?」
「いえ――その、感触がいいものではないでしょう。皮膚が引きつっていて、その……」

 かろうじて両目の視力は無事だったものの、瞼から頬のあたりにかけては火傷の痕が広がっている。皺がよれて、触れるにしても面白いものではない。そう言うと、モーリス様はゆっくりと首を横に振った。

「私は、この指先でしか君を感じられない。声が聞こえる方向が分かっても、実際に触れていないと不安になる」

 そう言うと、彼は再び火傷の痕に触れた。もう痛みはないが、皮膚が薄くなっているためそこだけ感覚が過敏になってしまう。

「ッひ、……♡」
「口を開けて。君は私が見えているのだから、君の方から触れてくれないと……寂しくて、気が触れてしまいそうになる」
「は、はい……♡♡」

 ごく、と咥内に溜まった唾液を飲み込んで、自分からモーリス様に抱きついた。目の見えない彼は、褥でもあまり激しく動くことはできない。そのため、拙くはあるが私の方から動くことが多かった。

「んぁ♡ぁ、っ……♡♡モーリス、さま♡んんっ……♡♡」

 ちゅ♡ちゅっ♡♡と唇を押し付けあいながら、ベッドの中でお互いの体温を確かめる。
 こうしていると、自分が人並みに他人に愛されているのだと錯覚する。
 こうして彼に触れられているのは、ひとえにモーリス様の目が見えていないからだ。彼が他の人と同じく目が見えていたら、きっとこのようなことをしたいとは思わないだろう。

「ふ、ぅっ♡んっ……♡♡」

 探るように舌と舌を絡ませるだけで、体から力が抜けていく。
 モーリス様は目が見えない分、確かめるように私に触れてきた。歯列をなぞった舌先が続いて咥内をまさぐると、その甘い刺激に自然と肩が震えてしまう。

「ぁむ♡ん、っ……♡ちゅ♡ちゅ、ぅっ♡♡♡」
「ん――マルグレット。逃げちゃだめだ……どうか私の手が届く範囲にいて」

 低くも優しい声で縋るようにそう言われては、彼と距離を取ることもできない――いや、元々そんなつもりもなかった。

「は、はい……ぁ、んっ♡♡逃げません……♡ここ、に――ちゃんと、モーリス様のおそばに控えております……」

 はふ、と吐き出す息が、どうしようもないくらいに熱い。
 モーリス様はぺたぺたと私の二の腕に触れると、やや首を傾げて口角を吊り上げた。

「ドレスが邪魔だな。この布一枚が、私と君が一つになる邪魔をする」
「う……そ、それでは、少しお待ちください……」

 まるでヴェールと同じように邪魔だと言ってのけたモーリス様に、そっと頷く。見えていないとわかっているが、彼は私のかすかな動きを声で察知していた。元々そういう勘はとても鋭い人なのだろう。
 ゆっくりと頷いた私は、自らの着衣に手をかけて、一枚ずつそれを脱ぎ捨てていった。衣擦れの音だけが部屋の中に響くのは恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだったが、モーリス様は落ち着いた表情で服を脱ぎ終わるその時を待ってくれる。

「マルグレット、君は今どんなドレスを着ていたんだい?」
「え、えぇと――青い、簡単なつくりのドレスです」
「そう……残念だな。私の目が見えていたら、君に似合うドレスを選んでやることができるのに」

 やや気持ちが落ち着いてきたのか、その口調は至極落ち着いていた。
 動きやすいようにあまり華美なドレスは着られないが、それでも実家にいた頃よりは随分と上等なものを着せてもらっている――実家から持ってきたものはどれもほつれや擦り切れがひどくて、それを見た使用人が大奥様に直談判をしてくれたほどだった。

「君の髪は、きっとなめらかで美しいのだろう。触れるだけでも甘い香りがして、とても好きなんだが……本当に、私は自分の身の上を呪うしかない」
「そのようなことを仰らないでください。……さほど珍しい髪の色をしているわけでもありません」

 よくある栗色の髪は、彼の金髪のように艶やかで美しくもない。痛んでいるわけではないがやや乾燥している気もする。

「……マルグレット。こちらへ――服はすべて脱いだね?」
「は、はい……下着、も、すべて……」

 自分から着衣を脱ぎ捨てるのは恥ずかしかったが、モーリス様に脱がせてもらうことはできないのでそうするしかない。
 言われた通りすべてを脱ぎ捨て、全裸になった私は、そっと手を広げる夫の腕の中へと飛び込んだ。

「じゃあ今度は、今度は私の服も脱がせてもらおうかな」
「かしこまりました――それでは、失礼します」

 震える指先で、シャツのボタンを外す。
 そこから現れる肌は陶器のように美しかったが、しばらく外に出ていないために病的なまでの白さを宿している。
 筋肉も少し落ちているとのことだったが、それでも肉体は彫刻のように均整がとれて美しさを保っていた。

「――シャツを脱がせますね」
「うん。……下の方もお願い。君とキスをしたら、どんどん苦しくなってきてしまって」

 熱を孕んだ吐息が首筋にかかって、肩が震える。
 視線を下に落とすと、張りつめたものが目に入った。窮屈そうに布地を押し上げているそれにそっと指を這わせてからベルトに手をかけると、モーリス様は悩ましげに息を吐いた。

「ん、っ……♡は、マルグレット――脱がせたら、一度触って……」
「は、はい……」

 掠れた声に命じられると、頭がぼんやりとしてしまう。
 言われるがままにベルトを外し、下履きを脱がせた私は、すでに屹立していたモーリス様のおちんぽにゆっくりと触れていった。
 円を描くように亀頭を指で撫で、鈴口を刺激する。同時にもう片方の手で付け根から雁首までを扱き上げると、美しい体がびくんっ♡と跳ねた。

「ぁ゛、ッ――」
「申し訳ありません、痛かったですか……?」
「いや――平気だ。ただ、君が触れたのが分かったから……もっと触って。もう少しくらい力を入れても平気だから」

 そう言われたので、少しだけ指先に力を込めた。
 右手でゆるゆると先端を刺激しつつ、左手はほんの少しだけ力を入れて扱き上げる――そうすると、みるみるうちにおちんぽが質量を増していくのが分かった。

(相変わらず大きい、し……すっごく熱い……♡)

 美しい顔立ちに似合わず、反り立った肉茎はとても雄々しい。男性の性器なんて見たことはなかったけれど、きっと彼のおちんぽは――他人と比較してもかなり大きいのではないだろうか。

「ん♡♡モーリスさま……♡おちんぽどんどん大きくなってきましたね……♡♡血管がビキビキッて浮いて――とっても苦しそう……♡♡」

 ほぅ、と息を吐くと、欲しがりな体が熱く疼き始める。
 最初はただただ痛いばかりだったこの行為も、この数日ですっかりと慣れてしまっていた。

「ん、苦しい、か……確かに――心臓が鷲掴みにされているみたいに苦しいな。マルグレット――君のその小さな口で、私のものを慰めてくれるね?」
「はい……ん、ふっ♡♡ん゛ぢゅ、ぅっ♡」

 柔らかく頭を撫でられる心地よさに背を押されて、私はそっと赤黒い亀頭に唇を押し付けた。嫌悪感はない。ただ、先走りと共に舌の上に乗る苦みは、やはり慣れないものだった。

「んふ、ぅっ♡ちゅ♡ちゅぱっ……♡♡ふ、ぁ♡」

 ちゅぱ♡ちゅぱ♡♡ぢゅるるるっ♡ぢぅうっ♡ちゅ♡♡♡ぢゅぽ♡ぢゅぽ♡♡
 最初は軽く先端を吸い上げて、舌でその場所を刺激する。唾液を絡ませながら雁首まで咥えこむと、私の体も大きく震えあがった。

「ん゛♡ん゛~~~♡♡♡んちゅ、ぅっ♡ちゅぱ♡♡ぢぅううっ……♡♡ふ、ぁ♡モーリス、ひゃま……♡♡」

 れろ♡れろ♡♡と舌で愛撫を加えていると、足の間が熱く潤んでくる。
 かすかに疼くその場所に片手で触れてみると、ぬるっ……♡と蕩けた愛蜜が指先に触れる。

「んふ、ぅっ♡ん゛ぅ♡♡れろ♡れろぉ……♡♡ん♡んっ♡♡」

 裏筋も丹念に舐め、口腔奉仕を繰り返しながら自分のおまんこに触る――ヒクヒクと物欲しそうに蠕動を繰り返すその場所に指を這わせると、ぬちぬちっ♡と卑猥な音が聞こえてきて鼓膜を揺らした。

「ん……? マルグレット、もしかして自分で触ってる?」
「んぐ、っ♡ふぁ♡はい……♡♡すぐ、に♡モーリス様のおちんぽ……挿入れていただけるように、いたしますから……♡♡」

 ぐちゅ♡ぐちゅ♡♡と音を立てながら指先で膣肉を引っ掻き、その刺激でまた奥から蜜が溢れてくる。
 当然のことながら、モーリス様が自分で挿入を行うのは難しい。入れやすいように膣内をよくほぐして、それから私がうまく動かなければならない。
 蜜をまぶして蕩けた蜜口を更にぬちぬちと擦り上げ、悦いところを自分で見つけ出す。最初はこの行為にも抵抗があったが、次第に慣れてきてしまっている自分がいた。

「マルグレット……それなら、君が上になって動いてくれる? そうしてくれたら、私は声で君が何をしているのかを知ることができるから」

 そう言って、モーリス様は寝台の上に仰向けで横になった。
 ――自分から殿方の上に乗って腰を振るなんて、普通ならば考えられない行為だ。けれど、ことモーリス様に対してはそんなことも言っていられない。
 おずおずと彼の体に跨った私は、とろりと涎をこぼす蜜口を切っ先にそっと宛がった。

「は♡ぁ、あっ……♡♡んぁ、っ……♡♡モーリス、さま……♡♡」
「あぁ――ここに君がいるのがわかるよ。そのままゆっくり、腰を下ろしてみて」

 モーリス様の手が伸びてきて、やんわりと乳房を包む。
 長い指が柔肉に沈むのと同時に、私は腰を下へと下ろした。

「ん゛、ぁっ♡ぉ゛、ッ……♡♡」

 ぐぢゅ♡ぬ゛ぷっ♡♡ぐぷぷっ……♡♡ぬ゛ちゅ♡ぐ、っぷんっ♡♡♡
 一度腰を落とすと、後は容易い。自重に従っておまんこがモーリス様のおちんぽを咥えこみ――頭の中を白い稲妻のようなものが駆け抜けていく。

「ぁ゛、あんっ♡や、おく、ぅっ♡♡♡ん♡一気にキたぁっ……♡♡♡」

 太い肉幹が隘路をめいっぱい押し開いて、開いた雁首が媚肉を削るように奥へと進んでいく。
 それだけでもおかしくなってしまいそうなくらい気持ちよかったが、更に子宮口を切っ先でぐりぐりと刺激されると、もう何も考えられなくなってしまった。

「ぐ、っ……♡ふふ、奥まですぐに届いた――君のナカは狭いから、すぐに私でいっぱいになってしまうね……♡」

 み゛ぢっ……♡♡と膣窟いっぱいを埋め尽くすおちんぽは、軽く腰を揺さぶっただけで絶大なまでの快感を与えてくる。
 モーリス様はやわやわと乳房を揉みしだきながら、その中心で尖った乳首を指先で捏ねまわし始めた。

「んゃ、っ……♡♡い、いっしょはだめっ……♡♡」
「どうして? こうやって腰を――ゆっくりグラインドさせながら、柔らかな君の胸を念入りに弄ってあげると……♡いじらしくおまんこを締め付けてくる、っ♡君の慎ましい性格は嫌いじゃないけど、こういう時くらいは存分に欲しがってもらわないと……」

 カリッ♡カリッ♡と乳首を爪で引っかかれ、ゆっくりとおちんぽの形を覚え込ませるかのような動きで腰を動かされる。
 緩慢かつ決定打にならない刺激を与えられ続け、体中がじっとりと汗をかき始めた。
 お互いの体液がまじりあった結合部からはぢゅぽ♡ぢゅぽ♡と卑猥な音が響いている。

「マルグレット、そろそろ自分で動いてごらん……♡もう自分が悦いところはよくわかっているんだろう?」
「んぅっ♡は……はい、っ♡♡う♡うごき、ますぅっ……♡♡マルグレット、の♡マリーのおまんこの一番気持ちいいところ、でぇ……♡おまんこご奉仕させていただきますぅっ……♡♡」

 震える体を叱咤して、ゆっくりと腰を持ち上げる――そうすると、おちんぽに絡みついていた肉襞が名残惜しげに引っ張られた。

「ぉ゛、お゛ッ……♡♡」
「くぅ、っ……すごいな――今どんな風になっているか、自分で説明できるかい?」
「ふぁ、ぁっ♡♡マリィ、のっ♡マリーのおまんこ肉が♡♡♡モーリス様のおちんぽに絡みついて♡ぉ゛♡お゛、ッォ♡♡♡腰♡上げて♡下ろして♡杭打ちピストンするたび、にぃ♡♡気持ちいとこ♡ごりゅごりゅってされてまひゅぅ……♡♡♡」

 ガクガクガクッ♡と大げさに震える腰を持ち上げ、そのまま全身から脱力して腰を打ち付ける。
 ばぢゅっ♡ばぢゅんっ♡♡と重たい音を立てて抽送を繰り返すたびに、上下に胸がたわみ、あふれてきた涙で視界が滲んだ。

「ん゛♡んぅっ♡ぉ゛、ッ……♡♡」

 更に私は、上下だけではなく前後にも腰を揺さぶった。
 上下運動を繰り返すだけでは一番悦いところにカリが掠めるだけだが、そうすることで的確に気持ちいいところを刺激してもらうことができる。

「ここかな? 奥の方、ちょっと押し込んであげるとよく締まるね……♡♡まんこぎゅうぎゅう締め付けて、私にここが悦いって教えてくれてるみたいだ」

 ぱんっ♡ぱんっ♡♡と音を立てながら腰を打ち付ける私に、モーリス様は低く笑い――ツンと尖って主張をしていた乳首を、的確に指先で弾き始めた。

「ん゛、ぉお゛ッ!? や♡ま♡待って、ぇっ♡♡あっ♡あんっ♡や、ぁあっ♡♡♡」
「もっと君の甘くさえずる声を聞かせて――顔が見えないのだから、せめて声だけでも、存分に聞かせてもらわないと」
「え――あ、っ♡♡ぅんっ♡あ♡あっ♡♡♡ぁあっ♡♡♡」

 ばぢゅっ♡♡ばぢゅっ♡♡ぐぷっ♡ぬ゛ぷっ♡ぬ゛ぷっ♡ぬ゛ぷっ♡♡♡
 声を出してしまったタイミングで下から思い切り突き上げられて、押し出されるような悲鳴が上がる。
 力強く膣奥をノックされるだけでも感じてしまうのに、更に乳首を弾かれて体の痙攣が止まらなかった。

「ひ、ぁ゛ッ♡♡だめ♡コレ、ッ……♡♡だめ♡だめです、ぅっ♡あ♡ぁんっ♡♡あ♡ぁっ♡♡イっちゃ、ぁっ♡♡んぅっ♡ぅっ♡♡や、ぁんっ♡♡♡」

 肉と肉がぶつかり合う乾いた音と、体液が絡みあう水音が一緒に聞こえてくる。
 私はもう訳が分からなくなって、自分で腰を振りながらモーリス様の手を掴んで胸元をまさぐっていた。

「ん――もうイってしまうの? いいよ……♡私も君の中に、すべて注いであげるから――」
「ん゛、ぃっ♡♡♡」

 ばぢゅっ♡ぐぷんっ♡♡と濡れて重たい音を立てて、おちんぽが最奥の気持ちいいところを突き上げてくる。
 小刻みに腰を上下させた私は、ひたすら快楽だけを追っていた。

「んゃ、ぁ♡ぁ゛♡イ、っくぅ……♡♡♡」

 やがて、蓄積した快感が一気に爆ぜる――びくびくと体を震わせる私の膣内にも勢いよく精液が吐き出され、波状の愉悦が次から次へと体に襲い掛かってきた。

「ふ、ぁっ♡♡ぁ゛♡ン、っ~~~♡♡♡」

 びゅくっ♡びゅくっ♡♡と流し込まれる精液の感覚に、くらくらと眩暈がする。力なく体を傾けた私は、そのまま寝台の上に崩れ落ちた。
 ぽすんと音を立ててしまったのが悪かったのか、モーリス様がどこか心配そうに私の顔を覗き込む――いや、覗き込むような仕草をする。

「――マルグレット? 眠ってしまったの?」
「い、いえ……まだ、起きております……」
「そう――なら、できるだけこちらへ。頼む……頼むから、私のそばから離れないでいて……」

 情事を終えると、彼はより不安定になった。
 子どものように私に縋り、体温を分け合うように抱きついてくる。
 およそ健全な夫婦関係とは言えない――それはわかっているのに、私はどこかこの時間を愛しいとさえ思い始めていた。

(このまま、モーリス様の視力が元に戻らなかったら……)

 そうしたら、彼はずっと私のことを妻としてそばに置いてくれるのだろうか。
 そんな浅ましいことを考えてしまう自分が嫌で、きゅっと唇を噛んだ。

「……離れません。おそばにおりますよ、モーリス様」

 顔だけではなく、心まで醜いのか。
 重たくのしかかってくるそんな言葉を振り払うように、私はそっと彼の背中に腕を回したのだった。

● ● ●

「もし、そこのお嬢さん」

 ――カグリアーノ公爵家に嫁いで、およそ一年がたった。
 私は相変わらず、モーリス様と共に邸宅の離れで暮らしている。
 最初はかなり不安定だった夫の精神状態も、ここ最近はかなり改善していた――そんな折、ある老婦人が屋敷にやってきたのだった。

「は、はい……おばあさん、どうなさったんですか?」
「カグリアーノ公爵夫人に会いに来たんだが、道に迷ってしもうてな。年のせいで足も弱って、あちこち探すこともできなんだ。すまないが、公爵のもとまで連れて行ってはくれんかね」

 腰を曲げ、ニコニコと笑う優しそうな老婦人は、元々公爵夫人……つまり義母の知り合いなのだという。
 邸宅の敷地は広いし、似たような部屋が多い。足を悪くしているというのなら、少し近道をした方がいいかもしれない。

「お義母様のお知り合いの方だったのですね。では、こちらへどうぞ――階段がありますので、手を……あっ……」

 そこまで言って、思わず手を引っ込めてしまった。
 この屋敷に来てからは、皆が私に優しく接してくれていた。だから、忘れてしまっていたのだ。不気味なヴェールを付けたこの姿を、気味が悪いと疎む人間がいることを。

「おや、手を引いて行ってくれるのかい? じゃあそうしようかね」

 だが、そのおばあさんは特に気にした風もなく、すっと手を差し出してきた。

「え――えぇと、よろしいのですか? その……気味が、悪くはありませんか」
「……その顔の傷のことかい? 若いお嬢さんにゃ酷だとは思うが、なに見てくれの美しさなんぞ、年取ったらどれも似たようなもんさ。さぁ、案内を頼むよ」
「は、はい……」

 そう言われて、老婦人の手を取って義母のもとへと向かう。
 ここしばらくはモーリス様の調子も落ち着いていて、私も屋敷内を見て回ることが増えた。

「……時にお嬢さん、その指輪は随分古いものじゃないかい? まさか、ここの息子にそんな古臭い指輪を贈られたのか」
「い、いいえ――これは亡くなった祖母の遺品なんです。お守りのようなもので、肌身離さず持ち歩いているんです」
「ほぅ、遺品の指輪ねぇ……」

 随分と物持ちがいいもんだ、と呟いた老婦人は、それきり指輪の話題を振ってくることはなかった。
 そうして義母がいる部屋へ到着すると、おばあさんは一つ咳払いをして扉をノックする。

「あたしだよ! メールヒェンの小娘……いや、今はカグリアーノ公爵夫人と呼んだ方がいいかい?」
「……は」

 隣に立っていたおばあさんの声が、若返った。
 何事かと思って横を振り向くと、先ほどまでそこに立っていたはずの腰の曲がった老婦人はどこにもいない。
 その代わり、黒いドレスに身を包んだ、グラマラスで妖艶な女性が立っていた。

「は――」
「あらあら、リーファーン! 来てくださったのね……あら、マルグレットと一緒だったの?」
「道に迷ったところを助けてもらったのさ。あの指輪、コレがマグメル男爵夫人の孫娘だろう」

 ニィ、と唇を吊り上げたその女性は、床に届きそうなほど伸ばした艶やかな黒髪を揺らしながらこちらを見つめてくる。
 ……さっきのお婆さんが、この人に変わったのだろうか。姿を自在に変化させられるなんて、そんなことができる人間はこの国でもごく少数に限られている。

「なるほど、顔は――元々あの女によく似てる。その顔は……ただの火傷だな。呪いかと思ったが、滴るほどの悪意は感じても魔力はこめられてない」
「は、はぇ……」
「だが、古い傷跡だな。治すのは手間だぞ」
「……は、あなたは……」

 阿呆のように口を開いて、それがまるでふさがらない。
 ひたすら呆然とする私を見て、義母はクスクスと笑いながらその女性を窘めた。

「ちょっと、リーファーン。私の可愛い娘が驚いているじゃない」
「ふん、ちょっとからかっただけじゃないか。だが――あぁ、自己紹介くらいはするべきか」

 ニヤッと笑ったその人は、腰に手を当てるとクッと顎を上げて笑みを浮かべる。
 その振る舞いは、まるで夜の女王だ。星空を縫い込んだドレスと艶やかな黒髪に、肌だけが白く浮き上がっている。

「あたしはリーファーン。魔女とか賢者って呼ぶ人間もいるが、魔女にだって個体ってもんがある。それにリーファーンって名前が好きだから、そう呼んどくれ」
「は、えぇと……リーファーンさま……」
「あぁ、いいね。敬称付きってのが偉ぶってるみたいでいい。ボンクラ国王もウスノロ王太子も、誰もあたしを敬っちゃくれない! それに比べてアンタ、気に入ったよ。あのマグメル男爵夫人の孫ってのもいい。若い頃のあの女に顔がそっくりだ」

 早口でまくし立ててくるリーファーン様に、私はただ圧倒されるばかりだった。
 どうやらおばあさまのことも知っているみたいだし――そもそもこの国において魔女を名乗ることができるのは、国王陛下から許された者だけ。
 もしかして、目の前にいる女性はとんでもない人なのではないだろうか。

「そう、あの甘ったれ王太子。アイツに是非と頼まれてきたんだよ。カグリアーノ公爵夫人、アンタに送った手紙にも書いたが……アンタの息子、目を患ってるんだって」
「患っているというか――そうね。一年と少し前に視力を失ったわ。どうやら、毒にあてられたみたいで」
「……毒、ねぇ。うん、なるほど――その目を治してやってほしいってことだったんだが……なるほどなぁ」

 それまで快活に笑っていたリーファーン様は、その話を聞いた途端にそっと眉を寄せた。
 そうして少し考えるように黙り込んだ彼女は、やがてパッと顔を上げて私の方を見る。

「とりあえず、その息子の様子を見せてもらおうか。マルグレット、案内しておくれ」
「か、かしこまりました!」

 王族からの信頼も篤い、魔女リーファーン様――彼女ならば、もしかして本当にモーリス様の目を治せるかもしれない。
 離れまでリーファーン様を案内し、モーリス様が寝起きしている部屋まで連れて行くと、彼女は何かを察知したように何度も頷いていた。

「うんうん、なるほどねぇ……こりゃまたひどい魔術を使ったもんだ。むき出しの……隠すことすらしていない悪意と敵意――羨望と妬みを感じる」
「それは……」
「ごく近しい人物から毒を盛られたんじゃないか? 友人、婚約者、あるいはその両方――」

 難しい表情を浮かべたリーファーン様が、扉をぐっと開いた。
 部屋の中ではモーリス様が寝台に横たわっていたが、彼女は一切の遠慮をせずにずんずんとその中へ足を踏み入れる。

「……マルグレット? いや、違うな。足音がしない……そこにいるのは誰だ」
「魔女様だよ。王太子から、ぜひアンタを治してやってほしいっていう依頼を受けた。――ふん、ひどい有様じゃないか。友に妬まれ、婚約者を寝取られて、終いには毒を盛られた……アンタは驚くほど王太子とウマが合うだろう? あの男と同じ、仕事はできるが他人に厳しすぎるんだ――」

 ぺらぺらとまくしたてるリーファーン様に、モーリス様は見る見るうちに不機嫌になっていった。
 ただでさえここ一年は、私や屋敷の人間以外の人々とはほとんど接点がなかったのだ。少し色が白くなってしまった額に、青筋が浮かんでいるのが見えた。

「貴様! 黙っていればいい気になって――」
「喚くんじゃないよ、小僧。……見たところ、精神的にもかなり深手を負ってるね。毒を盛られて一年と聞いたが、よくも正気を保っていられるもんだ……あの娘に感謝しなよ」
「は、娘――マルグレットのこと、か……?」
「そうさ。盛られた毒に込められていたのは深い怨嗟と呪詛だ。その影響で心が壊れそうになったアンタのそばにいて、一年も尽くしてくれた女だよ。他人から受けたほんのささやかな愛を大切に抱えて、アンタのために寄り添ってくれた」

 リーファーン様はそう言い切ると、私の方をちらりと振り向いた。

「……アンタの目を治すことは、できないわけじゃない。特殊な魔法薬を使って治療することは可能だ。呪い返しの要領で、他人から向けられた悪意をそっくりそのまま跳ね返す」
「な、なんだと……? 私の目が、見えるようになるのか……?」
「もちろん。それが王太子からの依頼だからね――希少な魔法薬を使うから失敗は許されんが、このリーファーン様ならば確実に成功する」

 自信満々にそう言い切ったリーファーン様に、私は思わず彼女に駆け寄ってその足元に縋りついた。
 この一年、彼が苦しみ続けたものが綺麗にぬぐい取られる――そんなものは、最早奇跡としか言いようがない。

「ほ、本当ですか! リーファーン様……本当に、モーリス様の目は……!」
「あぁ、本当だとも。だが……心優しいマルグレット。あたしはアンタのその火傷の痕も治してやりたい。マグメル男爵夫人には随分と世話になったし、アンタの献身はそんじょそこらの人間が真似できるものじゃないからね」

 リーファーン様の口から、信じられないような言葉が紡ぎ出される。
 ……この醜い火傷の痕も、彼女の手にかかれば治るというのか。

「だが、あたしが今用意できる魔法薬は、この小瓶一つ分。なにせ百年に一度しか咲かない花の蜜が必要なんだ――治せるのは、アンタかモーリスのどちらかということになる」
「それならば、薬はマルグレットに! 彼女はこの一年、ずっと私のそばで奉仕をしてくれた――目も見えない、気も触れたかのように喚く私のことを、ずっと支えていてくれた」

 すぐさま声を張り上げたモーリス様が、リーファーン様の方に顔を向ける。
 光を失った目で必死に彼女を見つめようとする姿に、胸が苦しくなった。

「私はすでに、中央政界からは退いた。父や王太子殿下には悪いが――どうか、彼女の傷を癒してくれ。彼女を苦しめるすべてを、マルグレットから取り除いてやってくれないか」

 かすかに震える声で、モーリス様はリーファーン様へそう告げた。
 私は一瞬彼の言っていることが理解できなくて、少し遅れてから慌てて首を横に振る。
 ――救われるべきは、モーリス様の方だ。

「いいえ! ……その薬はモーリス様に使ってください。……私の傷は、死ぬほどにひどいものではありません。それに、この国にはモーリス様を必要となさっている方がたくさんいます」

 リーファーン様がここへやってきたのは、王太子殿下からの命令だという。
 殿下はモーリス様が必要だからそう命じたのだろう。私の傷跡などよりも、彼の視力を取り戻した方がよほどたくさんの人のためになる。
 ……その結果、私の姿にモーリス様が失望したとしても。

「……アンタたち、夫婦そろって頑固だねぇ。美しき夫婦愛ってやつかい? ふん、まぁ嫌いじゃない。それに――マルグレットの祖母には恩がある。……モーリス、耳を貸しな」
「は――な、なにをっ……」

 フンッと鼻を鳴らしたリーファーン様は、モーリス様の耳元で何かを囁いた。私には二人の会話は聞こえなかったが、なぜか彼の表情が少しずつ強張っていく。

「なっ――」
「いいね、うまくおやりよ。……さぁマルグレット、この薬をモーリスに飲ませてやりな」
「は、はいっ……!」

 リーファーン様は私に薬が入った小瓶を手渡すと、ひらりと手を振ってその場から消えてしまった。
 天才的な魔術に呆然とするのもつかの間、一刻も早くモーリス様に薬を飲ませなければならない。
 小瓶を持ってモーリス様のもとに近づいた私は、封を切ってからそれを彼の口元へと寄せた。

「さぁ、モーリス様。こちらを……リーファーン様が作ったお薬ならば、きっと目が見えるようになりますよ……!」
「あ、あぁ。だが――マルグレット……」

 口元を押さえたモーリス様が、なにか言いたげな表情を浮かべる。
 ……そうだ。きっと、目が見えるようになった彼は私を気味悪がるだろう。この家の人々は優しかったが、離縁を申し入れられることも覚悟はできていた。
 それでも、この一年間はとても幸せだったから。
 モーリス様が私を必要としてくれて、大変ではあったけれど至極人間らしい時間を過ごすことができた。

(これで離縁されたとしても――思い出だけで生きていけるくらいの幸せをいただいたわ)

 困惑気味のモーリス様の口元に、小瓶を押し当てる。
 最初は驚いたように肩を跳ねさせたモーリス様だったが、そっと瓶を傾けるとゆっくりと中身を嚥下した。

「ん――」

 何度か喉仏が上下して、やがて小瓶の中が空っぽになる。
 すると、モーリス様はぐっと呻いて目元を押さえた。

「く、ぅっ……」
「モーリス様? だ、大丈夫ですか……?」

 やや苦しげな様子が心配で声をかけると、彼はゆっくりと首を縦に振り――そうして顔を上げた。

「……マルグレット?」

 それまで、モーリス様の目は閉じられているか、伏せられていることが多かった。瞼が持ち上げられて、彼の目が――金髪の下に隠れていた赤銅の瞳が、まっすぐに私を捉える。

「ぅ……」
「君が、私の妻か。――あぁ、見える……! マルグレット!」

 パッと表情を輝かせたモーリス様が、同時に私の手を強く握ってきた。
 深い色合いが思慮深さを覗かせる瞳に見つめられて、思わず強く胸が締め付けられる――顔を見られたくないので視線を逸らすと、彼は視界を隔てる黒いヴェールにそっと手をかけた。

「や……」
「顔を見せて、マルグレット。ようやく私は、自分の妻の顔を知ることができるんだ……」
「い、いやです……あの、どうか――」

 私の顔といい体といい、あちこちが傷だらけなのを彼は知っている。目には見えていなくても、触れるだけでわかるはずだ。
 それでも――実際に目に見えるのとそうでないのとはわけが違う。
 見られたくない。心のどこかで、彼の目が見えないことに安堵していた私の――醜い心根までも、見透かされてしまうみたいだ。

「マルグレット。お願いだ……今まではこうして、触れて確かめるしかなかった。君の柔らかな髪も、細い指も――声で笑っているのがわかっても、私は君の笑顔を見たことがない」
「み、見ても……気分のいいものではありません。お願いです……や、ヴェール取らない、でぇ……」

 顔を何度も横に振り、手で顔を隠そうとしても、モーリス様は簡単に顔を覆う薄絹を除けてしまう。
 半泣きになりながらやめてほしいと伝えると、どうしてか彼は私の腕を引き、そのまま体を寝台へと押し倒した。

「は――」
「この傷は、君が心に負っている傷でもあるんだな。……体にも、たくさんの擦り傷や切り傷があっただろう」

 大きな、優しい手のひらが、そっと頬を撫でてくる。
 赤銅色の目は慈しむように私のことを見つめていて、それが余計に惨めな気持ちになった。
 ……私は、こんなに美しい人のそばにいたんだ。自らの不相応さに、ただただ胸が苦しくなる。

「安心して、マルグレット。……どうか、君の献身に報いさせてくれ」
「は――そ、れは……」
「あの魔女……リーファーンが言っていたんだ。先ほどの薬は、一日かけて私の体に馴染んでいく。そして――その、早急な処置をすれば、その効能を君に分けてあげることができるって」

 その言葉に、私は思わず首を傾げてしまった。
 魔術などという知の深淵について、私は完全に素人だ。どのような仕組みでどのような効果がもたらされるのかなど、全くわからない。

「早急な処置……?」
「だから、その――薬を飲んだ私が、君をこうして抱くと……君の傷を、癒すことができるとか」

 少し言いにくそうに眉をひそめたモーリス様だったが、その指先は的確に私のドレスを紐解いていく。
 胸元が徐々に外気へ晒されていく感覚に震えながら、私は信じられないと首を横に振った。

「そ、そのような効果が、本当に……?」
「私は魔術に関しては門外漢だ。ここは彼女の言葉を信じるしかない――それに」

 乾いた指先が、そっと首筋から鎖骨のあたりを撫でてくる。

「っ、ひ♡」
「ずっと知りたかった。私が触れた時、君はどんな顔をしているのか……どんな風に私を受け入れ、愛してくれているのかを」
「ん、やっ……ゃ、やめっ……♡♡」

 ちゅ♡と唇が鎖骨の上に落ちてきて、巧みな指先が簡単にドレスを脱がせていく。
 見られている――いつもならば感じないほどの羞恥が一気に襲い掛かってきて、私は両手で顔を隠しながらいやいやと首を横に振った。

「顔を見せて。マルグレット……今更何を隠す必要があるんだ」
「そ、れはっ……いやで、す……こんな、み、見ないで……」
「――強情だな。私は君の顔に惚れたわけではないんだが」

 どこか危うさを感じさせていた今までとは違い、ハキハキとして落ち着いた声音が鼓膜を揺らす。
 まるで別人のようなその声に、うまく抵抗できない。

「か、かお……見ないでください……傷が、あ、あって」
「初めて君に触れた時から知っていた。……こうして見ると、本当に痛々しい」

 引きつった皮膚を、モーリス様が優しく撫でてくる。
 嫌だ。こんなところを見せたくはない。大切な人だからこそ、ずっと隠し通しておきたかった。

「私が君を癒す。体に負った傷も、心を蝕む痛みも……君が私にそうしてくれたように」
「っひ、ぅ」

 すりすりと親指の腹で薄く引きつった火傷の痕を撫でられて、体からどんどん力が抜けていく。
 触れないでほしいのに、見ないでほしいのに、触れられるのが心地好い。

「やぁ、っ……♡ぅ、やめ、んっ♡♡む、ぅうっ♡♡」

 やめて、と声を上げる前に、唇を柔らかくついばまれる。
 すぐさま舌先が口の中に潜り込んできて、ねっとりと咥内の粘膜をなぞり上げてきた。

「んぐ、っ♡ん、ふぅっ……♡♡ちゅ、ぅ♡♡ん♡♡♡」

 舌と舌を押し付け、絡まりあって、唾液同士がぬちぬちと小さな音を立てる。
 その間にもモーリス様の指先はドレスを紐解いてきて、乳房からお腹にかけてがふるんっ……♡と完全に外気へ晒された。

「ゃ、んんっ♡♡ふぁ♡ん、ちゅ♡――や、やめ、モーリスさまっ……♡」
「薬が混ざった体液を、たくさん絡めて……君の体に作用させるようにしなければ――」

 そうしてまた、深いくちづけで言葉を封じられる。
 うねる舌先が口蓋と歯列を順番になぞり、どちらのものかもわからないほどに混ざった唾液を飲み下すと、お腹がどんどん熱くなってくる。

「んく、ぅ……♡♡は、んんっ♡ン♡ふぁ♡♡んっ♡♡♡」

 ちゅ♡ちゅぱ♡♡♡ぢゅるるっ♡ぢぅっ♡ちゅぅっ♡♡ぢゅ♡ちゅぽっ♡♡
 長いキスが終わるころには、私はすっかり全身から力が抜けて――ただモーリス様から与えられる快感に従うしかなくなっていた。
 一年。それだけの時間をかけてたっぷりと調教された私の体は、すでに彼から与えられる快楽に逆らうことなどできなくなっていたのだ。

「ぁ……♡♡ふ、ぅ……♡♡」

 くたりと脱力した体を寝台に預け、まとまらない思考で天井を見上げる。
 いやだ。醜い私を、彼にだけは見てほしくない。
 ようやくモーリス様の世界に光が戻ったのに、彼が見るべき輝かしい世界を、私などで汚してほしくはない。

「み、ないで……おねがい……」
「まだそんなことを言うの? ……残酷だな。この一年、どれだけ君に焦がれていたと思ってる」

 すっと目を細めたモーリス様が、ぺろりと上唇を舐めた。
 そうしてやや乱暴な手つきで、腰のあたりにまとわりついていたドレスを一気に引き下げる。

「ひっ、ぁ……♡♡」
「友人も、婚約者も、立場も名誉もなにもかも――すべてを失った私に、再び光を与えてくれたのは君だ。マルグレット……私は、君を醜いと思ったことなんて一度もない」
「ッん……♡♡」

 ちぅ、と軽く唇を重ねられ、片手で足の間をまさぐられる。
 指先が秘された場所を探り当てる頃には、すでにとろりとした蜜が溢れていた。

「ぅ、あっ♡やぁ、っ♡♡」
「どうか抵抗しないで。いつもみたいに私を受け入れてくれないか」

 甘く耳元で囁かれて、つい頷いてしまう。そんな自分の弱さがどうしようもなく嫌になる――ぬかるんだおまんこをぬるっ……♡となぞる指先に、理性がほろほろと崩れ落ちていった。

「ん、は……♡♡あ♡あぁっ♡♡」
「そう――それでいいんだよ。何も難しいことじゃない。これまで通り愛し合えば、君の体に残る傷も、顔を覆う火傷の痕も……すべて綺麗に治ってしまうんだから」

 くち♡くち♡と何度も割れ目をなぞられて、次第に腰が浮いてしまう。
 甘ったるい刺激が全身に広がって、小刻みな震えが止まらない。

「あ♡や、ぁんっ♡♡ひ――♡♡」

 トロついた割れ目はヒクヒクと開閉を繰り返して、まるで挿入をねだるようにお腹の中が熱を宿していた。
 こうなるともう抵抗なんてできるはずもなく、私は縋るようにモーリス様の方にしがみついた。

「ッふ、も……そこばっか、り……♡♡」
「あぁ、ごめんよ。ちゃんと君が感じるところも、一緒に気持ちよくしてあげる……♡」
「ぁ、ひぃっ♡♡♡ぁ、そこ、はぁっ……♡♡♡」

 それまで執拗に蜜口を弄っていた指先が、割れ目のすぐそばにある小さな尖りを押しつぶした。

「ッひ♡ぁ、あ゛ぅっ♡♡♡」
「事務的な行為をするつもりはないよ。私は君を癒すと同時に、君を愛したい。……マルグレット、顔を背けないで私の方を見て」

 ぬ゛りゅ♡くちゅっ♡♡ずり♡ずり♡しこしこしこっ♡♡♡ぷちゅっ♡♡
 モーリス様の親指と人差し指が、膨らみ切ったクリトリスをずりずりと刺激してくる。
 長く巧みな指は根元を何度も擦り上げ、その度に瞼の裏でぱちんっ♡ぱちんっ♡♡と小さな火花が弾けるのが分かった。

「お゛、ッ♡♡♡ま、まって、ぇっ♡あ♡あっ♡あッ♡♡あっ♡♡♡クリトリスだめっ♡お゛ぉっ♡♡や、それだめぇっ……♡♡」
「君はここをたくさん可愛がってもらうのが好きだろう? 今までは目が見えていなかったから、クリトリスしこしこ扱かれている時の君の顔がわからなかったけれど――ふふ、そんなに蕩けて愛らしい表情をしているんだね……♡」
「や゛、ぁあっ♡♡やら、ぁッ♡見ないで♡ひ、ぅううっ♡♡お゛ッ♡ダメ♡クリちゃんゴシゴシやめ、ぇっ……♡♡」

 堪えようとするたびに淫らな声が口からこぼれて、飲み込み切れなかった唾液が唇の端から溢れていく。
 きっと今の私は、とても浅ましい姿をしているに違いない――それなのに、モーリス様は陶然とした表情を浮かべながら何度も何度も執拗に淫核を扱いては押しつぶし、さらには溢れる淫蜜を押し込むようにおまんこへと指を突き立て始めた。

「ん゛、ぁあっ♡♡あ゛♡や、ぁあっあ♡♡りょ、りょうほ、ぉ♡♡だめ♡んぁ♡あ♡ぁんっ♡♡♡指おちんぽ♡♡♡ぢゅぽぢゅぽしないれぇっ……♡♡♡」

 まるで河川が氾濫した時のように、奥からどんどん蜜が溢れてくる。
 それをおまんこのほんの入り口でかき混ぜられると、空気を含んだその液体がぢゅぽ♡ぢゅぽ♡♡と卑猥な音を立てた。

「お゛、んんっ♡や、やめっ……ァ、あぁっ♡♡」

 何度も何度も浅い位置を刺激されて、へこへこと情けなく腰が持ち上がる。
 こんな姿を見てほしいわけじゃないのに、体はいっそ面白いほどに快感を受け取ってしまう。

「……肌の傷が、こんなに残ってしまうなんて――君は生家で、一体どんな生活をしていたんだ……?」

 昂って敏感になった肌の上を、もう片方の手がすりすりと撫でてくる。小さいものではあるが、私の体は傷だらけだ。義妹のわがままで茨の中に落ちたペンダントを拾わされたりもしたし、継母の意にそぐわない時は鞭で打たれたこともある。

「ん、ふ……♡さ、さわっちゃ、っ……」
「傷は塞がっているようだけど、もしかしてまだ痛む……?」

 醜く引きつった傷跡に視線を落としたモーリス様が、その場所にゆっくりと唇を落としていく。
 痛みはない。ただ、羞恥と快感だけを強く感じてしまう――私はふるふると首を振るのが精いっぱいで、うまく言葉を口に出すことができなかった。

「大丈夫。これもすべて治してあげる」
「んぁ、ゃっ……♡♡♡」

 ちゅ♡ちゅ♡♡と唇を傷跡に押し付けられて、その度にびくびくと体が震えてしまう。
 触れられるのは気持ちいい。だけど同時に、そんな自分の姿が彼の前に晒されているのが耐えがたかった。

「だからどうか、私のことを拒まないで。ちゃんと、自分が誰に抱かれているのかを見ているんだ」
「で、も……」
「君の痛ましい傷跡を見たくらいで、私が君を嫌うとでも? いくら精神的に不安定だったとはいえ、そこまで狭量で視野の狭い男だと思われていたのなら……少し悲しいな」

 ふ、と低く息を吐いたモーリス様が、ぐっと私の足を大きく開いたのはその時だった。

「ひ、ぁっ……♡」
「せっかくの薬の効果が消えてしまうのは惜しい。……性急で悪いけど、許してくれ」

 そう言うなり、彼は自分の下履きを緩め始めた。
 ふーっと深く息を吐きながら取り出された肉棒はとっくにその鎌首をもたげていて、二度か三度手で扱いただけでお腹につきそうなほどに反り立ってしまう。

「っ……♡♡」

 相変わらず大きくて太い――♡
 何度も見慣れているはずのおちんぽだったが、普段は私が奉仕してあげることが多かった。
 モーリス様の大きな手で扱かれているところなんて見たことがなくて、それだけで口の中に唾液がたまっていく。

「いつもは君に触れてもらっていたから、自分で触るのは少し妙な感じがする。やっぱりこう、皮膚の柔らかさが全然違うね」
「そ、そう……ですか……?」

 意見を求められても、ろくな言葉が出てこない。
 たらたらと先端から先走りを滲ませるおちんぽに、すっかり視線が釘付けになってしまっている。

(だ、だめ……♡♡こんなこと、考えちゃダメなのに……♡♡♡)

 せっかくモーリス様の目に光が戻ってきて、優しい彼はその癒しの効果を私にも分け与えようとしてくれている――それなのに、私の頭の中はもう、彼に犯されることでいっぱいになっていた。

(おちんぽ、苦しそう……♡♡いつもみたいにご奉仕しなくちゃ♡♡♡モーリス様に、もっと気持ちよくなってもらわなきゃ……♡♡)

 は、と息を吐くと、その分下腹部がずきんっ♡♡と甘く疼いた。顔を手で隠すようにしながら自らもう少しだけ足を開くと、頭上から優しい声が降ってくる。

「顔を隠すのはいただけないな……でも、少しはその気になってくれた?」
「ぅ……」
「それに、いつもはもっと君の声を聞いてるから……なんだか寂しいな」

 それは、モーリス様の目が見えていないかったからだ。
 今自分がどうなっているのかがわからないのは不安だと思ったから、その時々で何が起きているのかを伝えようとしていたけれど――正直、目が見えているならわざわざ聞く必要もないと思う。

「それ、は……その、もう見えていらっしゃるでしょう、し……」
「――でも、君の声が聞きたい。私をこの一年導いてくれたのは、この声だ」

 眉尻が下げられ、かすかに潤んだ瞳で見つめられたら強く拒絶はできない。
 どうしたものかと黙り込んでいると、軽く口を尖らせたモーリス様が勃起したおちんぽをずりずり♡♡と蜜口に擦りつけてきた。

「ぃ、ひぅっ♡♡♡」
「ほら、教えて? いつもみたいに口に出して――私にわかるように、声に出してくれ」

 ぬ゛ちゅ♡ぬ゛ちゅっ♡♡♡ずり♡ずり♡♡くちゅっ♡♡♡
 先ほど指先で何度も刺激されたその場所は、熱いおちんぽを擦りつけられてヒクヒクと物欲しそうな反応を繰り返している。
 決定打になる快感の一歩手前、焦らすような刺激を加えられた私は、もう余計なことなんて何も考えられなくなっていた。

「ぁ――あ、っ♡♡おちんぽ♡モーリス様のおちんぽ、ずりずりされて、ますぅっ……♡♡」
「どこに?」
「ッふ♡ぁ、あっ♡♡♡マルグレットのおまんこ♡♡はしたなく蜜で濡らした♡マルグレットのおまんこ、にっ……♡♡旦那様のおっきいおちんぽ、ぉっ♡♡♡」

 ぐちゅぐちゅと卑猥な音を立てながら淫裂を刺激され続けて、不随意に腰が跳ねた。気持ちよくて頭の芯が蕩けるようなこの感覚は、彼と結婚して一年がたった今でも拒むことができない。

「あ、やっぱりこっちの方がいいな。うん、君の声を聞いてると、とても安心する――」
「ん゛ぁ、っ……♡♡ぁ♡あっ♡♡モーリスさま♡待って♡まっ――ァ、あ゛♡♡♡」

 宥めるように頭を撫でられたかと思うと、円く膨らんだ先端がずぶずぶと膣内に突き立てられる。

「ぉ゛、おっ……♡♡ふ♡ふぁ、っ♡♡♡」
「すっかり私の形になってしまったね――ほら、奥まですぐに届いてしまうくらいぴったりだ」
「んぐ、ぅっ♡♡は、ぁんっ♡あ♡あっ♡♡♡はい、っちゃったぁ……♡♡」

 なんなく彼の長大な肉槍を飲み込んだおまんこは、熱を孕んでグズグズと疼いているようだった。ほんの少しモーリス様が腰を揺らしただけでも、きゅうきゅうとナカが締まるのがわかる。

「あ♡ぁ、んんっ♡♡」

 かすかな刺激すら気持ちよくて、私は顔を背けながら小さく声を上げた。相変わらず、彼の視線に自分の姿が晒されているのが耐えがたい。
 だが、モーリス様はそれを許すことなく、私が視線を逸らそうとすると強く腰を打ち付けてくる。

「ひぅッ♡あ゛♡あ゛、やぁぁッ♡♡♡」
「こっちを向いてって、何度も言ったはずだよ? 私だけを見ろ。……君の美醜など、私にはどうでもいいんだ」
「でも……でも、わたし――」

 たくさんの嘲りを受けてきた。この傷のせいで、貴族の令嬢としての生活を送るのは難しい。利用価値のない人間がどう扱われるのかなんて、モーリス様も知っているはずだ。

「君がこの傷のせいで苦しんでいるから、癒してやりたい……大体、人間としての君が不要ならばとっくに離縁を申し出ている」
「っ……ふ、ぅうっ……♡」

 ぐんっと腰を押し付けられたかと思うと、触れるだけのキスを繰り返された。小鳥の啄みのような優しいキスを何度も与えられながら、ばちゅ♡ばちゅっ♡♡とおまんこの深い場所を抉られる。

「んぁ♡あ、ぅうっ……♡♡あ♡ぁっ♡♡モーリスさま、っ……♡」
「それとも、君が私のことを嫌いになってしまったの? 目が見えて、まともに君を愛せるような男はお断り?」
「ちが、ちがいま、ぁっ♡♡」

 言葉は優しいのに、突き上げてくる強さと速度は全く優しくない。
 ぐぷぐぷっ♡♡と淫らな音を立てながら一気に腰を引かれたかと思うと、次の瞬間には思い切りおまんこの奥を穿たれた。

「はうっ♡♡あ♡ぁああっ♡♡や、ぁっ♡♡」

 ばぢゅっ♡ばぢゅっ♡♡ぬぷっ♡ごりゅ♡ごりゅっ♡♡ぐぷんっ♡♡♡
 深い場所を徹底的に穿たれて、背中が弓ぞりに反る。
 気持ちいいところを張り出した部分で擦り上げられて、目の奥がチカチカと明滅するのが分かった。

(だめ♡だめ♡♡♡これ耐えられない♡モーリス様のおちんぽで♡♡♡気持ちいいところグリグリされたら、もぉっ……♡♡)

「かわいいね――ここ、君の一番感じるところを、ちんぽの先でぐりぐり~って押してあげたら……♡♡」
「ぁ゛、あ゛ッ……♡♡だ、めぇッ♡♡ぉ゛♡これ♡これきもち、ぃっ♡♡イ、っぐぅっ……♡」
「たくさんイっていいよ。せっかく目が見えるようになったんだから、君が顔を真っ赤にして、可愛い声を上げながらイき果てるのを見てみたい……」

 大きく腰をグラインドさせ、更に弱い場所を刺激し続けるモーリス様に、私の理性はあっという間に追い詰められる――ぢゅぽぢゅぽと湿った音を立てて抽送を繰り返されるたびに、おまんこがきゅうきゅうと肉楔を締め付けた。

「ん、っ♡ふぅ♡あ♡ぁうっ、うっ……♡♡ん゛、ぁあっ♡おちんぽあつい、のぉっ……♡♡あ♡す、き♡好きぃっ♡♡♡」
「――それは、なんのこと? こうしてセックスするのが好きなの?」

 耳元で囁かれる甘い声に、ふるふると首を振る。
 苦しいくらいに愛しい、見てほしくないのにもっと見てほしい――ぐちゃぐちゃにかき混ぜられた心は、もうとっくに彼のものになっていた。

「モーリス様、ですっ♡あ♡ぁんッ♡♡だんな、さま♡好き♡だいす、きっ……♡♡」
「っ……嬉しいよ、マルグレット」

 ぐっと声を詰まらせ、絞り出すようにそう呟いたモーリス様が、よりピストンの速度を上げてくる。
 子宮口までを思い切り突き上げられた私は、自分が限界に近付いていることを理解させられた。

「んふ、ぅっ♡あ♡あ゛ッ♡ぁ♡イくっ♡イっくぅっ……♡♡♡モーリスさま♡ご、ごめんなさ♡わたしっ♡♡♡さき、にっ……♡イっちゃいます、ぅううっ♡♡♡」

 びくんっ♡と体を震わせて深イキを極めたが、モーリス様はなおも私の腰をしっかりと掴んで腰を動かしてくる――先ほどよりもゆっくりとした動きに変化したことで、イって敏感なおまんこ全体が余すところなく刺激された。

「ん゛、ォお゛ッ……♡♡うぁ♡ぁ゛、んんっ……♡ひっ♡あ♡ぁ、んんっ♡♡」
「かわいい……♡イったばっかりのおまんこ、ちんぽでゴシゴシされるの気持ちいいね……? わかる? マルグレットのおまんこの中、とっても熱くてトロトロで……♡♡イキマン全部で私のことをぎゅ~ってしてくれてる……♡」
「ッぅ、わ、わかり、まひゅ、ぅっ♡♡んぎゅ、ぅっ♡んっ♡モーリス様のおちんぽ♡ぎゅ~ってして、っ♡♡♡いっぱい♡気持ちよくなってほし、っ♡♡♡」

 モーリス様が言う通り、イったばかりのおまんこはぎゅうぎゅうと突き立てられるおちんぽを締め付ける。
 その度に頭の中で白い火花のようなものが弾けて、気持ちいいこと以外はどうでもよくなってしまう。

「は、っ♡はっ♡♡おちんぽ♡また大きくなりました、ね♡♡ぁ♡」
「ん――さすがにこれだけ締め付けられたら、限界かな……♡ちゃんと傷が治るように、全部中に出してあげるから……」

 優しい指先が、目元まで広がった火傷の痕をなぞる。
 薄い皮膚に触れるその指先の温かさに、私は今日初めてこの傷を愛しいと思うことができた。

「っふ、ぁっ……♡♡♡ちょ、だい♡せーえき♡♡モーリス様の精液全部♡マルグレットの中に♡ぜん、ぶぅ……♡♡」

 縋りつくようにモーリス様の体にしがみつくと、彼は唸るように私の名前を呼んで強く抱きしめてくれた。

「マルグレット、ッ……」

 どぴゅっ♡どぷどぷどぷっ♡♡♡びゅ~~~♡ぶぢゅっ♡びゅ♡♡
 長く時間をかけて精液をたっぷりと注ぎ込まれて、深い絶頂の波に飲み込まれる――そのまま気を失った私は、翌朝まで目覚めることがないまま昏々と眠り続けたのだった。
「マルグレット! 起きてくれ、マルグレット!」

 ――次の日、目を覚ました私の耳に飛び込んできたのは、やや焦ったような夫の声だった。
 ほんのりと鈍く痛む頭を押さえながら起き上がると、この一年で随分と見慣れた寝室の光景が広がっている。

「ぁ――モーリス、さま……?」

 ぼんやりとした心地で、昨日のことを思い出す。
 そうだ。リーファーン様がくれた薬で、モーリス様の視力が戻ったんだ――窓のそばで久しぶりに朝の光を堪能している夫に微笑みかけると、彼は大股でこちらの方に近づいてきた。

「マルグレット……あの魔女の言葉は本当だったんだな……!」
「え、えぇ。目はもうしっかりと見えているのですよね? よかった――ぁ、その……申し訳ありません。ヴェールを取っていただけますか?」

 体を起こし、ほとんど何も着ていない体にシーツを手繰り寄せながら、普段使っている黒いヴェールを探す。
 だが、モーリス様は私に、顔を隠すための薄い布ではなく手鏡を渡してきた。

「必要なのはヴェールではなくて鏡だよ。……見てごらん」
「は――」

 ……もう、何年も鏡を見ることが恐ろしかった。
 火傷で爛れた自分の肌を見つめるのが嫌で、おとぎ話の化け物のように鏡を忌み嫌っていたくらいだ。
 けれど、差し出されたものを受け取らないわけにはいかない。渋々自分の顔が映る手鏡を受け取った私は、次の瞬間ぽとりとそれを取り落としてしまった。

「傷が……ない……?」
「さすが、魔女の調合した薬だ。本当に効果があるのかと思っていたけど――君の体の傷も、すべて消えている……」

 鏡に映し出された私の顔は、まるで最初からそうだったかのようにまっさらで、引きつれも痛々しい皮膚の変色も、なにもなかった。

「こ、れは……現実?」

 思わずそう疑ってしまうほどに、きれいさっぱり傷跡が消えている。
 これがあの薬の効果――毒で見えなくなってしまったモーリス様の視力だけではなく、私の火傷痕すらも癒してしまったというのか。

「体の傷もない……本当に、こんなことが……」
「流石、国王陛下や王太子殿下が信頼を置く大魔女だ。……かねてから母上の知己と聞いていたのに、若い女の声がして驚いたが」

 体のあちこちにあった小さな傷跡もきれいさっぱり消え失せていて、私は言葉もなく自分の肌を眺めるばかりだった。

「い、いいんでしょうか……私まで、こんなに――」
「あの魔女も言っていたが、君こそがあの薬を飲んで傷を癒すべきだった。それに……これで君が、顔を見られたくないだとか言って私のことを拒むこともできなくなったわけだ」

 赤銅色の目が顔を覗き込んできて、モーリス様はそのまま私の体を押し倒してきた。素肌のまま彼に抱きしめられるが、触れ方は情事の時のそれとはまるで違う。

「夢じゃない。夢じゃないんだ……私は愛しい妻の姿を見ることができて、君はもう人目を気にしなくてもいい」

 強く抱きしめながら囁かれた言葉の最後が、少しだけ震えている。
 まさしく奇跡としか言いようがない現実を噛み締めるように、私たちはいつまでも抱き合っていたのだった。

● ● ●

「――お仕事には、もう慣れましたか?」

 二人分の吐息がシーツに絡む時間帯、ゆるく抱き合ったままで、私はそうモーリス様に尋ねた。
 視力が回復した彼は、その後二月ほどの療養期間を経てから職場である王宮での執務に復帰した。一年以上にわたって屋敷から全く出ていなかったため、最初は体力の衰えと現状の把握に時間がかかっていたらしい。

「もう問題はないかな。久しぶりに王太子殿下にお会いした時は、随分と無茶も言われたけど――あの方と君のおばあさまがいなかったら、今頃まだ私の目は見えていなかったわけだし……今度は私自身の働きで報いなければ」

 仕事に復帰した彼を見て、義両親もかなり安心しているようだった。最近では私も、よく母屋の方に顔を出して義母とのお茶にお呼ばれしている。
 大好きだった祖母の話をしたり、あるいは私自身が疎かった貴族社会の情勢を教えてもらったり――少しずつ外に出る機会も増えてきて、以前と比べると随分刺激的な毎日を過ごすことができるようになった。

「忙しいことは嫌いではないけど、その分家を空けることが多くなるのは申し訳ないな。王宮でも人手が足りてないみたいで」
「それは……その、ブリーデル様たちのことがあって、ですか?」
「それもあるけど」

 ゆるゆると、気怠い空気の中で私のことを抱きしめてくれていたモーリス様が、ふと瞼を持ち上げる。
 彼の親友たちは皆、とある病に罹って王宮での職を辞していた。
 原因不明の眼病と言われ、一時は伝染病を疑われたが――その実は、モーリス様に盛られた毒が呪い返しによって跳ね返ったのだという。

「リーファーンが言っていたように、あの薬は強力な呪い返しの魔法薬だ。彼らが……悪意をもって私に毒を持ったのならば、その報いは受けてしかるべきだろう」

 ゆったりとした口調ではあったが、そこに見え隠れする声音は苦々しい。

「それに、王宮が人手不足なのは今に始まったことじゃないよ。国王陛下も王太子殿下も、仕事しない役人はバッサリ切り捨てるし……おかげで私も、復帰早々大忙しだ」

 くすくすと笑いながら、彼はほんのりと私を抱きしめる腕に力を込めた。きっともう、かつての友人たちのことはあまり思い出したくないのかもしれない。
 そして私も――継母と義妹が、私への悪意が跳ね返って酷いことになったという話は聞いていた。詳しい内容を知ろうとは思わないが、なんでも魔女の怒りを買うようなことがあったらしい。

(リーファーン様は、おばあさまと交友があったようだし……)

 おいそれとお会いできるような方ではないのはわかっているが、いつかもう一度を言いたい。
 若かりし頃の祖母の話も、いずれまた聞くことができるだろうか。

「……マルグレット」
「は、はい?」
「君は――ここしばらく、随分と明るい表情を見せてくれるようになったね。いや、前からそうだったのかもしれないけど……君が微笑むのを見ることが増えたような気がする」

 そう言って、彼は私を抱きしめていた手をするりと動かし――やんわりとドレスの上から腿を撫でてきた。

「んっ……」
「マルグレットがたくさん笑ってくれたり、楽しい思いをしてくれるのは嬉しいんだが――でも、君の世界が広がるのは……少しだけ寂しいというか」
「さ、寂しい?」

 すりすりと腿を撫で、わずかにドレスの裾を持ち上げてきたモーリス様が、眉尻を下げてこくんと頷いた。
 ……この表情をされると、ちょっと弱い。甘えるように髪に顔を埋められると、ほとんど彼の言いなりになってしまう。

「王太子殿下が、是非奥方に会いたいから晩餐会に連れて来いって」
「そ、それは……もったいないお申し出です。その――とてもありがたいことだとは思いますが」
「あぁ、うん。殿下は結婚してるし問題はないんだけど……他人がね。人のものほど欲しがるヤツもいるから、あんまり誰かに見せたくない」

 それまたとんでもない人がいるものだとは思ったが、そこに関しては安心してもらっていいだろう。
 もとより、男性はあまり得意ではない。顔に大きな火傷痕があったことで、指を指して笑われたことも少なくはなかったし――モーリス様に毒を持った友人たちのことを聞くにつけ、余計に苦手意識が増したような気がする。

「君のことを自慢して連れ歩きたい気持ちと、誰にも見せたくない気持ちがせめぎあってる。ままならないものだね……」
「私は、その……あまり人が多いところが得意ではないので。おそばにモーリス様がいてくれた方が……」
「そう? じゃあ、あまり大きな晩餐会は避けてもらうように進言しておくよ。どちらにせよ、一度は殿下に君を会わせなくちゃいけないし」

 次期カグリアーノ公爵、そして今は王太子殿下の腹心として働くモーリス様の立場上、そればかりは仕方がないことだ。
 そこはお任せすると頷くと、すぐに顔のあちこちにキスの雨が降ってくる。

「助かるよ。あとのことは全部こちらでなんとかするから、君は心の準備だけをしておいて」

 そう言いながら、彼は私の瞼に唇を落とした。
 もう傷跡も、引きつった爛れもない滑らかな肌――そこにモーリス様の体温を感じて、体が小さく震える。
 優しい指先でドレスを紐解かれると、後は二人でシーツの海に沈んでいくだけだった。
「あ゛、んぁあっ♡ゃ、あっ♡あっ、んんっ♡♡♡」

 ばぢゅっ♡♡ぐぷ♡ぐぷっ♡ずりゅ♡ずりゅぅっ♡♡♡ぬ゛ぱっ♡♡♡
 湿った音と一緒に、肌と肌がぶつかる音が聞こえてくる。甘くて白い靄に頭の中を支配されながら、私はぎゅっとクッションに顔を埋めた。突き上げられるたびにいやらしい声が漏れるが、どうしても我慢できない。
 後ろへお尻を突き出すような体勢を取った私の上にのしかかり、モーリス様が何度も腰を動かしてくる。

「ふ、ぅうっ……♡♡♡んぐ、っ♡ぅ♡♡」
「マルグレット、声を我慢しないで――顔が見えないんだから、せめて君の声だけは聞かせてもらわないと」
「ら、って、ぇっ♡あ゛♡そこだめ、ぇっ……♡♡♡おちんぽ擦れてる、っ♡♡♡」

 背後からぐっと体重をかけられて、普段とは違う角度で悦い場所を擦り上げられる――しばしの戯れの後で思いきり腰を打ち付けられた私は、下腹部からぞくぞくとせりあがってくる快感に耐えるので精いっぱいだった。

「ンぅ♡ふ、むっ……♡♡」
「こら、顔押し付けたら苦しいから……顎を上げて――ちゃんと、呼吸をしないと、っ♡」
「ッひ♡あ゛、あっ♡あっ♡♡♡待っ――ん、ゃあっ♡♡♡」

 咎める声に合わせて指先で顎を持ち上げられたかと思うと、さらに強く膣奥をノックされた。
 呼吸をしようと開いた唇からは淫らな声がこぼれて、自分の声に反応しておまんこがギュッと締まる。

「ん、ふぅっ……♡♡や、ぁあっ♡声、やだっ……♡♡」
「なんで? 可愛いと思うんだけどな――」

 そう言いながら、モーリス様はぐりゅっ♡♡と蜜壺の中におちんぽをねじ込んでくる。いつもは向き合って体を重ねることが多いから、背後から犯される感覚は新鮮そのものだ。
 気持ちいいところを思い切りぐりぐりと刺激されて、全身の毛穴から汗が吹き出してくる。

「ぁ♡♡あっ♡ん、ぁ♡♡そこ、きもち、ぃっ……♡」
「大好きなところだよね? いつもとちょっと違う感じで突かれるのも悦いと思うけど……どうだろう?」

 ぱんっ♡ぱんっ♡♡ぐぷぐぷぐぷっ♡♡♡ずちゅ♡ぐぽ♡ぐぽっ♡♡♡
 リズミカルに腰を打ち付けられて、弱点を的確に突き上げられる。
 蜜にぬかるんだ膣穴は媚びるようにして収斂を繰り返し、長大な剛直をいじらしく締めあげていた。

「それとも、マルグレットはこうして……ゆっくりおまんこズリズリされる方が好きかな? ね、どっちがいい?」
「ン、ッお゛……♡♡♡お゛、ッ♡♡」

 それまである程度の感覚を刻んで繰り返されていた抽送が、突如速度を落とした。
 ぬ゛~~♡♡とゆっくりおちんぽを引き抜かれたかと思うと、またゆっくりとおまんこの奥が押し広げられる。

「ひ、ゃっ……♡♡あ゛、ぁぁっ♡じ、焦らしちゃ、やっ……♡♡ぁう、っ♡ふ♡♡ぅうっ……♡♡♡」

 力強くおまんこを突き上げられるのも気持ちいいが、後ろから犯されている状況だとまるで感じ方が変わってくる。
 私のナカにおちんぽの形を馴染ませ、その大きさをより実感させるような緩慢な動きに、シーツを掴む両手がぶるぶると震えた。

(あ、たま♡パチパチしてくるっ……♡♡♡ゆっくりおちんぽ動かされて♡気持ちいいの長く続くのだめ♡♡これ、っ♡ハマったらダメになる♡♡♡癖になっちゃうっ……♡♡♡)

 鮮烈な快感が何度も訪れるのではなく、もどかしいほどの速度でゆっくりと喜悦がせりあがる。
 緩慢に全身を絡め取られるような感覚に陥って、私はいつの間にかゆるゆると自らの腰を揺さぶってしまっていた。

「ん、はぁっ……♡あ♡んんっ……♡♡そ、こぉっ♡もっと♡♡♡んっ……♡♡」
「あれ、私の動きじゃ満足できない? 激しい方がいいのかな」
「わか、りませっ……ぁ♡で、でもっ♡♡♡これ♡ゆっくり動かれたら、おかしくなりそ、っ……♡♡♡」

 ずっと気持ちいいのが続いて、快感から抜け出せなくなる。
 それならばいっそ、激しく犯しぬかれる方がマシかもしれない。延々と続くおぼろげな愉悦は、長く続けば続くほど体を焦がしてくる。

「ん、っ……♡♡ふ、ぁあっ♡♡や♡モーリスさま、っ♡♡♡やだ♡動いてぇっ……♡♡」

 だが、より強い刺激を求めて腰を動かすと、今度はモーリス様がその抽送を止めてしまう。
 体にまるで力が入っていない私では、いかに腰を振ったところで決定的な快感は得られなかった。

「んぁ♡あ、ぁっ……♡♡や♡おねが、っ♡♡♡ッふ、おまんこつらいぃ……♡♡」

 にゅぷ♡にゅぷ♡♡と小さな音だけが部屋に響くが、彼は一向に動いてはくれない。むしろ、淫らに腰を振りながら快感を求める私の姿を眺めること自体を楽しんでいる様子で、背後を振り向くとひたすら上機嫌そうな様子の彼と視線がかち合った。

「い、いじわるしないでください……♡♡」
「だって、必死に腰振って気持ちよくなろうとしてるマルグレットが可愛くて」

 赤銅色の目を細めて笑うモーリス様は、なおも動きを再開してはくれなかった。艶めかしい手つきでお尻を撫でまわしながら、ただ私の痴態を見守っているだけだ。

「ッ、……♡♡ん、やぁっ♡♡う、うごい、て♡♡ぉ゛、ッ……♡♡」

 もっと気持ちよくなりたいのに、あと一手が与えられない。
 そんなもどかしさと、腰を動かしたときにかすかに生まれる愉悦が入り混じって、次第に訳が分からなくなってくる。
 快感を追い求めるだけの動きは徐々に激しくなっていくが、やっぱり自分で動いただけではイくこともできない。

「ん、ぅうっ♡♡ぁ♡や、ぁあっ……♡♡」
「珍しいね、そんな風に一生懸命になるの……可愛いからこのまま眺めてようと思ったけど、どうしようかな」

 頬にかかる金髪を軽くかき上げたモーリス様は、そう言うとぐにっ♡とお尻を揉む手に力を加えてきた。
 柔肉に指先が食い込むほどに力を籠められ、その感覚だけで全身に電流が流れたような心地を覚える。

「んあァッ……♡♡」
「普段とちょっと違うことすると、君は大胆になるんだね……ね、マルグレット。私も動いた方がいいかな?」
「は、っ……♡♡は、いっ♡動いて♡♡♡は、はやくっ♡おまんこズポズポしてくださいぃ……♡♡もう、限界で、っ♡♡」

 きゅうぅ♡とおまんこが収斂して、更に動きを乞う。
 そうすることでようやくモーリス様は、見る者すべてを虜にしそうなほどに美しい笑みを浮かべて口を開いた。

「もうちょっとおねだり頑張って♡ちゃんとできたら、イくまでおまんこズポズポってしてあげるから」
「は、っ……」

 ――時々、旦那様はちょっと意地悪なのではないかと思う時がある。
 いつもはとても優しくて、些細なことでも私が不便に思わないようにと心を砕いてくれるのに……こんな時だけは、なぜだか私の言うことを聞いてくれない。

「お、おねだり、って……」

 どちらにせよ、もう限界は近い。
 イきたいのにイかせてもらえなくて、さっきから体がガクガク震えて止まらないほどだ。みっちりとおちんぽを咥えこんだ蜜口からも、まるで涎のように蜜液がこぼれ落ちている。

「ぅ、っ……♡♡動いてっ、くださ、ぁっ♡♡♡マルグレットの♡イきたくて仕方がなくなってるえっちなおまんこ♡モーリス様のおちんぽで♡いっぱいパコパコして、ぇっ♡♡♡イ、イかせてください♡♡いつもみたいにびゅ~って精液出して♡♡おなかいっぱいになるまで種付けして、ほしい……です……♡♡♡」
「ン、射精もしてほしいんだ?」
「は、ぃ……♡♡♡こってりドロドロのせーえき、で♡子宮いっぱいにしていただきたいです……♡♡いっぱいおまんこ締めて頑張りますから♡♡旦那様ザーメン♡全部お腹の中に注いでください……♡♡♡」

 誘われるままに卑猥な言葉を口にしても、咎める者は誰もいない。
 そこまで言ってようやく満足してくれたのか、モーリス様は笑顔を浮かべたままでそっと私の両腕を掴んできた。

「ん、っ♡♡」
「そこまで言われたら、さすがにこのまま見てるだけってのもできないね。えっちなおねだり、上手になってきたみたいで嬉しいよ」
「ゃ、あぁぁっっ♡♡♡」

 ――ば、ぢゅっンっ♡♡
 ずりゅ♡と一度腰を引かれたかと思うと、勢いよく子宮口を突き上げられる――♡♡
 一瞬だけ呼吸が止まって、次の瞬間一気に膨れ上がった快感が頭の中を焼焦がしてきた。

「ンぁ゛ッ♡ぁ゛♡や、ぁぁっ♡♡イ、っ……♡♡」
「う、わ……まんこビクビクしっぱなし♡ようやくイけたんだね……♡♡」
「ッ~~~♡♡ン、ぉぉ゛、っ♡♡♡」

 ろくな言葉も出せず、ようやく与えられた快感に溺れて絶頂を極める私の腕を掴みながら、彼は何度も何度も重たいピストンを繰り返した。

「ん、ぐぅッ♡ぉ゛♡お゛、っほぉっ……♡♡ぁ゛♡あ、んんっ♡♡♡」

 ぢゅぽ♡ぢゅぽ♡♡ばちゅばちゅばちゅっ♡♡♡ぐぢゅ♡♡ぬ゛ぱ♡ぐぷんっ♡♡♡
 深いところを力強く抉られて、その度にイかされるような気分だ。低く呻くような声はクッションに吸い込まれ、唇の端からこぼれた唾液を拭うこともできないくらいに気持ちいい。

「お゛♡ぉお゛ッ♡♡すき♡これっ……♡♡♡頭真っ白になる♡ぁ゛♡おまんこ気持ちいいのいっぱい♡♡♡いっぱいクる、ぅうっ♡♡♡」
「ん、っ……♡♡我慢した分、たくさん気持ちよくなっていいよ――おまんこぎゅーってしながら、いっぱいイこうね……♡♡」

 腕を掴まれながら、背後から思い切り腰を打ち付けられる。
 体の自由が利かない体勢は、まるで無理矢理彼に支配されているみたいで――それなのに頭上から降り注ぐ声はどこまでも優しいから、訳が分からなくなる。

(イ、くっ♡イってる♡♡♡おまんこずーっときゅんきゅんってして♡♡幸せなの止まんないの、っ……♡♡気持ちいい♡しあわせ♡♡♡しあわせ、っ♡♡)

 こんなに幸せだなんて、いつか罰が当たってしまうんじゃないか。
 そう思えてしまうほど、ぐぽぐぽ♡と最奥を突かれる多幸感は絶大だった。いっそのこと、今この瞬間に命が絶えてもいいとさえ思える。

「お゛、ッ♡♡♡んぁ♡あ、あぁっイく、ぅっ……♡♡」

 ぐぽ♡ぐぽ♡♡と湿った音を立てておまんこが掘削されて、腰ががくっ♡がくっ♡♡と大きく揺れる。
 モーリス様も徐々に限界が近づいているのか、背後から聞こえる呼吸がどんどん荒く変わっていっていた。

「ッふ♡♡お♡お゛、ッ♡♡♡イく、ぅっ♡あ♡♡イく♡イっくぅっ……♡♡♡」

 ずりゅっ♡♡と亀頭が最奥を突き上げた瞬間に、これまで堪えていたものが一気に吹き上がる――♡
 身を灼くほどの快感に打ち震えながら、こわばらせた体をガクガクと震わせて絶頂を極めた。到底一瞬でその愉悦から戻ってくることはできずに、うねる大きな波の中に放り出されたような心地になる。

「ッは♡♡♡ぁ゛♡ぁ、んんっ……♡♡」
「――マルグレット、っ……♡♡もう、私も、っ……♡君が言う通り、すべて中に吐き出すから――こぼさずに受け止めてくれ、っ……♡」
「っぁ♡♡あ、んんっ~~~♡♡♡」

 ばぢゅっ♡♡♡と思い切り奥を突かれたかと思った瞬間、堰を切ったかのように白い濁流が押し寄せる。

「んふ♡ぁ♡あ、ぁぁッ……♡♡せーえき出て、っ……♡♡ん♡ぁあっ♡♡♡」

 びゅぷっ♡♡♡ぶぢゅっ♡♡びゅびゅ~~~っ♡♡びゅるっ♡♡♡びゅっ♡
 しっかりと腰を押さえつけられながら大量の精液を注ぎこまれた私は、その熱さだけで再びイかされてしまった。
 モーリス様の手から力が抜けるとがくがくがくっ♡♡♡と腰が震えてしまって、その動きで熱を失ったおちんぽが抜け落ちる。

「ぁあ、ぁっ……♡♡は、ッ♡はーっ♡♡♡はーっ……♡♡♡」

 しばらく経ってもなかなか余韻が抜けきらない私は、声もなくクッションに突っ伏したまま、ぐったりと四肢を弛緩させた。お尻だけを突き出した体勢は自分でもなかなかとんでもない格好だとは思ったが、もう指先一本すらまともに動かせそうもない。

「……マルグレット? もしかして気絶しちゃった?」
「い、いえ……起きて、は――いますが……」

 けほ、と一度咳き込んで、なんとか声だけで返事をする。
 あまりにも動かなかったため、心配をさせてしまったようだ。

「そう、ならよかった……ふふ、かわいくイけたね……♡」

 モーリス様に優しく体の向きを変えられて、そこでようやくゆっくりと呼吸をすることができた。
 それでも体は気怠いままで、吐き出された精液がお腹の奥から逆流してくる感覚がわかる。

「い、いつもより気持ちよくて……でもさすがにもう……」

 もう限界です、と言おうとした途端、モーリス様の長い指先がその言葉を阻んだ。唇に指を押し当てられて、金色の髪を揺らした夫が華やかに笑う。

「でも足りないな。もっともっと、君が美しく喘ぐところが見たいから――もう一度だけ、私に付き合ってくれるよね?」
「……え?」

 流石に無理です、体力が持ちません――そんな私の悲鳴を封殺するようにキスをされて、逃げられない。
 結局私は、朝日が昇って声が枯れるまで、彼の腕から逃げ出すことはできないのであった。